虚言癖くんの本当の気持ち①


「そうだよ、それでスペインに行ったあと、ちょっとフランスにも寄ってさ~」


「フランスかあ、この前エッフェル塔見たんでしょ?」


「そうだね、だからねえ、今回はベルサイユ宮殿見てきたんだよ」


「えー、いいなあ・・・」


「いつか一緒に行けるといいねえ。


ところで松浦さん、今日はこのあと空いてる?」


石川くんと付き合い始めてもう少しで1ヶ月。

こうやって、たまに放課後デートに誘われることもある。

・・・むふ、嬉しい。


「今日はごめん、予定があるから」


でも!

誘われるんですけれども!

予定が合わないのです。

私と石川くんは、びっくりするほど予定が合わない。

だから、放課後の図書室でお喋りするときくらいしか石川くんとのコミュニケーションの場がない。

付き合った日に一緒に近くの大きめの公園を歩いたことが最初で最後のデートとなってしまっている。

幸いにも(?)図書室にはほとんど人が来ないから図書委員やってるときはほぼずっと話せるし、学校の最寄り駅までもふたりで帰っているから毎日1時間半以上は話せるんだけど、足りない!

足りないですっ!!!

それにね、図書室では付き合う前からの延長なのか、石川くんとの作り話大会みたいになっちゃってまして、普通のお話ができないんです!

いや、いいんだけどね?楽しいんだけどね?やっぱり、普通のことも話したいじゃん!

作り話大会は、意外とストレス発散になってとても良いんですけれども。

きっと、石川くんもストレス発散になっているはずだし。

付き合った日にデートしたときは、びっくりするほど石川くんは普通の話をしてくれたんです。

だからね、図書室以外の場所で話せば普通の話はできると思うんですよ。

あの、勘違いしないで頂きたいのはですね、石川くんと作り話大会も好きなんです、私。

要するに、放課後デートをしたいっ!!!


それに、付き合う前となんにも変わらないんです。

私は石川くんのことどんどん好きになる一方なのに、石川くんは本当に私に恋愛感情があるのか心配。


それからそれからですね、

石川くん、私と付き合ってから私以外には嘘というか作り話を披露しなくなったんですよ。

突然どうしたのか聞いてみたけど、なんか誤魔化されちゃったんだよね。

なんでだろう。

まあ、それだけならいいんです。

それだけなら!

石川くん、虚言癖があることを除けばめちゃくちゃ好青年なんですよ。(私は虚言癖があっても石川くんは好青年だと思ってるけどね!)

前にも言ったと思うけどね?

すっごく優しくて親切なんです。

だから、

だから、

だからああああああああっ!

女の子たちも、ちょっとずつ石川くんと話すようになってきたんです。

最初はね、石川くんとクラスで話す人が少しずつでてきて良かったな、なんて思ってたんだけど!!

石川くんに友達ができることは喜ばしいのに!

素直に喜べない。

男の子と話してるのを見てももちろん何も思いませんけどね?

女の子と話してるのを見ちゃうとね・・・。

こんなことで嫉妬してどうするんだって感じですよね・・・ははは。

でも、どうしても妬いちゃうんです。

今まで、石川くんと話す女子なんて私だけだったから。

ちなみに、私と石川くんが付き合ってることは誰も知らないです。

うわあああああああ。

私、べつに綺麗でも可愛くもないからいつ石川くんが他の女の子のところに行っちゃうかヒヤヒヤなんです。

はあ。

まだ1ヶ月しか経ってないのにな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



帰りのホームルーム後。


あーあ、今日も石川くんと放課後の予定合わないんだろうな、なんて思いながら図書室に向かう。

帰りのホームルーム後は、掃除やらでなんやかんや忙しいので石川くんと一緒に教室を出て図書室に行くことはないんです。

どっちがいつも先に来てる、とかはないかな。

半々くらいですね。


ガラガラと図書室のドアを開ける。

あ、今日は石川くんが先だったか~、ってんんん!?!?!?

えっ、誰?

