魔法学院の七不思議

魔法学院の図書室は広大で、蔵書数は一般公開していない閲覧禁止書も入れると666万冊にも及ぶ。週末には一般開放もされ、地域住民の学びの場にもなっていた。


シオリが今回掃除を命じられたのは、古くなり傷んでしまった書物などを一時的に保管している保管書庫だった。

普段はほとんど人など入らないような書庫で、別名『本の死体安置所』と呼ばれていた。よほど価値のある書物でなければ修復には回されずに、このまま焼却処分され破棄されるからだ。


だが…この不吉な別名は、そのことばかりから名付けられた訳ではなかった。


この学園にも、やはり学校の七不思議なる怪談話が存在した。


魔法学院に伝わる七不思議のうちの四番目の怪談…。

それが、保管書庫の奥に何十年も前から放置されている『魔導師イージリィ』の肖像画の怪談だ。


この国の男性は、汚れなき童貞の魂のまま30歳を迎えると『魔法おっさん』になれる。

大人になると魔力を失ってしまう魔法少女とは、まさに正反対の『対照的』な存在だった。


魔導師イージリィは偉大なる童貞王と呼ばれ100歳まで頑なに童貞を貫き、やがて教科書にも載るような歴史上の有名な大魔導士となった。


彼は魔法を使った画期的なオ○ニー方法を数多く発明したことでも有名だった。

ヌメヌメと動き回るスライムを解毒し穴の空いたカップに敷き詰めたり、品種改良した触手植物を調教しアヘアヘしたり、実際に触れることはできない裸体の精霊を召喚してハズキルーペをお尻で踏ませたり……。


中でもサキュバス召喚用抱き枕は、枕カバーに描かれた人物やキャラに夢魔が憑依し、実際にその女の子の枕カバーとエッチな体験ができることから、最大のヒット商品となりその年のナイスデザイン賞まで受賞した。


それらの偉業は、多くの魔法おっさん達に夢と希望と賢者タイムを与えた。


……だが彼の没後、衝撃の真実が発覚した。

彼は……風俗で筆おろしをしてもらった『素人童貞』だったのだ。


それ以来彼の権威は地に落ち、この魔法学院にも魔法省からの「魔導師イージリィの肖像画は撤去せよ」とのお達しがあった。

以前は講堂にも飾られていた彼の肖像画は全て撤去され、不要になった絵は保管書庫の片隅で処分される日を何十年も待ち続けているのだった。


学園の七不思議では、その魔導師イージリィの無念が肖像画に宿り、

保管書庫を訪れた魔法少女を誘惑し、堕落の道へと誘い堕とすのだという…。




『力(チカラ)、足りてますか?』

…と、問いかけて。




まるで「野菜のビタミン、ちゃんと足りてる?」みたいな感じに、頭の中に直接声が届き語りかけてくるのだそうだ。それに『足りてません!』と答えてしまった少女は、そのまま肖像画に吸い込まれ二度と出てくることはできない…という話だった。


一度風俗に手を出してしまっただけで随分なヒールにされてしまった魔導師イージリィだが、実際はその昔、この保管書庫で女子生徒が行方不明になってしまった事件が怪談の元になっていた。


その女子生徒は結局見つからず、遺体すら出てこなかったことから、様々な噂話に尾ひれがついて現在の怪談になってしまった…というのは本当のところらしかった。


そんな曰く付きの保管書庫を一人で掃除すること自体が、ここの生徒達にしてみれば最悪の罰となっていた。


…だが幸い、今のシオリには筋肉精霊の七人のボブ達がいた。

きっと、ひとりぼっちでは相当心細かっただろうな…とシオリは思った。


彼らはシオリの従順な使い魔として、何でも言うことを聞いてくれた。

…ただ不幸であったことは、彼ら七人のボブには力の加減がわからなかったということであった。


(これ……どう…しよう………?)


