ユウナちゃん参上!にぱぁ♡
『お尻丸出しでの外出禁止!』
大きく太い筆文字でそう書かれた張り紙を、シスター・マリアはペタペタと手で押さえ教会の壁にしっかりと貼り付けた。
「ふぅ!これでよし!」
彼女は腕組みをして二・三歩後ろから張り紙を眺めると、満足げに微笑んだ。
ここは神聖な教会である。
それなのにここ最近、ノーパンで教会を飛び出していく事例が後を絶たない。
下半身丸出しで園児服を着た少女とか、裸にマントの少年(こっちの方がなんか変態っぽいな)とか…。
「マリア先生も大変だねっ!」
「マサトくん、あなたもですよ♡」
たった今お漏らしをしてしまい、お尻丸出しのマサトくんの言葉にシスター・マリアが柔かにツッコんだ。
「先生だって!お尻半分出てるパンツ履いてるくせにぃ〜!」
「せ、先生のTバックはファッションです!(///)」
パッと、無意識に両手でお尻を覆い隠すマリア。
ちなみに彼女のオフの日の普段着は、結構イケイケだったりする。
「ワ、ワシのふんどしも……Tバックに入るかのぉ……」
なぜかビクビクと怯えながら、マリアの顔色を伺う園長先生。
「知りません!!」
いつも通りの活気にあふれた魔王村幼稚園の朝。
その中に、ずっとソワソワと落ち着かない女性の姿があった。
「まだ、来ませんね…」
不安そうにアキバは、何度も礼拝堂内を往復し続けていた。
両腕を組むと、細身の割に大きな胸が着衣の上からでも強調され、柔らかそうに盛り上がる。
まるでモデルのような顔立ちに、すらりとした長身。
普段身につけている聖騎士の鎧は外し、今は『旅をする姉と弟』に見えるようにと、いつもよりも薄着で軽装だった。
「大丈夫ですよ、アキバさん。あの少年は、約束は必ず守りますから!」
「そ、そうですね…」
心配性の自分を少し反省し、アキバは苦笑いを浮かべた。
その瞬間、前回同様に礼拝堂の祭壇に転生の魔法陣が発生し稲妻が走った。
ドガガガガ!!! ガッルロス・ゴォォーン!!!
経済界まで揺るがしかねない凄まじい衝撃に、礼拝堂がガタガタと震える。
魔王に食べられ昇天した、勇者の復活が始まったのだ。
「きゃぁっっ!!」
これまた前回同様、見事なムーンサルトを決めながらシスター・マリアが衝撃でブッ飛ばされた。
しかしさすがに二度目ともなると慣れたもので、華麗に着地を決めるマリア先生。
園児たちの「おぉ!!」という歓声が上がる。
前回と違うのは、祭壇の床に突き刺さった園長先生の上下が反転し、足だけ床から突き出していたというくらいだった。
「ゆ、勇者様!!?」
立ち込めた煙の中から、むくりと裸の少女が起き上がるのが見えた。
差し込む朝の光に照らされ、色白の肌がまるで絹のように光ってみえた。
「ん? …えっとぉ?」
一瞬、呆けたような表情であたりをキョロキョロと見回していたが、少女はハタと何かに思い当たると、くんくんと自分の腕や胸元の匂いを嗅いだ。
そして、「よかったぁ、あの女のヨダレ臭くないw」と、何かにホッと安堵した様子だった。
「勇者様…………なん…ですよ…ね??」
初めて見るギャル勇者のユウナに、アキバは戸惑い不思議なものを見る瞳で尋ねる。
「ウチ、女勇者のユウナ!! よろタン!!」
懐かしのeggポーズで、にぱぁ♡と、写メ映えポーズをキメるユウナ。
「え…? はぁ…? ユウナさま…? ですか????
でも、確か勇者様のご本名は…『ギグヴァド・ガ……』」
アキバはあまりの少年勇者とのイメージのギャップに戸惑い、目をパチクリさせそう言いかけた。
しかし、少女勇者が大げさに顔の前で手を振り、彼女の言葉を遮る。
「あぁー!イイ、イイ!その名前で呼ばなくてww 『ユウナちゃん♡』って呼んで!!
それにその名前で呼ばれるの、あっちの 男の自分もキライだしさwww」
「で、でも………」
「いいってばぁ! その名前さ、あのバカ親父が付けた名前なんだよねぇ〜ww」
「あ………」
勇者の父親のことはアキバもよく知っていた。この国では超有名人だ。
歴代勇者のなかでも今尚、最強と謳われる勇者…。
…そして、色々あって家を捨てたダメ親父だった。
いい歳して『我は地上最強になる』って出て行った痛さ満点パパだ。
自分探しの旅に出て、自分を見失っちゃうタイプだった。
「それにあの試練の祠に旅立った日、ウチを殺したのってあのバカ親父だしぃ?」
「……へ……?
えぇっっっ!? そ、それってどういう事ですかっ!!??」
突然の衝撃告白に、一瞬頭が真っ白になって固まってしまったアキバ。
魔族に襲撃され殺されたはずの勇者が、実は先代の勇者…実の父に殺されていたという新展開。
「ん? あぁ〜、それよかさぁ。そろそろ服、着たいんッスけどぉ?」
…しかしユウナは、さも「まぁ、家ではよくある事だから」みたいなノリで、話題を切り返した。
そして気だるそうに全裸のまま、両手を腰にあて首をコキコキと鳴らす。
アキバはまだしばらく呆然としていたが、目の前の少女が素っ裸であることに改めて気がつき、慌てて顔を伏せた。
「し、失礼しました!そうですね、まずは服を着ないと!!」
そして、羽織っていたマントを渡そう……としたが、今は旅の軽装で聖騎士の証であるマントを羽織っていないことに気がついた。
「す、すぐにお召し物をご準備いたしますっ!!!」
彼女は着替えの準備まで頭が回らなかった自分を心の中で叱咤した。
少年勇者が教会で転生したとき、彼が全裸で現れたのを見ていたはずだったのに。
(ど、どうしよう!?男の子の勇者様の家に、女子の服なんてあるのかな!?パンティとか絶対ないよね!?)
アキバはあれこれテンパりながら、あわてて教会を飛び出そうとした。
しかし、そんなアキバの肩をシスター・マリアがポンと叩き引き止める。
そして親指をビッと立て、背後の礼拝堂の片隅を指差した。
『懺悔室』 - と書かれたプレートの下に、いつの間にか『臨時・勇者様更衣室』の張り紙が……。
「大丈夫です。ちゃんと可愛い服を用意しておきましたから!」
満面の笑みで、シスター・マリアは彼女にそう言い放った。
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