神待ち上京少女(1○歳)

エルフの国にあるセンリ村は比較的浅い森の中にあり、人間達には訪れやすい場所に位置していた。

多くのエルフ族の集落と同じように、巨木を住居に成長させる技術でバカでかい木を団地状に成長させ、そこで集団生活している。

そして魔王村から一番近い村が、このセンリ村だった。


「父ちゃんのバカッ!分からず屋ぁ!!!」


「ま、待つんだ!リジュ!?」


「税金泥棒っ!!!」


そう叫び、一人のエルフの少女が木の家から飛び出してきた。

そして思いっきり泣きベソをかきながら、まるでリスのように木々を飛び移り、村の広場の方向へ走り去って行く。


「リジュ……どうして分かってくれないんだ…。

 父ちゃんだって、納税者なんだぞ……」


年頃の娘を持つ父親の苦労を滲み出させた顔で、リジュの父親はハァと大きなため息をついた。


リジュは、アイドルを目指していた。

それが小さい頃からの彼女の夢だった。


エルフ族は生まれながらにして、見た目のパラメーターがズバ抜けて高く、美男美女揃いで有名だ。

実際その長く尖った耳と、スーパーモデルのような端麗な容姿は、どこに行っても目立つ存在だった。


だが……その中でリジュは、いい意味で『普通』だった。

学校のクラスでは、いつもだいたい『中の上』くらい。

キレイではなく、カワイイが形容詞的には相応しかった。


ちょっと手が届きそうな地下アイドル。

オタサーの姫。

そんな感じ…。


そんなリジュのようなエルフの中では平均点の容姿でも、他の種族の国に行けば美少女としてチヤホヤされると聞いたことがあった。

その昔村を訪れた旅の占い師が、まだ幼なかったリジュに「他の国ならあなた、国民的美少女よ」と教えてくれたのだ。


幼い少女にしてみれば、その言葉はとても嬉しかった。自分はずっと、美人ではないと諦めて生きてきた。

それが、「あなたにはアイドルの運命星がある」とまで言ってくれたのだ。

少女が夢を見るには十分な言葉だった。


「逆にアナタぐらいが、男の人には丁度良くて堪らないのよ♡」……と、大人なご意見も。


まるでスカウトで口説く、どこぞのアイドル事務所のPのようだった。

事実、彼女は人間でいったら『信号待ちの間に数人にナンパされるほどのルックスの持ち主』なのだ。


……そして今日、彼女は13歳になった。

この地方のエルフ族のしきたりで、13歳になったら一人立ちできる習わしがあった。


エルフ族の子供と、人間の子供とは成長の定義が違う。

見た目は子供でも、彼女はもう大人だった。


そして今朝、父に初めて自分の夢を打ち明けたのだ。

センリ村を出て、上京しアイドルを目指したいと。




だが、結果は冒頭の通り……。

彼女の父親は「お前の美貌ステータス値では無理だろ」と、端から相手にもしなかった。


「くっそ〜! 絶対に上京して、アイドルになってやるんだから!!!」

リジュは父親の言葉を思い出し、再び涙ぐむ。


どうしても『アイドル』になりたかった…。

みんなに癒しと希望を与える存在になりたかった。

華やかな衣装でスポットライトを浴び、幼い少女達に夢と憧れを与えたかった。


トップアイドルになりバンバンCMとかに出てガッポリ稼ぎたかった。

イケメンIT社長と合コンして玉の輿にのりたかった。


…雨にも負けず、ネット炎上にも負けず、

夕飯はケータリングのオニギリを食べ、

東にライブイベントがあれば飛んでいき、

西に握手会があればキモオタと笑顔で握手し、

皆に10年に1人の逸材と呼ばれるような、

そういうアイドルに…私はなりたい!


野望にメラメラと燃えるリジュは、ひときわ高い木を軽々と飛び越え、村の広場にある冒険者の酒場を目指した。


冒険者の酒場。

大抵の町にひとつはあり、冒険者が食事をしたり、一緒に危険な旅をしてくれる仲間を集う場所。

そこの大きな掲示板には、毎日新しいクエスト依頼が張り出され、冒険者達に日々の糧を提供してくれていた。

別名、ハローワーク。


(きっと何処かに、私の隠れた素質を見抜き、私をアイドルにしてくれる有能なPさんがいるはずよ!)

リジュはずっと、そう信じてきた。


歌やダンスの練習も、スマイルやポーズの練習も、

ドッキリを仕掛けられたときを想定してワザと水風呂に入り「え!?うそ!?…沸いてないの!?」とリアクションの練習をしたり…自作カラシ入りシュークリームを頬張ったこともある。


そんな努力を、神様は絶対に見ていてくれるはず……。


(アイドルの神様、お願いします! 私にもチャンスを下さい!!!)


少女はそう強く祈り、アイドル募集[正規/パート可]の求人を求め、荒くれ者共の集まる冒険者の酒場の扉を叩いたのだった。

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