図書委員の居場所である貸し出しカウンターに人が座ってたからてっきり石川くんかと思ったけれど、どうやら違う。

ふたりいる時点で違う。

それに、ふたりとも女子だ。

加えて、司書の先生もいる。

えっ、何が起きてるんですかね?

私が入り口で突っ立っていると司書の先生が寄ってきた。

「松浦さん、今までごめんなさいね。

放課後の図書室を図書委員にすっかり任せっきりにしちゃってたから、あなたたちふたりが常にやってるなんて思ってなくて。

ごめんねえ。

石川くんが今日言いに来てくれて助かったわあ。

だから、あなたたちとうぶん、当番やらなくていいからね。

ありがとうねえ。」


・・・えっ、石川くんがそんなことを?

いつも自分達でやってるから他のクラスにもやらせろと司書の先生に言ったってことですよね?


「そ、そうなんですか・・・、

失礼しました・・・。」


扉を閉めて廊下に出てとりあえず深呼吸した。

石川くん、やっぱり私のことなんて嫌になったのかな。

私ともう図書委員やりたくないってこと?

なにそれ、もう石川くんとほとんど話せなくなっちゃうじゃん。

そうだよ、石川くんは本来すっごく優しくて思いやりがある人なんだもん。

私なんかよりずっといい人がいる。

今まで女の子と話さなかったせいで恋愛とか興味なかったのかもしれないけど、最近話し始めて自分の好みのタイプとかがわかってきたのかも。

ううん、もしかしたらすでに好きな人ができたのかも。

私なんてなんの魅力もない。

顔だって普通以下だしスタイルだって良くないし愛嬌だってない。

石川くんの作り話に付き合ってられることくらいしか石川くんにとっての私と付き合うメリットなんてなかったんだ。

確かに、1ヶ月前は私のこと好きって思ってくれてたかもしれない。

でも、少しだけより多くの世界(というより女子)を知った今なら、私じゃない他の誰かに気が移ったとしてもヘンじゃない。

・・・悔しいし、嫌だけれど。


しょうがないか、振られるのも時間の問題だ・・・。

そのまま下駄箱で靴をはきかえ、外に出る。

いつもよりうんと明るい空。

いつも学校を出るときはだいぶ暗いのに、綺麗な澄んだ青い空が広がっている。

ふいに鼻の奥がツンとして、いけないいけない、と頭をふる。

今は考えるな、私。

家に帰るまで考えるな、ほかのことを考えろ。

必死に石川くん以外のことを考えようとしても頭のなかに浮かんでくるのは石川くんとした会話ばかりで。

うう、思ってたより私、石川くんのこと好きなんだなあ、なんて思って悲しくなる。


いつもより重い足取りで校門に向かって歩いていたら、

「松浦さん!!!」


「石川、くん・・・?」


振り返れば、息を切らして走ってくる石川くんがいた。

・・・振られるのかな。


「松浦さん、ごめん!

急に先生に仕事頼まれちゃって。


って松浦さん、どうしたの?

なにかあった?

すごく、顔色悪いけど・・・」


「えっ、いや、なにもない、けど・・・」


「なにもなくない。

僕には言いたくないことなら言わなくていいけど。

もしかして、誰かに悪口とか言われた?

僕と付き合ってるから、っていう理由とかで・・・」


本当にどうしたの、と怪訝そうな顔をしてわたしを覗きこむ。


「・・・図書委員」


なんと言えばいいのかわからなくて途中で言葉が途切れる。


「あっ、図書委員ね。

司書の先生に今日の朝、当番がちゃんと回ってないから他のクラスにも回してくれってお願いしたんだ。

ごめん、言うの遅くなって。

図書室まで行ったんだよね?

ごめん、クラスだとなかなか松浦さんに話しかけるタイミングが掴めなくて」


「なんで?

どうして?

私と図書委員やるの、嫌だった?」


石川くんの口調からは、とても私をこれから振るような感じは伝わってこなかったけれど、どうして今更になって図書委員の仕事回してくれなんてお願いしたのかわからない。

私は、石川くんと図書室で過ごす時間が好きだったのに。


「えっ、違う、違うよ!

