「魔王を性的な目で見ないで、下さい…と」 by魔王

『魔王♡おっぱい祭り実行委員会』。


魔王村の旧公民館に、そうデカデカと書かれた看板が掲げられていた。

先日まで勝手に寄り合いの場として使っていた王国軍の兵舎は、今は大勢の兵士たちに占領され追い出された形だ。


大広間には若者から高齢者までの『魔王♡おっぱい祭り』の運営に関わる人たちが集まり、話し合いの場が設けられていた。



「……と、さっきも説明したように『魔王♡おっぱい祭り』だけでは、もう古いんです。

 これからはもっと柔軟に様々な可能性を考慮し、イベントを定期的に企画し運営していくことが、リピーター確保に繋がるのです」


そう言って黒縁のメガネをクイっと指であげると、その意識高そうな青年はグラフ資料を差し示しながら言った。


「古いって何だ、この野郎!!こっちはもう100年以上やってんだ!」

その物語っている100年以上の伝統が、歴史の古さを強調していることには気付かず、荒くれた男達が怒声をあげる。


それを右手で制し、青年は言葉を続けた。


「今この村は、かつてないほどの来訪者が訪れています。それは魔族が再来し、勇者が襲われたからです。

 確かに不幸な事件です。…しかし、これはチャンスでもあるんです。

 王国の兵士たち、マスコミ、魔族研究家、野次馬……様々な人々が、魔王がいるこの村にどんどんやってくるでしょう」


大げさな演技でそう語ると、青年は名刺入れから名刺を取り出し、大声をあげていた中年男性のサブローの前に差し出した。


『リィンゴ』。

それが青年の名前だった。

そしてその肩書きは、地域活性化コンサルティング・アドバイザー。


「何ぃが『地域活性化コンサルティング』だぁ!?お前、東町のゴンサクとこの孫じゃねぇか!

 お前だろ!王都の学院に進学して帰ってきたら、頭おかしくなってたってガキは!!

 今年から村の観光協会に入った新人ペーペーが、何エラそうに語ってやがる!!」


気を高ぶらせ、サブローは鼻息だけで名刺を吹き飛ばすと、リィンゴの襟首を掴んだ。


しかしリィンゴは、やれやれという表情で鼻で笑う。


「…別に私は『おっぱい祭り』を否定しているわけではありません。その素晴らしい伝統を残しつつ、新しい取り組みが必要だと言っているのです」


「ほぉう……じゃぁ、いったい何をどうするってんだぁ!?言ってみろ!!」


リィンゴは不敵な笑みを浮かべ、なぜか高速でクイッ、クイッっと2連続メガネを上下させながら言った。


「それは、これから皆さんが考えるんですよ(キリッ)」


こいつ…ノープランであの強気だったのか…と、逆に度肝を抜かれる実行委員会の面々。

口をあんぐりと開けたまま…、(今の若者…やべぇ……)と思うサブローであった。




◆◇◆◇◆◇




(じゅるり………はっ!?寝てた!?)

何やらイヤな悪寒を感じ、魔王が目を覚ました。


愛情をいっぱい込めてユウくんをおクチでイカせた後、魔王は緊張の糸が切れたように、今しがたまで爆睡していた。

よだれを垂らしているのにも気付かないほど深く眠ったのは、人間界に来てから初めてだった…。


それほど魔王にとって今回の事は、とてもドキドキする『初体験』だった。

思い出すだけで、穴があったら入りたくなるほどの恥ずかしさが蘇ってくる。


でも…それ以上に、とても嬉しかった。

たとえ一瞬でも、大好きなユウくんとひとつになれた喜び。


まだ頭の中がほわんほわんして、まるで夢の中にいるようだった。


だが、ガクガクになるほどのアゴの疲れが、それが現実であったことを物語っていた。

お肌もいつもよりもツヤツヤだった。



(あぁ、ユウくん……もう行っちゃったな…)


村から遠く離れてしまった勇者の魔力を西の方角に感じ、魔王は小さく呟いた。

どんなに遠く離れても、魔王の魔力を秘めた緋眼には、ユウくんの魔力を捉えることができるのだ。


正直、もうすでに寂しかった。


でも……遠く離ればなれの遠距離恋愛になる前に『それ』を済ませられたことが、魔王の中で励みになっていた。

言葉だけじゃなく、深くお互いの体温を交わし合うような…本物の『恋人』同士の関係に、ようやくなれた気がしたのだ。


(ユウくん、はやく無事に帰って来てね♡)

