ふたりは魔王 〜MaxHeat〜

「次の『一千年の魔王』…!?そなたが…!?」

魔王は驚きよりも、現実味のない不思議な感覚で恵理子を見つめた。


古より…この世界では千年に一度、人間界と魔界の間に、新しい門(ゲート)が開く。

その新しいゲートの出現と共に、新しい魔王が誕生するのが魔界の古くからの習わしだった。


自分が『魔王』になってから1000年が経とうとしていることは知っていたが、その大半を思考を停止させ時間感覚が希薄だったこともあり、あまり実感がなかった。


(100年前から魔王おっぱい祭のときだけは、おっぱいを弄ばれ強制的に人間共に起こされてしまっていたが……)


予想もしていなかった『新しい魔王』を前にし、実感を持てない魔王は「胸を責められると、イヤだけど感じちゃう♡」と、そんなどうでもいいことを考えてしまっていた。


「今は仕方なく、仮で魔王候補をやらせて頂いています。

 でも私、本物の魔王になるつもりはありません」


「…どういう事じゃ?」


「本来、次の魔王は正当な王家の血筋の方が継承なられるのが正当なのです。

 …ですが、貴女様はお子様はおろか、ご結婚すらなさっておりません」


「うぐぅっ…!?」

バールのような凶悪な『言葉の凶器』が、魔王の心をガツンと叩きのめす。

結婚適齢期を過ぎても独り身であることを実は気にしていた魔王は、容赦無く投げかけられる言葉にクリティカルな痛恨ダメージを受け、目に涙を浮かべた。


「うぅっっ……(泣)」

カタチも重さを持たない言葉は、避けることもガードすることもできない。容赦のない親戚からの「◯◯ちゃん、彼氏できた?」などの言葉は、時に即死魔法となりえるのだ。

魔王は精神的ヒットポイントを、たった一撃で一桁台まで減らされ、ステータス画面を真っ赤にしながら耐え忍んだ。


(ひ、ひどい……私だって、気にしてるのにぃ……)


「でも、ご安心ください♡」


恵理子は持っていた鞄から数枚の書類を取り出すと、魔王の前に差し出した。

そして、ミシェラン・レストランのウェイターがお品書きを開くときのように、優雅な仕草でパラリとご開帳する。


「この方なんて、魔王様にとってもお似合いかと思うんですけど、いかがでしょう?」


「えっと……誰、これ?」


「巨人族・オーガの馬場さんです。身長44mで、40m級の魔王様とも身長的にお似合いのカップルかなと♡

 お勤めも公務員で将来も安定してますし、年齢的にも1006歳と、魔王様よりちょっと年上の頼れる殿方です」


「……はぁ」


「お気に召さなければ、こちらの方はどうでしょう?ジャイアント・オークのイベリコさんです。

 ご趣味は週末のトリュフ狩りで、きっと食いしん坊の魔王様とも気があうかなぁと……」


「ま、待って!? ……いったい何の話をしてるの…?」


「年下がお好みであれば、サイクロプスの伊達さんなんて如何ですか?可愛いキュートなおメメが特徴的で………」


「だっ、だから!? 何の話をしてるのっっ!!??」


「何の話って…。 見てわかりませんか? もちろん、ご結婚相手のご紹介ですよ?」


「け、結婚相手っっ!!??」

魔王の口が、予想外のワードにあんぐりと大きく開く。


「ご紹介といってもこの方々は、『魔王様とならいつもで結婚してもOK♡』の意思確認を頂いている方達ばかりですので、魔王様さえ気に入った方がいれば、すぐにご結婚できます」


「ば、ばか言わないでよっ!? 会ったことも話したこともないもの同士で結婚なんてできるわけないじゃない!!」


「あら? でも、あちらの男性達はノリノリですよ?」


「フンっ!! どうせ、私の権力が狙いでしょっ!!」


「……どうやら、ご存知ないようですね。

 人間界では魔王様の、そのたわわな『巨乳』が注目を集めているようですが……」


恵理子は魔王の豊満な胸の谷間に視線をチラリと落とす。

しかし、すぐに魔王の顔に視線を戻すと言葉を続けた。


「……魔界では、魔王様のお尻が…………」


「ご、ごくり………お、お尻……が…………?」


魔王は魔界に残して来た自分の下半身がどういう状況になっているかなんて、今まであまり気にしたことも考えたこともなかった。

そもそも三百年前に魔王が人間界に進軍してきたときは、ゲートの魔界側は深い渓谷のど真ん中で人が立ち入るような場所ではなかったのだ。


「魔王様のお尻が……安産祈願の『御神体』として巨大な『神社』に祀られ、毎年多くの参拝者たちに拝まれているのです……」


「ひぇっっ〜〜!? 勝手に人のお尻、拝まないでぇ〜〜っっ!!??」


今この瞬間も、誰かにお尻をしっかりとガン見され、そのうえ有り難く拝まれているかと思うと、魔王は顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。

いくらドレスを着ているからといっても、この体勢ではヒップラインがいやでも丸見えだろうし、何よりお尻を大勢に注目される事自体が恥ずかしいと魔王は思った。

…だが、実際はこの永い年月の間にドレスの裾はめくれ上がり、セクシーなパンティが丸出しになっていることを魔王は知らなかった。


この三百年で、人間界側には村が一つ出来て『魔王おっぱい祭り』なんてものまで始まったように、長い長い時代の流れのなかで魔界側でも様々な変化が起きていた。


壁から無防備に突き出した安産型のお尻のまわりには、60メートルを越す巨大な神社が建造され、『桃尻魔王神社』として多くの妊婦が安産祈願に参拝するようになっていた。

そして初詣には大勢のお尻フェチの男達が集まり、ライトアップされた魔王のお尻を愛でながら年越しカウントダウンをし、モンモンとしながら新しい年を迎える。

魔王のお尻は、今ではそんな魔界のセックスシンボル的なパワースポットと化していた……。


「魔王様のセクシーなお尻を、魔界の男性は皆さん…ハァハァしながら狙っているのですよ♡」


「私のお尻、狙われてるの!? いやぁぁっっ〜〜〜んっっ!!!???」

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