襲撃事件の真相3
「うにゃぁっっっ!!!!」
ユウナの細い腕が物凄い速さで振りかぶられ、軌道上の空気を強引に巻き込みながら、一直線にアーガルドの胸板めがけて振り下ろされた。
刹那遅れて圧縮された空気が唸り、打撃の衝撃がアーガルドの胸を貫通し走り抜ける。
極限の速さで動く戦士たちにとって、空気は水中の水塊のように重く纏わりつく壁となる。プールの中で全力疾走をするように、速ければ速いほど、その重さは絡みつく鎖となって戦士の体の動きを奪う。
常人であればその『圧』に耐えることすらできないスピードで繰り出されたユウナの一閃が、アーガルドへと突き刺さった。
ボゴォッッ!! ゴゥウンン!!
あまりの速さに音速がついてゆけず、映像と音声がずれた動画のように、音だけがおいてけぼりになる。
そして、ようやく音が現実に追いついたときには、少女の腕は肘近くまで深々とアーガルドの胸に突き刺さり静止していた。
「あちゃ〜w マジ硬ってぇっw」
ユウナが、顔を返り血で真っ赤に染まりながら、ウシシと笑った。
「な゛ぁっっ!!!??」
自らの胸に大きく穿かれた穴を驚愕の表情で見つめながら、アーガルドが口から大量の血を吐瀉する。
おそらく『なんじゃこりゃ〜〜〜!!』のひとつでも叫びたいところなのだろうが、気管支いっぱいにつまった血液が邪魔でセリフを発することすらできなかった。
ユウナは壁のように分厚いアーガルドの胸から腕を引き抜と、くるりと空中で一回転しながら、足音もなく後方の地面へと着地した。
アーガルドの胸から血液の飛沫が、ジャックポットが当たったコインゲームのように豪快に撒き散らされる。
そして、その場でガクリと膝を着くアーガルド。
「ったくww どんだけ硬くて丈夫な心臓なんだよww」
軽くなってしまった右手をグルグル回すユウナ。
「ウチの大事な『腕』、持ってきやがって……」
余裕ぶってはいるが彼女の右腕は肘から先が、硬いアーガルドの胸板と心臓に粉砕され、千切れてなくなってしまっていた。
「胸板で人の腕潰すとか、キン肉○ンのサンシャイン呪いのローラーかよww」
傷ついても蘇生再生できる体とはいえ、勇者とて傷つけば人並み通りに痛みを感じる。
軽口を叩き余裕ぶってはいるが、ユウナの額には右腕を失った激痛で、玉の様な汗がいくつも浮かび上がっていた。
すでにユウナの頭上の体力ゲージも、3分の1が減ってしまっていた。
「……やっぱ、武器あった方がいいかぁ〜」
振り回している間にもユウナの右腕は、光の粒子を纏いながら再生し元どおりに戻っていた。
そして、再生したばかりの真っ白な右手で足元に落ちていた少年勇者の剣を拾う。
ズチャ……。
それは父ザックからのお下がりの、伝説の剣『エクスカリバー(当たり付き!)』だった。
まだ当たったところを見たことはないが、当たりが出るともう一本貰えるという伝説の剣だ。
かつて少年勇者の父ザックが使っていたという業物の長剣……。
…遠い神々の時代に創られたという、伝説の剣のうちの一振りだった。
かなり古びてはいるが切れ味はいまだ抜群で、握りの肢のところに大きく『ザック』とマジックで書かれていたが、現在はその上から斜線が上書きされ名前が消されていた。
「本当に、千切れた腕が蘇生するとは………」
初めて目にする勇者の再生能力に、サイファーが驚きの声をあげる。
治癒魔法で傷口を塞いで傷ついた組織細胞を再生することはできても、失ってしまった手足までは再生できない。
治癒魔法はあくまで、肉体の再生能力を極限まで高めてくれる働きしかできないのだ。
それは、高い魔力を宿した魔族といえども同じだった。
「グゾ野郎!!ブッゴ殺ジでやるっ!!!!」
喋るたびに口から血糊を元気に撒き散らしながら、アーガルドが立ち上がり剣を構える。
目には怒りの炎を燃やし、完全に冷静さを失っていた。
「はぁ!?先にケンカふっかけてきたのはそっちっしょ!!??」
負けずに『あ゛ぁ!?』とオラつくユウナ。
お互いにズンズンと歩み寄り、キスするんじゃねぇ?って位の至近距離でメンチを斬り合うユウナとアーガルド。
ブッチン!!…と何かがブチキレる音がした。
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