王家の血族
「私のお尻、狙われてるの!? いやぁぁっっ〜〜〜んっっ!!!???」
魔王は両手でお尻を隠そうともがくが、両手を壁に拘束された状態でそれは叶うはずもなかった。
ただ恥ずかしそうにモジモジと腰をくねらせ、お尻をプルプル振るのが精一杯。
魔界側ではその動きに、男性参拝客達から『おおぉっっ〜〜!!』と一斉に歓声が湧いた。
「ど……どいつもこいつも、妾の体を観光名所にしおってっ!!!
とにかく、妾は知らぬ男と結婚するつもりはないのじゃっ!!」
魔王は半泣き状態で、恵理子に向かって叫んだ。
カッコカリとはいえ、頼みの『魔王権限』も同じ魔王同士ではそれも通用しない。
それに、魔王にはすでに心に決めた人がいた。
だが………
それは、決して許されぬ禁じられた関係。
魔族にも人間にも明かすことのできない秘密の恋だった。
(ユウくんとだったら…良かったのに………)
魔王の記憶のなかの少年勇者が、優しげに微笑む。
魔王と勇者。
本来なら敵と味方に分かれ殺し合わなければならない宿命の二人。
親しげに言葉を交わすことすら許されぬ関係なのに、それがましてや結婚だなんて……。
「そう仰られても、お相手を決めて貰わないと困ります。
魔王様には早急にご結婚して『子作り』して頂かないと……」
「こっっ、こ、子っっっここけっけ…………コッコっっっ!!!!」
突然飛び出した『子作り』というワードに、頭が沸騰しニワトリのようにコケコケする魔王。
「こ、子作りって!?……冗談……でしょ?」
恵理子の言っていることはあまりに突拍子もなくて、魔王にはタチの悪い冗談にしか聞こえなかった。
しかし……
「いえ、冗談ではありません。これは王家の存続をかけた国家プロジェクトなのです」
真剣な表情で、そう答える恵理子。
「確かに魔王様は穴にはハマってしまいましたが、幸い『下半身』はまだ魔界側にある状態です。
魔界側から子作りが可能な状況なのです」
「……何…………そ…れ…………」
今まで見た事もないような蒼白な顔色に青ざめる魔王。
「何って、もちろん『SEX』です。
男性の逞しく隆起したアレを、壁から突き出している魔王様のお尻のアレに…アレするのです」
「ひぃっっっっっっっ!!!???」
魔王が奇声のような悲鳴をあげる。
大きく見開かれた魔王の瞳には、恵理子の姿が…人の形をした、この世のものでない何か得体の知れないモノに映った。
突然現れ、魔王に会ったこともない男とSEXをして子供を産むようにと言ったのだ。
魔王本人の意思なんて御構い無しに…まるで魔王を、ただの子供を産む道具でもあるかのように……。
「魔界の民は、魔王様の正当な血筋の魔王を望んでいます。それに応え世継ぎを産むことも『一千年の魔王』の立派なお勤めかと…」
「いゃ……いやぁぁっっっ!!!!!!!!」
崖壁に封印されて何世紀にもなるが、拘束され身動きできないこの状況を、魔王は今ほど恐ろしいと感じたことはなかった。
逃げることも抵抗することもできないまま、もしかしたら知らない男達に無理やり、子作りのために…一方的に犯され妊娠させられるかもしれないのだ。
壁に埋まった状態まま、まるで繁殖牝馬が種馬に種付されるかのように……。
「…はぁ………はぁ………ぁ…………」
恐怖のあまり過呼吸気味に息が乱れる。
ひたいからは滝のような汗が流れ、はるか崖下の地上に落下し砕ける。
「お……お願い……………」
弱々しくかぶりを振る魔王。
「………許して………」
魔王は力を振り絞り、水分を失い乾ききった口で何とか言葉を発した。
声をかすれさせながら、恥も体裁も…身分も関係なしに、本気で心の底から頭を下げお願いした。
それは魔王権限とは程遠い…威厳も何もない、ただただ許しをこうだけの命乞いのような懇願だった。
今この瞬間にも壁の向こうで、自分の肉体を狙っている男達がいるかもしれないのだ。
それを想像するだけでゾッとし、魔王は悲鳴をあげてしまいそうなほどに戦慄した。
普段は気にしないような空気の流れにすら、ビクビクと反応してしまうほど畏怖する魔王。
とてもつない『恐怖』に押しつぶされそうになり、せめて何かにしがみつきたい衝動にかられる。
しかし当然それも……拘束された今の彼女には叶わぬことだった。
「正当な王位継承者が『魔王』を継ぐ事こそが、魔界にとって一番良いのです……」
恵理子がそう答える。
魔王の全身の身の毛がよだつ。
「いやゃぁぁぁっっっっ!!好きでもない男の子供なんて産みたくないっっ!!!!!この鬼っ!悪魔っっ!!!!!」
恵理子の無慈悲な返答に、 魔王の感情が爆発した。
魔力を帯びた緋色の瞳を血のように赤く滾らせ、恵理子を呪い睨む魔王。
封印前であれば、それで弱い相手ならば仕留めることも可能だったが、勇者の封印術はそれすらも抑え込んでいた。
その殺意のこもった視線を真正面から受け止め、恵理子は少し同情するような目で魔王を見上げた。
「きっと……魔王様もお子様ができればその可愛さがわかるはずですよ。
……だって母は、我が子のためなら鬼にも悪魔にもなれるんですから………」
そう言った恵理子の表情は、深い悲しみと慈愛に満ち溢れていた。
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