狩られる側の少女

「あ……の………!?」

シオリの手は汗でびっしょりだった。


気がつけばシモンの顔がすぐ近くにあり、その後ろに埃だらけの天井が見えた。

いつの間に押し倒されたのか、シオリは保管庫の床に寝転ばされシモンの体の下敷きにされていた。


初めて知る男の人の体の「重さ」と「力」の強さに絶望し、シオリは怖くて怯え泣き出していた。

本気の男性に押さえつけられたら、女の自分には絶対に逃れられない…ということを初めて思い知らされた。


(い、いやぁ………)


無言でシモンは、シオリの身体を触り続けていた。

シオリの制服をはだけさせ、緊張で汗ばんだブラの上から、彼女の大きく豊かな胸を乱暴に揉みしだく。


少女の体の上を這いずり回るシモンの手からは、異常なほどバクバクと緊張し興奮しているのが伝わってきた。


ケダモノのように激しく乱れた呼吸…。

シオリの胸元を見つめる血走った瞳…。

彼女の内モモにグリグリと押し付けられる、肥大し硬くなった股間……。


シオリは身の危険を感じ、恐ろしさで声をあげることもできずに泣いた。

声を出そうにも、緊張で渇いた喉は張り付いたように声になってくれなかった。


(はやく………に…逃げないと………!)

しかし、そう思っても恐怖で体が硬直し自由に動かなかった。


抵抗したら、もっと酷い目にあわされるのではないかと思うと、体が強張りシモンを押しのける勇気すらくすんでしまう。

首筋をシモンのナメクジのような舌が舐め動くのを、シオリはしくしくと怯え泣きながら、耐えるしかなかった。


(誰か……助け……て………)


「ムキムキっっ!!!」

突然、筋肉精霊のボブ達がシモン目掛けて突進した。


シオリの心の叫びが届いたのか、彼らは一斉にシモンを取り囲むように突撃をしかけたのだ。筋肉の鎧で固められた彼らの体は、それそのものが武器でもあった。


……だが。


「そんな!? みんなぁ!!」

シオリが張り付いた喉を引き裂き、悲鳴をあげた。


見えないほどの早業で、ボブ達はシモンの手で引き裂かれ、光の粒子となって拡散してしまった。

最後に残っていたリーダー格のボブも、シモンの手の中で捕まりジタバタと苦しそうに踠いていた。


「くくっっww お姫様を守る騎士のつもりか?残念だったなぁwww」


「だめっ!先生、やめてあげてっ!!」

シオリは自分の状況も忘れて、ボブを助けようと声をあげた。



ギュグッ!! ミチミチ… グチャッ!!



シモンはワザとシオリの抵抗心を殺ぐために、彼女の目の前にボブを差し出し、指で潰すように精霊を捻り殺した。

本来実体を持たない精霊だが、シオリにはボブの骨が砕け肉が押しつぶされる音が聞こえた気がした。


(あ……… あぁ……… ぁ………)


ボブから飛び散った光の粒子が、まるで血飛沫のようにシオリのメガネに降りかかり、彼女の視界を奪った。

……いや、彼女の視界を奪った本当の正体は、自分の無力さ…情けなさ…。抑えようのない敗北感から込み上げてくる、大粒で惨めな涙の礫だった。


(どうして……いつも私ばっかり………)

溢れる涙で、目の前のシモンの憎々しい顔がジワリと歪んだ。

ぐったりとうなだれ、床の上で糸の切れた操り人形のように肢体を投げ出すシオリ。


絶望し自ら全てを放棄した無抵抗のシオリを、シモンは欲望丸出しの目で見下ろしていた。

シオリの両手を拘束していた手を離しても、彼女がそのままの姿勢で逃げ出したりしないことを確認する。


「そうだぞww そのまま良い子で、最後まで大人しくしてるんだぞww

 なるべく痛くしないようにしてあげるからねぇ♡♡」


そう言うと、カチ、カチャ…とシモンが自分のズボンのベルトを外す音がした。


シオリの心臓は凍りついた。

…だが、どうすることもできなかった。


男性が本気の力でこられたら、シオリにはどうすることもできなかった。

彼女はただ人間に殺処分されるのを待つ家畜のような気持ちだった。


狩る側と狩られる側の絶対の力の差。

生まれながらに決まっていて、絶対に埋まらないその理不尽な力関係を、シオリは呪わずにはいられなかった。


シオリに覆いかぶさり、密着したまま器用に彼女の制服のスカートを下ろしてゆくシモン。

彼の乱れた息がシオリの首筋にかかり、そのとてつもなく嫌な匂いにシオリは顔をしかめた。


シオリは現実から逃れるように強く目を閉じ、ずっと独り言のように「助けて…助けて…」と、何かに祈り続けていた。

祈ったところで助けなど来ないことなど、彼女だって本当は知っているのに…。



パサ………。



そのとき、シモンの上着の内ポケットから、一枚の写真が落ちた。

シモンがいつも持ち歩いているという、奥さんの写真だとシオリにはすぐにわかった。


一瞬だけ、いつもの優しいシモン先生の顔がシオリの脳裏を横切る。


「こ、こんな事したら……奥さん……悲しみますから!!」


シオリは最後の望みをかけて、すがるようにシモンに言った。

まだ彼に、ほんの少しでも奥さんのことを想う良心が残っていることを祈りながら……。


「大丈夫♡ 今からシオリが、先生のお嫁さんになるんだからさぁ♡♡♡」


「……え?」


シモンは何が可笑しいのか、笑いを必死に堪えながら床に落ちた妻の写真を拾い上げた。

そしてシオリの顔の前に持って行き、その写真を彼女に見せる。


「初めてシオリを見た時に、先生感じたんだぁ♡

 きっと、シオリは『五条あやねちゃん』の生まれ変わりだって……」


その写真の中には、昔にTVで放送されていたテレビアニメ『魔法少女ニップレス♡』のヒロイン、『ニップレスほわいと』こと五条あやねの姿があった。


当時アニメで乳首はNGの規制ができたため、様々な制作側の試行錯誤のうえ、変身するとニップレスと絆創膏で大事なところを隠した魔法少女に変身するという、本末転倒なヒロインが誕生した。

当然PTAには大変不評だった、伝説の幼児向けアニメだ……。


「でへへ♡ あやねチャンは、俺の嫁www」


シモン先生の嫁は、二次元嫁だった……。

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