そんなんじゃなくて!

ほら、いつも松浦さんと予定合わなくてどこにも行けてないでしょ?

図書委員やらなければ、その時間に松浦さんとどこか出掛けられるかなって。

ごめんね、もしかして、それで元気なかった?」


なにそれ、なにそれ、なにそれ!

もう、私のばか!

というかもっと好きになっちゃうじゃん、

石川くんもばかぁ!


「・・・安心した。

もう、石川くんのばか!

振られるのかもってびくびくしてたんだからね!

もうばかぁ!」


石川くんはなにも悪くないのに(というかむしろ良いことしかしてない)、なんだか悔しくて石川くんの腕をぺちぺちと叩く。


「ふ、振られるのかもって、

ちょ、そんなわけないじゃん!

振られるなら僕の方でしょ。

えっ、というかなんで?逆になんでそう思った?」


意味がわからないというように頭の上にはてなマークをいっぱい並べている石川くん。


「だって石川くん、すごく優しいし私なんかじゃ釣り合わないもん!

石川くん、最近はクラスの女の子とも話すようになってきたから、そろそろ私じゃなくて他の人のこと好きになってもおかしくないじゃん。

そうじゃなくっても、告白のひとつやふたつされててもおかしくないじゃん。」


うわあ、なんだか重い女って感じがプンプン出てしまった。


「・・・なにその理由。

そんなことない。

逆に、僕には松浦さんなんてもったいないくらいだよ。

嫌われ者の僕とお喋りしてくれるし話だって聞いてくれる。

それにね、この先僕が誰かとどれだけ仲良くなったとしても、1番大切なのは松浦さんだよ。

僕と話すの楽しいって言ってくれて、つまらないことも話していいよって言ってくれて。

おまけに、僕も松浦さんと話すのすごく好き。もちろん松浦さんのことも好き。

今もこれからも、それは変わらないよ。」


ここ何日かの悩みが一気に吹っ飛ぶと同時に、あまりにもストレートな言葉をかけられてこっ恥ずかしくなってきた。


「ありが、とう、石川くん」


やっとしぼりだした声はすごくちっちゃくて石川くんに届いたかわからなかった。


「うん、心配することないよ。

でももし心配になったら、僕に直接聞いてよ。

そしたら、いつだって僕はきっと、松浦さんのこと大好きだよって言うと思うからさ。」


「うん。」


待って、石川くんていつからこんなにイケメンだったっけ!?

ちょっとついていけない!

心臓がばくんばくんしすぎてむり、ダメ。


「じゃあ、どこ行こうか?行きたいところある?」


「ま、待って」

歩き出そうとする石川くんの腕をつかむ。


「ん?」

たった1音なのに、その石川くんの声はとっても優しくて心地よく耳を撫でる。


「わ、私も、大好きだからね!

・・・ふ、振られるなら自分だとか思っちゃダメだからねっ!

っ、わかった?」


恥ずかしくて石川くんの顔をまともに見ることすらできない。

それに、なんだこの可愛いげのない言い方は。


「っ、不意打ちはずるすぎるから。

ほ、ほら、はやく行くよ!」


「ちょ、ちょ、待ってってば、

歩くの早すぎ!」


私の腕をつかんでずんずん歩く石川くん。

その背中は、とても頼もしかった。


うふふ、大好きだよ!



           (おしまい)




(おまけ)



「ね、なんで最近、あの、その、世界を旅しなくなったの?(いちおう、遠回しな言い方をしてみた)」


「えっ?

・・・松浦さんといて、毎日が楽しいからだよ。

外国行ってる想像なんかと比べ物にならないくらいね。

松浦さんのおかげで嘘つかなくてすむようになったんだ。

本当にありがとね。

あ、図書室では言っちゃってるけど・・・、いや、なんかその!

松浦さんも話に乗ってくれるしそれはそれですごく楽しくて。

ご、ごめん、さすがに嫌だった?」


「い、嫌じゃないです、全然嫌じゃないです・・・、

ちょ、こっち見ないで!!

は、恥ずかしいから!」

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