邂逅 - 3
神宮高校のコロシアムは日本で最も有名な建造物だ。
設計者は世界的デザイナーの一人。採用された設計技術や建築技巧は、
その中央に立つ
「……まぁ、ここまでは予想通りの展開か」
盛大に喧嘩を売り、男女ともに一人ずつ釣れた。あれほど入学式終了直後は騒がしかったというのに、蓋を開けてみれば拍子抜けするような
他は以外にも冷静に様子見ときたのだから腹の底は意外にも冷静なのか、あるいは腰抜けが多いのか。
なんにせよ、大多数の同級生たちは、勢い先んじた二人を人柱にして狩神の実力を測ろうと、そういう
いまはその人柱たちが控え室から出てくるまでのわずかな待機時間。
「……あ、あの……本当に、模擬戦なんか、やるんですか……?」
「巻き込んじゃって悪いけど、これで中止にしたらエントリーしてくれた二人も怒るだろうし、俺だって尻尾巻いて逃げたなんて思われたくはないからな」
「こんな……人のいる、前で……」
場の流れで審判を引き受けた州欧が、びっしりと詰まった満員御礼の観客席を見渡しては身を縮ませる。
入学式当日は授業もない。本来ならばクラス別でホームルームが行われるのだが、今年は違う。新入生首席が周到に用意したイベントに誰もが夢中だった。
「大盛況でなによりだ」
「…………なんか、全然落ち着かない。私、緊張で、吐きそう……」
「そういう割には快く審判を引き受けてくれて助かったよ。つうか緊張しいなら普通は引き受けないと思うけど……」
「万一なにかあれば、すぐに手当もできるかな、って思って……、自分が戦うのは苦手なんだけど、治癒は、自信あるから……」
「そいつは珍しい」
「そうかも。私、自分以外に出会ったこと、ないし……」
争いごとは苦手らしいが、なるほどどうして肝が据わっているらしい。
つい先程だって狩神が散々に煽り散らしたというのに、まるで気にした素振りもなく、顔色一つ変えずに接してくる。響いていないように見えるのは、純粋な力のベクトルや希少価値が違うからだろうか。
確かに治癒系ともなれば、職には一生困ることはない。世界各国から引く手
「あ、準備、終わったみたい……」
州欧の声で入場口へ視線を戻すと、安売りした喧嘩を買い付けた二人がやってきた。
先陣をきってやってきたのは明るい茶髪の長身
狩神に対峙するや否や、真紅の
「おう、首席。最初は僕とやれ。それでこのつまらねぇイベントはお終いだ」
「そっちの……あんたはいいのか?」
威勢のいいイケメンから目を逸らした狩神が炎色髪の女生徒に尋ねる。
「いいわ。別にあたしはあんたが無様な姿を見せてくれればそれで満足だし」
女生徒は狩神を
「そうかい。だったらさっさと始めるか。で、トップバッター、名前は?」
「
狩神の
「きみを潰す男の名だ。しっかり覚えておきな」
「そ、それじゃあ、自己紹介も終わったところで……、あの……――」
「
「あ、はい。不破さんは一旦、安全な場所で、待機、していてください」
「……なら、戦闘が終わったら呼んで」
それだけ言い残し、不破が控え室へと戻っていく。
「……ええと、それじゃあ、安全が確保できたので、二人は位置についてください」
狩神と戦場は互いに距離を取り、向き合った刹那、同時に唱える。
「「――神格開放」」
二人が同時に、虚空から武器を取り出した。
狩神の手に収まる柄の先には、刃渡り一メートルを超える無骨な大鎌。
戦場の右手には豪奢に飾り付けられた斧、そして左手には螺旋を描いた槍が一条。
それを見て、狩神は訝しげな視線を向ける。
「……槍と、斧。武器に見覚えはない。となれば、神話から引用ができていないか、開放率が閾値に達していないか。あるいはまだ完全に開放しきっていないか……」
「なにぶつぶつ言ってやがる。武器を構えろよ、首席」
「……となれば、どうする。真正面から受けてみるか……?」
「話聞いてんのかよ、おいっ!」
「いや……、やはりここは様子を見るのがいいか……」
「審判っ! さっさと合図しろ!」
呼びかけに反応しない狩神への苛立ちを露わにしながら、戦場が州欧へ命令する。
「あ、あのっ! 黒乃くん、準備はいいですか?」
「えっ? あ、ああ、悪い。いつでもいいぞ」
州欧の叫びでようやく我に返った狩神がそう返し。
「で、では……勝負、はじめっ!」
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