心の中でそう呟き、魔王は西の空を心配そうにずっと眺めていた。


……だが、本当に心配しなければならないのは自分の方だということに、魔王はこのときまだ気付いていなかった…。




◆◇◆◇◆◇




『魔王♡おっぱい祭り実行委員会』の会議室では、例年にない熱い意見が飛び交っていた。

そこには先輩や後輩…年功序列なんてものは、もはや無関係の無礼講バトルロワイヤルとなっていた。


実行委員会は皆、ぎとぎとに脂の乗った20代から50代の働き盛りの男達だ。

内側に溜まっていた情熱が、一気に噴き出したかのような熱い論戦になっていた。


「せっかく見事なおっぱいなんだ!プルプルさせるだけじゃなく、

 もっと色々なモノをあの巨乳の谷間に挟んだっていいじゃないか!」と、誰かが叫んだ。


すると、負けじと別の者が応える。

「俺はあの色気ムンムンの横っ腹や脇の下を、コチョコチョくすぐりたい!

 いつも怖い顔した魔王が、苦しそうにひぃひぃと笑う姿とか……そのギャップに萌えるっ!!」


「だったら俺は、彼女の口いっぱいに太くて長いモノをシャブらせたいぜっ♡♡

 あれほどのベッピンさんが、超極太海苔巻きを頬張り必死に飲み込む表情……あぁっ!堪らないぜ!!!」

そう言い放った男は、ウンウンとしきりに頷いていた隣の男と何故かガッシリと握手を交わす。


「ワシは荒縄であのムチムチした体を縛り、鼻フックで辱しめたいのぉ♡

 ブヒブヒ言わせてからの言葉責めも良いものだぞぉ♡」

最年長の男の意見は年季が入っていて、かなりマニアックだった。


「わ、私は……あの可愛くてちっちゃな…おヘソをツンツンしてみたいです…。

 魔王の恥ずかしそうにイヤがる表情とか…悶える顔……きっと可愛いと思います♡♡」

普段は発言などしない気の弱そうな若者まで、恐る恐る挙手をして発言する始末。


もはやそれは『企画会議』というより、男達の性癖自慢大会になっていた。


脇フェチ、鎖骨フェチ、お臍フェチ、汗フェチ……。

何でもありのカミングアウトの嵐。


だが、その…普段は見せない赤裸々な自分をさらけ出すことで、今まであったお互いの心の壁がブチ抜かれた。

そして悟る。人類、皆兄弟(ブラザー)……と。


何か目に見えない一線を超え、男達の心は次第に一つになっていった。


「イカリ会長……どうやら皆、心ひとつにまとまったようだな」

会長席の後ろに立っていた白髪の男が、議長に耳打ちした。


「あぁ。計画通りだ…」

ずっと黙ってことの成り行きを俯き傍観していたイカリ会長が、ゆっくりと顔をあげた。


「…エロスは限界集落を救う。これは革命だよ、ユツキ副会長…」

ユツキ副会長にそう告げると、イカリ会長はゆっくりと立ち上がった。


「……っっっ!!??」


それだけで、ざわついていた会場がシンと静まり返った。


イカリ会長が、皆の顔を一人一人じろりと見回す。


皆も「あぁそういえば、今年の実行委員の会長ってこいつの番だっけ」という表情でイカリ会長を静かに見守った……。


「時は、満ちたようだ…」

なんのこと?という表情の観衆を前に、イカリ会長は声高らかに宣言した。


「これより『魔王村地域活性化計画〜魔王お色気プロジェクト〜』を発動する!!」


おぉっっ!!!!というムサい男達の歓声が会場中からあがった。


「で、ではっっ!!??」

意識高い系青年のリィンゴが、興奮気味に声をあげた。

新しい伝説が始まる予感に、青年の心は燃え滾っていた。

もはや最初のクールキャラの設定なんて意味なかった。


「あぁ……鼻フック以外、全ての案を採用だ」

キラリとイカリ会長のソフトコンタクトが光る。


「皆、行こうではないか!!

 ピリオドの向こう側……HENTAIのその先へっっ!!!!」


……こうして、魔王がこれから散々エッチな目にあうことが決定したのであった。

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