シオリは掃除に来たはずだった。


だか、彼らに本棚の埃落としを頼めば本棚をドミノ倒しし、床の雑巾かけを頼めばあちらこちらに激突し、壁に穴をあける始末…。


彼らのそれは、掃除ではなく破壊といったほうが正しかった。

そのあまりの惨状を目の前にし、シオリは思わず放心し思考を停止させてしまっていた。



……ギシィ ギィィィ バタン。



大きく重い物が倒れる音がして「はっ」と我に返りそちらを振り向くと、ボブ達が暴れた衝撃で魔導師イージリィの肖像画が倒れてしまっていた。


(あぁ…あれも…片付けないと…いけないのに……)

あまりの惨状に現実感がなくて、まるで他人事のようにシオリは心の中で呟いた。


「やれやれ…。これじゃ、片付けにきたのか散らかしにきたのか、わからないじゃないか(笑)」

頭をポリポリとかきながら苦笑いし、シモンが言った。


「シ、シモン先生……?」

いつからそこにいたのか、保管書庫の入口にはシモン先生の姿があった。

きっと心配になって様子を見にきてくれたのだろうと、シオリは察した。


「すみません、先生……何だか余計に……散らかっちゃって………」


「あはは、大丈夫。そういうところは本当にシオリらしいよねぇ(笑)」

シモン先生は、床に散らばった本を拾い集めながらシオリに近づいた。


「真面目な性格で何事にも一生懸命で……

 それなのに、やること為すこと全てドジ娘って……」

 

そう言うとシモンは、両手いっぱいに抱きかかえた本の柱を、シオリに押し付けるように抱きかかえさせた。


「えぇっ!?

 あの……うぅ……お、重いで……す………(泣)」

 

その本の量は女の子が持つにしては多く、その重さでシオリは前かがみの姿勢になりフラフラとよたつく。


「そういう所とかやっぱり、『あかねちゃん』にそっくりだなぁ♡」


「………ほぇ……?」


フラフラと覚束ない足取りでバランスをとるのに精一杯で、シモンの言葉の意味がなかなか頭に入ってこないシオリ。今にも崩れそうな本の束を抱きかかえ、そちらにばかり気を取られて、シモンの表情がいつもと違うことに気付くことができなかった。


「このお尻のラインとか、『あかねちゃん』そのまんまだよ♡」


丸メガネの奥で、ニタァとシモンの目がイヤらしい形に歪む。

彼の眼鏡レンズには、シオリの後ろ姿……安産型の下半身が美味しそうに写っていた。


本の重みで前屈みの姿勢になったシオリのお尻は、綺麗な曲線で男を誘うようにシモンの前に突き出され、ご堪能下さい♡とばかりに制服のスカートを押し広げていた。



むぎゅ♡ ぎゅぎゅ♡♡ むにゅっ♡♡♡♡



両手を本で塞がれて身動きできないでいるシオリのムチムチのお尻を、シモンはイヤラしく撫でまわし……ケツ肉に指が食い込むほど強く揉んだ。


「ひっ!?」


緊張でビクっと体を硬直させるシオリ。突然の出来事に頭が混乱し、本を持ったままその場で固まる。

何が起きているのか理解できず、パクパクと池の鯉のように口を開け、彼女はシモンにされるがままになっていた。


「お前ってさぁwwサーロインステーキの上に、極上マグロの大トロを乗せて、トリュフソースをドバドバぶっかけたかのような、堪らなくエロい体してるよなぁwwww」


単品で食べれば最高の料理なのに、全部ブチ込んだら台無しだろうとも思うが、シオリの若々しい肉体から醸し出される色香には、その表現がよく当たっていた。


「先生なぁ……シオリを初めて見た時から、ウチの奥さんの若い頃にそっくりだなぁって思ってたんだぁ〜♡♡」


明らかにいつものシモンとは、口調も声色も顔付きも違っていた。


まだ事態を把握できずに呆然としているシオリが後ろを振り返ると、入り口のドアがゆっくりと消え去り、ただの壁になるところだった……。

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