四天王・親睦会!!!

勇者襲撃事件があってから、もうすでに1週間が経っていた。


ここは魔界にある温泉宿。

魔界旅雑誌『邪乱(じゃらん)』で人気No1の、なかなか予約の取れない人気スポットだ。

魔界の奥座敷と呼ばれるとある秘湯温泉街で、今日は魔王軍・四天王達の親睦会が行われていた。


「くぅっっ、くそっ!! この間の勇者との戦いの傷がまだ染みるぜ!!」


若い魔族の男アーガルドは、傷が染みると言ったわりには豪快にぴょーん!と露天風呂に飛び込んだ。

筋骨隆々で鍛え抜かれた鋼の体は、回復魔法で傷口は閉じているといえ、まだあちらこちらに傷跡が見てとれた。


「ちょっと!?アーガルド!

 もうちょっと静かに入りなさいよ!!お湯が顔にかかるじゃない!」


四天王の紅一点・シャロンの美しい顔に、アーガルドの騒いだお湯飛沫がぴちゃぴちゃと降りかかる。

シャロンは体に巻いていたタオルの端で、それを物凄く迷惑そうに拭った。(※許可をとってバスタオルを着用しています)


「そもそもなんで、女の私まで男風呂に一緒の!!私これでも、魔界の有名女優なのよ!?」


魔界四天王のシャロンは、魔界では人気のある映画女優だった。過去に主演女優賞を受賞した経験もあるトップ女優である。

人間の年でいうと三十路ちょっと手前の、まさに女優としても脂の乗った時期。

ちなみに代表作は、ラブロマンスの大作『ディナーはパイプカットの後で』がある。


「がははは!いいじゃろうて!今日は宿丸ごと貸切じゃ!

 それに裸の付き合いでこそ、親睦も深まるというもの!!!」


四天王のなかで最年長のダイドーが、ガハハと豪快に笑いバンバンとなれなれしくシャロンの細い肩を叩いた。

ばしゃばしゃと豪快に水面が弾け飛び、シャロンはブチギレ状態でタオルで顔を拭う。


ダイドーの年は40代後半。髭モジャの、いかにも屈強そうな大男である。

彼の四天王での担当は筋肉。


そしてアーガルドの担当も筋肉。

四天王の約50パーセントは、筋肉でできている。

問題が起きれば、なんでも筋肉で解決。

東大の入試問題程度など、お尻に挟んで大殿筋の力だけでシュレッダー可能。一撃で五教科ごとばーん!だ。


「いててて! くそあの勇者め。今度あったらぜってぇブッ潰す!」

浴槽に首まで浸かりながら、アーガルドが苦痛に顔を歪めた。


「そんなに手強かったの?あの少年勇者? 見た感じナヨナヨして、弱そうだったけど…」

シャロンが疑わしそうに尋ねた。


「いやぁ、最初チョロいかなぁとか思ったんスよ!したら、何か追い詰められた途中、目が魔族みたいな『緋眼』になって、そしたら超強くなってぇ!」


アーガルドが身振り手振りオーバーリアクションで説明し、その度に大波が起こりシャロンの顔にばしゃん、ばしゃんと爆ぜる。

もう何かを諦めたのか、彼女は生気のない遠い目でアーガルドを見つめながら、口まで湯船に深く沈むと、ぶくぶくと口から泡を吹いた。


「そっからはもうパネェ感じで、結局俺とサイファー先輩と二人がかりでやっとこさ抑え込んで!!

 そんで、もうちょっとでブッ殺せるとこまで追い詰めたんス!!…そしたら突然、ジャマが入ったんすよ!!」


熱く握りこぶしを握り熱弁する若者魔族の話を、温かい目で楽しげに見つめるダイドー。

彼は若者の武勇伝を聞くのが、三度の飯より大好きだった。


「あ、サイファー先輩ってのは、俺たち四天王のリーダーで、四天王最強の兄貴ッス!

 白銀の貴公子と異名をとる、『一千年の魔王(壁尻)』の許嫁で、魔王の初恋の相手っす!」


「はぁ!? 知ってるわよ!?もう何回顔合わせてると思ってんの!?

 ………ってか、アンタ誰に説明してんのよ?」


まるで物語を手っ取り早く進めるための説明役キャラのようなアーガルドに、ツッコミを入れるシャロン。

重要な設定をさらりと言いのけてしまうあたりは、さすがバカの成せる技だった。


「しっかし…今回の企画の言い出しっぺの、そのナルシストバカはどこ行ったのよ?」


「あ、サイファー先輩なら、バイトあるって帰ったッス!!」


「………ふぁっっ!!???」

ハトが豆鉄砲を食らったような、渾身の素のはぁ!?の顔。

シャロンはしばらく放心したあと、「あ!今の顔録画しておけば演技の幅増えたのに!」と、逞しい女優魂でなんとか心を立て直した。


「えっ!?なにっ!? じゃあ、たった三人で親睦会する気!?」


「あ、サーセン!俺も風呂あがったら帰るんで!!」

ずごごごご!と、まるでコメディ映画のずっこけのような演出で温泉の中でひっくり返るシャロン。

それでも大事なところは、ちゃんと上手に隠しているところは、さすが女優の貫禄。


「うちの嫁ってば美人なんで、俺がいないと寂しがるんスよ♡」


「だ、だったら嫁もここに呼びなさいよ!どうせサイファーの分の部屋とか料理とか余ってるんでしょ!!」


「別にいいッスけど………

 いやぁ〜シャロンの姉貴が、そんなに親睦会を楽しみにしてくれてたなんて、知らなかったッス!」


「たっ………たっ!…楽しみに、してたんだよ!!!悪いかよばかやろぉう!!!!

 久しぶりにみんなに会えるからって、テンションあがってたんだよぉ!!!!!!(恥)」


もう涙目でヤケクソな口調のシャロンが叫んだ。

岩風呂の露天で、いい感じにシャウトがエコーになって響く。


「うう!それがしもじゃ!!感動じゃぁ!!!!」


「俺も感動したッス!!姉貴おっぱい見して下さい!!!!!」


なぜか温泉の中で、ヒシと強く抱き合う三人。

もうバカが湯船で大渋滞を起こしていた。


「うぅ………見せないわよ…ばか、スケベ」


かくして、この日の夜は四天王の三人とアーガルドの嫁の四人で、飲めや歌えやの大騒ぎ。

親の仇でも取るかのような盛り上がり方であった。


ビンゴ大会でアーガルドの嫁は1等の加湿器を当てるわ、部屋に戻ってからの枕投げで障子に穴開けるわ、UNOで徹夜で盛り上がるわ…。


終いには変なテンションで全員で肩をくみあい、『サライ』をその場のノリで即興替歌大会。

全員でワキャキャ&ウキャキャと、徹夜明けの変な精神状態で、24時間ランナーに扮したアーガルドをノリノリで胴上げしながらの大爆笑のフィナーレ。


なんか……大変有意義な親睦会となったのであった。

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