第2章

マリアさんがみてる

魔王村のような村民の少ない過疎村では、

保育施設は教会などと共同運営されている場合が多い。


シスターがそのまま保母さんとなり、

園児達は朝昼と礼拝堂でお祈りし、幼い頃から信仰心を学ぶ。


今日も園児達は、園長先生のありがたい地獄のような長いお話

(麻雀大会で四暗刻を上がったときの話)をえんえん聞かされたあと、

シスター・マリアに『勇者と魔王の物語』の絵本を読み聞かせて貰っていた。


「はぁ〜い!良い子の皆さ〜ん!」


まだ若いエプロン姿の保母さんシスターが、目をキラキラさせた園児達に、

絵本を開きながらにこやかに言った。


メガネ美人の彼女は、修道着をキリッと着こなし、

網タイツにひよこ柄エプロンという業務スタイル。


そのコスチュームは、

マニアックな一部のご年配父兄の方には密かに人気だった。


「勇者様は、死んだらどうなりますかぁ〜?

 知ってるお利口さんは、いるかなぁ??」


「はぁい!!」


「はい元気ですね!マサトくん!!」


「せんのかぜになって、こうはくにしゅつじょうします!」


「はい、違いま〜す♡」


「ワ…ワシが死んだら…、…ふが………ふが……

 女子更衣室の裏…に……ま、埋葬してくだ…され………(ヨボ)」


「園長先生には聞いてませ〜ん♡

 それからセクハラな遺言は却下で〜す♡」


「はい、先生!きょうかいで!いきかえりまぁす!!」


「さすがユイちゃん!よくできました!」


シスター・マリアは、

ビッ!と親指をおっ立て、GJ!とばかりに園児を褒め称える。

ユイちゃんは今週だけで47イイネ!をゲットしていた。


ほがらかな午前の教会に、質素なステンドグラスの窓から、

虹色の光が礼拝堂内に降り注いでいた。


いつもと変わらない穏やかな風景。

いつもと変わらない平和な魔王村の日常だった。


しかし、そんなのどかな礼拝堂に、

突然イナズマが走った。


ズガ!ゾゾゾ!!! ゾゾタウンッ!!! ドドドォンンン!!!


まさに青天の霹靂。しまむらもびっくりして出店してしまうほどの衝撃だった。


「きゃぁっっ!何!?」

壇上で読み聞かせをしていたシスター・マリアが、

その衝撃で吹き飛ばされながらも、見事なバク宙を決めながらブッ飛んだ。


そしてそのまま、園児達を頭上高く飛び越し、

子供達の後ろのベンチにスタっと着地する。


「せんせー!だいじょうぶー?」

シスターを気遣う優しい園児達の声。


シスターはすぐさま体制を立て直し、すばやく園児達の元に駆けつけると、

子供達をかばう様に彼らの前に立ちはだかった。


「先生は大丈夫ですから!

 そ、それよりも!? 怪我した子はいますか???」


「いませ〜ん!」


「…そう(ホッ…)」


マリアはふぅっとその大きな胸をなでおろし、深く息を吐いた。


(この子達だけは、絶対に守る)

今の彼女の頭の中にあるのは、その事だけだった。


教会を象徴する大きな純白の十字架の祭壇。

イナズマが落ちたのは、その真下あたりだった。


やがてその十字架の足元の壇上に、

光の粒子が集まり『人間』の形が作り出された。


(に、人間!?)


…やがてそれは、ひとりの『少女』の形になった。


天界から降り注いだ加護の光が、

天井を尽き抜け少女のまわりを照らし出す。

そして、少女のまわりに幾何学的な模様を作り出した。


少女を中心に浮かび上がった『転生』の魔法陣。

勇者の血族のみが神から授かったとされる、死んでも生き返る魔法の力だった。


「いてててて…ったく」

少女が、生まれたての子羊のように、

ぷるぷると震えながら、ゆっくりと上半身を起こした。


金色の細い髪。空のような青い瞳。

そして、ほっそりとした白い身体。


それは、先ほどまで読み聞かせしていた絵本の中の、

『美少女勇者』にそっくりだった。






次回[ビッチギャル♡転生]。

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