襲撃事件の真相1

「へへっ!悪く思うな勇者よ!

 俺の嫁は美人なうえに料理まで得意なんだ!!勝つのは俺だぁっっ!!!」


魔界の四天王・アーガルドは、自分の身の丈ほどもある巨大な大剣を振り回し、勇者のユウくんを一撃で吹き飛ばした。


「くっっ!!!??」

すんでのところで剣で防御したものの、まるで筋肉増強剤でドーピングしたゴリラに利き腕で薙ぎ払われたような強烈な衝撃に、小柄なユウくんの体は大きく吹き飛ばされる。

そして、バックホームへと返球されるプロ野球のボールのように、手前でワンバウンドし大木の幹へと激突した。


「がはぁっっ!!??」

まるで黒曜石のように真っ黒で硬質な巨大な杉の木の樹皮に背中を強打し、内臓を潰されたユウくんの口から大量の血が噴き出す。

真っ赤な血の飛沫が赤い絨毯のように足元に広がり、大地に血だまりのような血だまりを作った。


(どうして…魔族がここに……!?)

片膝を折りながらも、意識を失わないように気力を振り絞り立ち上がる。

鍛え上げられた剣を杖にし、なんとか態勢を立て直し戦闘態勢にはいる勇者。


しかし、その場で立っている者は、少年と二人の魔族だけであった。

辺りを見渡すと、護衛についていた王国軍の兵士たちは、すでに全員事切れて地面に転がっていた。


「そ、そんな……」


___勇者襲撃事件の朝。


前日の野営のキャンプをたたみ、日の出と共に巨大杉峠へと出発したユウくんと王国の護衛団を待ち受けていたのは、魔族による手痛い襲撃だった。

一瞬のうちに護衛団は全滅し、勇者も負傷。それも、たった二人の魔族によってである。


「勇者は殺すな、アーガルド。

 ヤツは死ねば教会で復活する。生け捕りにするんだ」


「了解っす!サイファー先輩!!」


銀の長髪をなびかせ、後ろからアーガルドに指示を飛ばすサイファー。

白銀の貴公子の異名をとる彼は、四天王のリーダーにして最強の戦士だった。


そして筋肉主義が多い四天王のなかで、唯一の頭脳担当。

スラリとした長身で、その美しい容姿と剣さばきは、まるで女性のような美しさで、口には白バラを咥えていた。


アーガルドは意気揚々とサイファーに答えると、ペッペッと手のひらにツバを吐き、大剣の肢を強く握り直した。

そして、ギリギリィ!と野太いバネでも巻き千切るように、筋肉を軋ませ技の体制に入る。


アーガルドの必殺剣技『マッスル・ペイン』の構え。

その必殺技の原理は、全身の筋肉をとにかくキバらせて、馬鹿力で敵をブッ叩くというものだ。

とても単純だが、それを食らって無事だった者は過去にいなかった。


「…いや、アーガルド。 私は、殺すなって言ったよな? それ…本当に大丈夫か?」


「死ねや!オラァぁぁぁぁっっっっ!!!!『マッスル・ペイン!!!!!』」


アーガルドのガチ本気の大技『マッスル・ペイン』が、勇者の頭上から大きな軌道を描き振り下ろされた。

技の名の通りこの技を使った使い手は、翌日には全身筋肉痛で動けなくなるというほどの威力を秘めた諸刃の技だ。


これだけ大振りで軌道モーションがわかりやすければ、普段のユウ少年であれば容易く躱すことができただろう。


…だが、勇者はまだ目の前の惨状に愕然としていた。


(勇者の…ボクがいながら……誰も守れなかった……)

大量の血を失い朦朧とする頭のなかで、少年は自分の無力さに打ちのめされていた。

人々を守るはずの勇者が誰一人も守れず、それどころか勇者を守るために多くの兵士が犠牲になった。


(ボクは、勇者…失格だ……)


まだ目の前の敵に敗北したワケでもないのに、少年の心に『絶望』が渦巻き体の自由を奪う。


それは、目の前で父ザックに…母を殺されたときと同じだった。

絶望し、自分の魂の色すら薄く白く色あせてゆく感覚…。


自分の体から血と一緒に大量の魔力が流れ出し、光の粒子になってゆくのを感じた。


いま少年の心は、空っぽになっていた。

それは、諦めだった。


(またボクは…誰も守れなかった……)


……そして、その『瞬間』がやってきた。




(お〜い♡ ウチと変わって〜♡♡)





頭の中で、能天気な少女の声が響き渡ったのだ。

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