壁尻の魔王!!

壁から上半身だけを生やした状態の魔王の体が、

背後の壁に現れた封印機に吸い寄せられるように浮き上がる。


『ひぃっ!?体が吸い寄せられる!!??』


魔王を吸い込もうとする封印機の強力なサイクロンパワー。


しかし、下半身はしっかりと魔界にハマったままの状態なので、

上半身のみが壁の封印にグイグイと引っ張られるかたちに…。


『い、痛い!?ちょっ!?背骨折れちゃうってば!?(泣)』


体力測定のときの上体そらしのように、腰よりも高く魔王の顎があがり、

魔王の体はUの字にエビ反り状態になった。

まさにラーメンマンの必殺技キャメルクラッチ状態。


『こんな恥ずかしい格好で死ぬのはイヤァっっ!!(涙)」


絶叫し魔王はなんとか渾身の力を振り絞り、

浮かび上がろうとする体を腹筋でくの字に折り曲げ耐えた。



ーーーーガシっっっ!!!



地面から突き出した岩になんとか両手でしがみ付き、耐える魔王。


「もう!さっさと観念しなさい!!」



ーーージャギン!!!!



魔王がしがみ付いている岩の手前に飛躍し着地すると、

勇者は剣を構え、その岩を根本から横薙ぎに切り取った。


『ふぁっ!?わわわっぁっっ!!??』


掴まっていた岩ごと、再びフワリと浮き上がる魔王の上半身。

その反り具合は軽くイナバウアーくらいまで達していた。


「あら?結構体が柔らかいのね?」


のんきに感心する勇者。

それを魔王は、バカにされたと感じたようだった。


『き、貴様っっっ!!『一千年の魔王』と呼ばれた妾を愚弄しおってっ!』


「きゃっっ!!??」


それは一瞬だった。


勝利を確信し、完全に油断している勇者めがけて、

牙を剥いた魔王の巨大な口が迫った。


最後の力を振り絞り、魔王が勇者に襲い掛かったのだ。


そして、その巨大な口があんぐりと開き、

勇者を丸呑みにするかと思われた瞬間…


「……え?」


キス。


……魔王が勇者の唇を奪った。


しっとりとぷるぷる潤った魔王の肉厚な唇が、

勇者の薄い桃色の唇に、器用にチュッ♡と合わさる。


そっと触れ合う程度の、初々しいキスだった。

二人のバックの背景が、美しい百合の乙女チック背景素材に埋め尽くされる。


「……ぇ?…え???」

何が起きたのかわからず、ただ呆然と立ち尽くす勇者。


『くくっっ……貴様ら勇者は、どうせ食い殺しても、

 その神の加護を受けた体と魂は教会で復活するだけ………』


伝説の勇者一族だけが持つ『神の力』。

それが、蘇生(死んでも教会で生き返り)だった。

ただしその代償は、全財産の半分を失うというペナルティを負う。


『この接吻は『魔王の呪い』の儀式だ…

 …妾の魂の一部を、お前の中に宿したぞ………』


ぜぇぜぇと肩で息をしながら、魔王が力を振り絞る。

 

『やがてお前の子孫から、魔族が生まれるじゃろう!

 子か、孫か…はたまた未来の子孫達か………』


魔王は目をカッと見開いて、虚勢を保ちながら叫ぶ。


『くくっ…いずれ勇者の一族に、魔の血が入るで…あ………ゔぁふ!!』

 

ばちぃぃぃんんん!!!


「な………な、ななっ!!?

 な、なにしてんの!!アンタっっ!!!!?」


涙目でわなわなと震える勇者が、

セリフの途中で魔王の頬を思いっきり平手で引っ叩いた。


「呪い!?はぁ!?そんなのどうでもいい!!

 私の大切な…はじめてのファーストキッス……だったのに…(涙)」


少女の馬鹿力の平手打ちに、脳を揺らされ意識朦朧とする魔王。

まるで、いいパンチを貰ったボクサーのように、

くねくねと関節を揺らし、ぐでっとなる。


「あぁっ!?魔王様!!!」

しぶとく生き残っていた魔族の爺ぃが叫んだ。


意識を失った魔王の両腕は、崖の封印機に吸い寄せられ、

まるで十字架に張り付けられた罪人のように、

両手を後ろに捻られた状態で崖の中に沈んでいった。


やがて、封印のサイクロンパワーが止んだ頃には、

両腕と下半身を絶壁に深々と埋め込まれ、

身動きできない姿に『封印』されてしまっていた。


「そ、そんな……魔王様……何というお姿に……」

爺ぃが力なく呻く。


意識を失ったまま、崖に埋め込まれ拘束されている魔王。

その姿はぐったりとうな垂れ、劇画タッチで真っ白に燃え尽きていた。


もう魔王が抵抗できないことを見届けた勇者が、

スチャっと剣を鞘に納め、ふぅとため息をついた。


「はじめてのキスだったのに……

 アンタ、責任とんなさいよね(///)」


その瞬間、王国軍からは勝利の雄叫びが上がった。

勇者コールと、貧乳万歳コールが巻き起こる。


こうして、魔王軍の侵略は失敗に終わり、

魔王は絶壁に堅く封印…拘束されたのだ。




…それから300年。

人間界は平和になった。


封印した魔王のまわりには新たに村もでき、

勇者の子孫達はそこで代々暮らし、魔王を監視し続けた。


貧しい村で、観光資源は魔王ぐらいしかない村。

だから、誰が名付けたか村の名前はいつしか

『魔王村』と呼ばれるようになった。


そして当の魔王は、

(お尻が壁から出ているわけではないので本来のシチュエーションとはちょっと違う気もするが)、

現在ではこう呼ばれていた。



『一千年の魔王』…ではなく、『壁尻の魔王』と。



これから始まるこの物語は、

そんな壁尻魔王と、死ぬたびにTS(性転換)する勇者との物語である。






次回[マリアさんがみてる]

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