お布施は計画的に!

センリ村の冒険者の酒場は、まだ午前中ということもあって人影もまばらで、今朝出たばかりのクエスト依頼の張り紙をチェックにくる冒険者がチラホラいる程度で、静かなものだった。


朝なのに酒場の中は少し薄暗く、おかげで多少のホコリ程度の汚れは気にならない。

ランチメニューの準備の為だろうか、厨房の方から次第にいい香りが漂ってきていた。


「はぁ…はぁ……どうなってるの!?

 このガチャ!ハズレばかりしか出ないじゃない!!」


大量のコインを握りしめ、アキバはキィーッと顔を赤くしかめた。


店の入り口横にある冒険者紹介ガチャには、★星2から★星5までのランクの冒険者が登録してあり、有料だが引き当てた冒険者を優先的に紹介して貰える。

中には期間限定のレアな冒険者も登録されていて、ゲットすればいきなり冒険がラクになるという、ゲームバランス崩壊の素敵システムだ。


スタートアップの無料ガチャで出た★星5の『ワンにゃ』とかいう、犬と猫の頭を持った双頭のマスコットキャラが当たっただけで、それ以降はすべて★星2と★星3ばかりだった。


「こ、ここまで突っ込んだんだからっ!次は絶対に出る…よね!?よね!?」

そして、今日190回目となる冒険者ガチャをアキバが回す。



ガチャガシャ、ガチャ …カコン。



祈る気持ちで転がり出してきたカプセルを開けると、中には[108番]と書かれたカードが入っていた。



ガタン!ガラガラッッ!!!



「やぁ〜!!俺は300年前のあの伝説の魔族との大戦で活躍した者の末裔さ!!野鳥のカウントなら任せてくれっ!!!」

ガチャの隣にある小窓が空き、見るからにオーラのないモブ顔の男がカウンターをカチカチ鳴らしながら言った。


「野鳥と言っても俺の専門は、越冬にやってくる渡り鳥を…………」

アキバは彼のセリフの途中で、ピシャリと小窓を閉め(スキップ)した。


「ひでぇww 最後まで聞いてやれよww」

フルーツパフェを食べた後の長いスプーンを口に咥えたまま、にひひ♡と笑うユウナ。


「もう87回も、同じセリフ聞いたからいいんですっ!」


引いたハズレ券をテーブルに並べ、アキバはハァとため息をついた。


今までの戦績は、

・野鳥会組合員(★星2)…87回

・戦士見習い(★星3)…17回

・魔法使い見習い(★星3)…11回

・漫画家見習い(★星2)…37回

・ドローン操縦士(★星3)…7回

・トップブリーダー(★星2)…31回


ブロガー(★星2)はアフェリエイター(★星3)に進化すれば強くなるらしいが、それは随分前のバージョン情報だったからか、結局ガチャからは出なかった。


「野鳥会組合員が87回って、バランスおかしくないですかぁ!?

 ここの運営訴えられるレベルですよ、コレッっ!?」


彼女はギャンブルでは熱くなるタイプらしく、ぐぬぬぬぅと低く呻いた。

このままではパーティメンバーにドローン操縦士が入り、テレビロケの撮影クルーのようになってしまいそうだった。


「190回ガチャ引いて★星5が1回って、どんだけ荒業なんだよっww

 なぁ、ワンにゃ♡」

 

膝に乗せた『ワンにゃ』の背中をワシャワシャと撫で、「お前、ブサキモいなぁ♡」と抱きつくユウナ。

どうやら彼女は、その猫だか犬だかわからない四足歩行の動物が気に入ったようだった。


アキバは、右手に握られたラスト1回分のガチャコインをチラリと見る。

あれだけあった軍資金が、あっという間にガチャポン機に飲み込まれてしまった。


(あぁ…やってしまった……。

 ……王国軍から支給された、貴重な旅の…資金が……)

 

嫌な汗が彼女の額に浮き上がる。


「ユウナ様……これでダメだったら、第一話からこの物語をやり直して、リセットしましょう……(汗)」

「やだよ、メンドくせぇ!」


真剣な顔で振り返るアキバに、キィッ!と八重歯をむき出しにして威嚇するユウナ。

今更おっぱい祭りからの再スタートは、こっちも勘弁ノー・サンキューだった。




◆◇◆◇◆◇




いっぽうその頃、冒険者の酒場のバックヤードでは、エルフの少女リジュが冒険者登録用紙に記入していた。


(これを書けば、ついに私も『オーディション』にエントリーなんだねっ!!)

ドキドキの緊張とワクワクの興奮が、彼女にこれから始まるだろう冒険を予感させた。


-------------

★リジュ

-------------

種族:エルフ族

年齢:13歳

身長:145cm

B :78cm(Cカップ)

W :53cm

H :79cm

趣味特技:読書や、権力者の暗殺

志望動機:夢を与えるお仕事に憧れて♡

アピールポイント:元気が取り柄です!頑張ります!!

★星:(ここは欄外です。何も記入しないで下さい)



全ての記入が終わると、彼女は奇跡を願いながらエントリーボックスに投函した。

そして奇跡は、この後すぐに起きるのだった……。

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