変身!?魔法少女ニップレス♡

シモンは30歳を迎えたある日、自分に不思議な魔力が宿っていることに気がついた。


日々、教師として生徒達に魔法学を教える身として当然ある程度の魔法は使えたが、それらとは異なる『滾るような切ない』魔力の鼓動だった。

そしてそれが、童貞のままの汚れなき肉体に宿るという魔法おっさんの魔力だと、シモンはすぐに気がついた。


20代前半から『魔法少女ニップレス♡』にハマりヒロイン五条あやねに恋して以来、自分の操は彼女に捧げることを誓いずっと童貞を守ってきた。


(自分……誰とでもエッチするような、軽い男だって見られたくないし……)

そんなキモ痛い発言をし、周囲を凍りつかせたりもしてきた。


そしてとうとう彼は、童貞を拗らせてしまったのだ。

二次元のキャラと実際に付き合い愛し合っていると、本気で思い込み勘違いしてしまった……。




シモンは自慢げにシオリにアニメキャラの写真を見せつけると、ハァハァしながら写真に頬ずりした。


「どうだいシオリぃ? 先生のお嫁さん、マジでカワイイだろぉ??」


「…お嫁さん……って………そんな………!?」


シオリには、ただのアニメキャラのトレーディングカードにしか見えなかった。

仲の良い夫婦だと彼女が密かに憧れていたものは、実はただのシモンの作り上げた妄想だったのだ。


「先生さぁ、シオリを初めて見た時びっくりしたよぉ〜。

 だって、第1期シーズンの学生の頃の五条あやねちゃんにそっくりなんだもん♡」


そう言ってシオリを見るシモンの目は、どこもかしこも末期まで病んでいて、喋り方に到るまで手の施しようがないほどキモかった。


いったいそのキャラのドコが自分に似ているのか、シオリにはわからなかった。

目の色だって違うし髪型だって違う。そもそも、こんな綺麗な水色の髪の毛をした人間が実際にいるはずもない。

同じところを探すならば、似たような眼鏡をしていて……シオリも三次元離れした、二次元キャラ顔負けのエッチなスタイルをしているところだけだった。


「けどさぁ……『ニップレスほわいと』に変身すれば、きっともっと似ると思うよぉ〜!」

そう言うとシモンは、シオリの制服のブラウスに手をかけ、一気にボタンを飛ばし引き裂いた。


「ふぁっっ!!?」

巨乳用のワイヤーの入ったブラジャーがブラウスからこぼれ出し、たっぷん!と激しく揺れた。

シオリは慌てて両手で胸を隠すが、それでもIカップの横乳がハミ出してしまい隠しきれなかった。


「やっぱり思ってた通り、アニメの原作通りのデカさだなぁwww」

あんな薄いブラウスの下に、よくこれほどのボリュームの柔肉が収まっていたものだと、シモンは関心してしまった。


シオリは、自分がそのキャラに似ていると言われたのは、おっぱいの事だったのだと気付き、あまりのショックに目眩がした。


「さぁ、シオリ……『ニップレスほわいと』の衣装に変身の時間だよ……。

 これで僕達、やっと心も体も結ばれるんだね………」


シモンは、悦びを抑え切れないといった熱を帯びた表情でシオリに迫った。

その手には、乳首を隠すための女性用の『ハート型ニップレス』と、股間を隠す用の『巨大絆創膏』が………。

まさに変態プレイセット一式を持った変態教師が、シオリの貞操を狙い襲いかかろうとしていた。


(………あんなの衣装じゃ……服ですら…ない…よ………)

 

たった三枚のシールを衣服と認めたら、サロンパスを貼ったお風呂上がりのお婆ちゃんさえ着衣になってしまう。

シオリの心は恐怖心と羞恥心で溢れかえり、まるで子供ようにイヤイヤをしながら床の上を後ろずさった。




『力(チカラ)……いかがっすか?』




突然……シオリの頭の中にどこからか声が響いた。

それは明らかに、人間の声ではなかった。

そしてその声の主が、善意ある存在ではないだろうこともシオリは感じた。


(……え? …何?……今の?)

理解できないことの連続で、シオリの頭の中はパニックになっていた。


しかし、その一瞬を狙ってシモンが、シオリの大きな胸ですら型崩れしないほど頑丈なブラを捲りあげ、ホックごと引きちぎった。


「きゃんっっ!!」

シオリはブラジャーすら奪われ、あわや乳房の先端が曝け出されるギリギリのところで、前のめりに屈み込んだ。

売れないアイドルがAVに転向する前の作品で、頑なに乳首をガードするほどの必死さだった。




『お嬢さ〜ん、聞いてますぅ? チカラ…欲しいッスよね?

 まずはお試しでいいんで、一週間分どうっスか?』




再び例の声がシオリの頭に響いた。

今度はどこからその不思議な声がしたのか、ハッキリとシオリにも感じ取れた。


魔導師イージリィの肖像画の奥……。

肖像画が立てかけてあった壁の奥に埋め込まれ、まるで創作オブジェのように鉄鎖にグルグル巻きにされた一冊の古本が、シオリに向かって語りかけていたのだ。

そしてその鎖の隙間からは時折、紫色をした『舌』のようなものがベロンと蠢くのも見えた。


(何…… あれって………本なの?)

どうやらその本の声が聞こえているのはシオリだけのようで、シモンはその本の存在に気付いてすらいない様子だった。


「でへへ♡ シオリ……いや、『あやね』ちゃん♡

 『ニップレスほわいと』に変身して、僕と一緒になろうねぇ♡♡」

 

そう言って、シモンのゴツゴツとした手がシオリの胸に伸びてきていた。

その手には、台紙から剥がしたニップレスシールが……。


……もう迷っている暇はなかった。

シオリは今まで出したことが無いような大声で叫んでいた。


「お!お願いです!! ……ち、チカラが……欲しいですっ!!」




『毎度ありぃ〜ス』




思ったより軽いカンジで、その不思議な本がシオリにそう答えた。

そして、鎖を束ね閉じていた錠前が外れ、本のページがパラパラと捲れてゆく。


その瞬間、本の中から眩い光が溢れ出し、洪水のように書庫の中に渦巻いた。


「きゃぁっっ!!」


「ぎゃぁぁぁっっ!! 目がぁ…目がぁ……!!!」


その光の塊をまともに食らったシモンが両目を手で押さえ、バルスされちゃった人みたいにフラフラと本棚にぶつかりながらのたうち回る。

今や書庫の中は、稲妻でも落ちたかのような目の眩む眩しさで、まともに目を開けていられなかった。


それでも何とかこの場から逃げ出そうと、シオリは必死に手探りであたりの様子を探った。


…やがて少しづつ目が慣れてきた彼女は、シオン先生が錯乱状態のまま、遠くの本棚の下敷きになっているのを確認しホッと息を吐いた。


(よかった……あれなら先生、一人じゃ…動けないよね?

 それよりも…あの『本』 何……だったの?)


シオリは眩しそうに目を細め、『例の本』の方を恐る恐るうかがった。

薄目の隙間からシオリが見たものは、ニタリとベロを出して笑う、一冊の『魔導書』だった……。

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