懺悔室の情事

この教会にある懺悔室は、電話ボックスがふたつくっついて並んだような形状で、外から中の様子は見えない造りだ。

片方の部屋に懺悔する人が入り、片方の個室で神父が懺悔を聞く。


もちろん秘密厳守で、中には小さな磨りガラスの小窓があり、神父にも懺悔する人の正体はわからないようになっている。

今までスッポンポンで歩き回ってたのに、今更こっそり隠れて服を着るのも変な話だが、ここなら衣装チェンジするのには最適だった。


「うわぁ……用意した服ってこれかぁ……。

 ウチの趣味じゃないけど、まぁ……いっかぁ…」

 

そこに用意してあったのは、フリルだらけのピンクなロリータドレスだった。

これでは旅人というよりも、どこぞの貴族のお嬢様だ。


それでも、さすがに裸よりマシだと判断し、渋々とフリフリなドレスに着替えるユウナ。

これから旅をするような服装じゃないとも思うが、案外そこは気にしないようだ。


頭にリボンまで結び、甘々のロリータ姿になったユウナは、スカートの裾をちょこんと摘んでクルン!と回ってみる。

カチューシャじゃなく、大きな赤いリボンってところにマリアのこだわりが滲み出ていた。


「まぁ、そんな悪くはない…んじゃね? えへヘ♡」

意外と満足そうなユウナが、左の八重歯をキラリと光らせてニッコリ微笑む。


喋らなければ元々が清楚な美少女なだけあって、それはまるでお人形さんのような可愛さだった。

そして、用意してあった鏡の前であれこれポーズをつけ、テヘッ♡っと両手をアゴにあてブリッ子ポーズを決めていた時だった。



…コンコン。


隣の懺悔側の席から小さくノックする音が聞こえた。


「入ってます」


「あぁ……神よ。 私の懺悔をお聞きください…」


何故この人物は、こんなタイミングで懺悔しにきたのだろうとも思うが、ただ…その声には何か切迫してるものを感じた。(プライバシー保護の為、音声を変えてあります。)


「迷える子羊よ。懺悔なさい…」


ビックリするほどなんの躊躇もなく、ユウナが聖母のような表情でその者の願いに応える。


「…私は…罪を犯してしまいました。

 冷蔵庫にあった嫁のプリンを、勝手に食べてしまったのです……」 


神父席に腰を下ろし、彼の話にうんうんと神妙に頷くユウナ。


「それを強く恨んだ嫁は、家を飛び出し……国際的なハッカー集団に入りました。

 そしてプリンの恨みを晴らすかのように、様々な国のサイバーセキュリティを破り、国家機密を流出させたのです……」


「それは大変でしたね」


「現在はその腕を買われ、とある闇の巨大企業で、人類を滅ぼす人工知能の研究開発をしている…と風の便りに耳にしました…」


「奥さん、大活躍ですね」


「私が、プリンなんて食べたばっかりに………うぅ………」


「…なるほど、わかりました」


「つまり、あなたは………、


 プリンを勝手に食べてゴメンナサイ…。

 嫁がヤバくてゴメンナサイ…。

 小学校のとき好きな女子のリコーダーを舐めてゴメンナサイ…。

 十代のとき痛いオリジナルソングを弾き語ってゴメンナサイ…。

 彼女でもない女子が、自分に気があると勝手に思い込み上から目線で接してゴメンナサイ…。

 ネットで見たネタを、さも自分のネタのように喋ってゴメンナサイ…。

 カラオケで自分の番じゃないのに、勝手にハモりで参加しちゃってゴメンナサイ…。

 二日寝てないだけで、ドヤ顔してゴメンナサイ…。


 以下、略………と、懺悔したいワケですね」


「いや……プリンと嫁の件以外、冤罪なんですけど……」

実はリコーダーは舐めたことがあったが、その黒歴史は無かったことにしたいようだ。


ユウナは、おもむろに左手の人差し指で懺悔室側の磨りガラスを指差し、ビシっとWなポーズを決める。


「さぁ、あなたの罪をかぞえなさい。

 一、二………七つ、八つ……十三飜(ハン)……あ、数え役満ですね。 親の48000点です」


「……えぇ〜……」

懺悔室から、あからさまに嫌そうな声がした。


「いきなりハコテンかよぉ……」

渋々そう言いながらも、磨りガラスの下にある点棒入れから、カチャカチャと点棒を探る音がする。


「大丈夫、神はあなたの懺悔を聞き届けてくれました。

 きっとあなたも……奥さんの罪も、許されるでしょう♡」


いや、奥さんは無理だろう…。


だが、彼の48000点の点棒分の罪は許されたのだった…。




◆◇◆◇◆◇




出発の日の早朝からスタートして、ようやく全ての準備が整ったのは太陽が高く登ってからだった。

村外れではとうに、畑仕事をしていた農民達が昼食タイムに入っていた。


「勇者のお姉ちゃん、遠くへ行っちゃうの〜?」

すっかり懐いてしまったマサトくんが、寂しそうにユウナの足に絡みつく。


「おう、行ってくるよ! マサトも男を磨いて、一人前のイイ男子になるんだぞぉ〜。

 そしたら、この間の園児服のお礼のサービス♡ 約束のチュパちゅぱぁ♡ いっぱいさせてヤルからねぇ♡」


「うん!ボク頑張るよ!!」

ゴツンと拳同士をぶつけ合い、固い約束を交わすユウナとマサトくん。


「では、出発しましょう。ユウナ様!」

アキバを先頭に、歩み出す二人。

こうして勇者様ご一行は、幼稚園のみんなに見送られ魔王村を後にした。


『エルフの国』や『お箸の国』、『スクール水着の国』など、この大陸には様々な国家が存在する。

彼女たちの旅は、これでようやく出発地点に立てたのだった。



一方その頃、

『魔王♡おっぱい祭り』の実行委員会の会議室が、何やら騒がしいかった……。

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