ツルペタ勇者 と デカパイ魔王
『勇者め!妾に逆らった罪は重いぞ!!八つ裂きにしてやる!!!』
頭に直接語りかけてくるような魔力を帯びた言葉が響いた。
そして、残忍で妖艶な笑みを浮かべ、
魔王がお尻を魔界の穴から通そうとした瞬間…。
ズズ ズズズッ。 きゅぽっ。
『へ……?』
空気が詰まるような音。
その場にいた者みなが言葉を失い、ただ呆然と魔界の穴を見上げていた。
「お、おい……魔王のやつ、お尻の肉が穴に挟まったぞ…?」
兵士の誰かが、そう言った。
穴を這い出ようとした魔王の体が、おヘソのあたりが抜けたところで、
『穴』のヘリに引っ掛かってしまったのだ。
漆黒の魔界へと通じる穴のフチに、魔王の丸くて大きいお尻の肉がメリ混んでいた。
『え?…えっ!?やだっ!? えぇっ!?うそぉっっ!!??』
魔王が慌てて、何とかお尻を穴から通そうと身悶えしながらモゾモゾと踏ん張る。
『んんぅんっっっ〜!!! ふぬん〜んっ!!ぐぬぬぅぅん!!!』
力の限りくねくねと体をクネらせ、必死に抵抗する魔王。
…しかし、抵抗するほどお尻は穴を抜けるどころか、
完全にぴったりと穴にジャストフィットしてしまい、
通り抜けることはおろか、魔界側に戻ることもできないほど、
ぎゅうぎゅうに挟まってしまった。
「…おい?あれ…完全に、穴にハマったんじゃね…?」
「見ろよ!?腰回りの柔らかそうなお肉が穴に食い込んで、ムニュムニュいってないか!?」
「本当だ!!指でつまんだらプニプニしそうだ!!何というエロい柔肉!!」
「おっぱいがあれだけデカいんだ!こいつはケツも相当デカいはずさ!
尻マニアの俺が言うんだ間違いない!!」
なぜか王国軍の兵士達の士気が高まってゆく。
『ひぃっ!?貴様ら!!あ、あまり妾を見るでないっっ!!!!(恥)』
「「「 壁尻シチュ!!壁尻シチュ!!壁尻シチュ!!! 」」」
大地を割らんばかりの壁尻シチュ・コールが、ムサい男達の集団に伝播し広がる。
「ば、ばかな!?ワシの計算じゃとギリギリ『穴』は抜けられたはずじゃ……
これでは魔王様が邪魔で、魔界側に配置した10万の魔物軍団が穴を抜けられぬではないか…!?」
魔王の肩にしがみついていた魔族の爺ぃが、ジロリと魔王に視線を流す。
「……よもやとは思いますが…魔王様?」
『ぎくっ…』
「……ダイエット、サボってはおらぬでしょうな??」
『な、何んのことかなぁ〜? ふふん♡ふんふん♡」
あからさまに視線を泳がせ、不自然このうえない鼻歌を歌う魔王。
それはもう「ハイ、私サボりました!」と言っているのと同じであった。
「爺ぃに隠れて、つまみ食い…しましたな?」
『えっとぉ〜、食料保存庫の和牛を9頭ほどぉ?』
「な!?9頭と!?しかもA5ランク!!?」
うぉぅ!爺ぃモー烈おったまげ!と小さく呻きながら、こめかみを抑える爺ぃ。
『だって食事制限してると、お腹空いちゃうのね?
だからつい、ちょちょっ、と……
それにだって …牛は別腹?だし??』
つぎの瞬間には、爺ぃの口があんぐり。
おやつに和牛一頭は入りますか?答えはノーだ。
言葉もないとはこのことであった。
「…。」
そんなやり取りをしている魔王達を見守る人間達の中に、
一人だけ不機嫌そうに魔王に歩み寄る人影があった。
「……もしもし?」
『あ!?勇者!? ヤッバぃ………忘れてた』
すっかり忘れていた勇者の存在を思い出し、彼女を見下ろし苦笑いをする魔王。
「…もう茶番は全部、済んだんですか?
…勇者である私を、さんざん無視してくれましたね…」
少女の表情はにっこり笑顔だったが、
怒りで肩が震えていることは魔王にもわかった。
『えっと…………』
「華やかしい美少女勇者としてのデビューの晴れ舞台を!!
台無しにしてくれちゃって!!!!
ぽっこりお腹魔王め!!!このまま封印してあげるわ!!!」
『ぽ、ぽっこり言うなぁ!!!!!(泣)』
美少女勇者は再び剣を天高くかざし、
この世界の言葉でない言語で言霊を召喚する。
「The suction power does not change,… only one seal.…
(吸引力の変わらない、ただひとつの封印機)」
この世界では自ら編み出した技や魔法には、自分で技の名前をつける習わしがある。
その命名した技の名前は、言葉…言霊(ことだま)となり、
異世界のその言葉が持つ『何かしらのパワー』をこの世界に召喚する。
「dys○n(ダイ○ン)!!!!!!!!」
ズジャンッ!!!!!!!!
勇者は技の名前を叫ぶと鋼の音を響かせて、
掲げた剣を魔界の穴の真下に深々と突き立てた。
その瞬間、光の格子でできたダイ○ン掃除機のような封印機が具現化し、
魔王の左右の崖に現れる。
「この技は、あなたを束縛し封じるための技よ」
静かな声で勇者は言った。
『なっ!?これはっっっっ!!??』
栓を抜いた浴槽の中の水のように、あたりに散らばっていた魔族の亡骸がその光のサイクロンに吸い込まれる。
王国の兵士や勇者が引き寄せられないのは、おそらくこの技も先ほど同様、魔族に対して効力を発する技だからなのだろうか。
逆に言えばそれは、いかに強大な魔王とて魔属性である限り、簡単には逃れられない『力』を秘めていた。
「ひぃぃぃっっ!!なんという力じゃぁっ!!?」
爺ぃが魔王の後ろ髪に必死にしがみつきながら、それに吸い込まれまいと踠いていた。
「サイクロン式の封印力よ。最新式はとっても静かでしょ?」
少女は深夜テレビのショッピング番組の出演者のように、鼻に付くワザとらしさで言った。
言葉通りその封印力は凄まじく、いくら強大な魔王でも次第に押され気味になっていた。
ただ、残念なことは……その音は十分うるさかった。
次回[壁尻の魔王]。
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