2-2

少年は嘘をついている。


何となく、そんな感じがした。

一瞬、哀しそうな、仕方がないと何かを諦めたような、そんな表情をしたのだ。

それがどうも引っかかる。


少年は、僕とどこかで会っているのだろうか。

だとしたら今回と同じく、夢の中、なのだろう。

けれども、こんな夢を見たのは生まれて初めてだった。



少年は静かにこちらを見つめる。

その瞳は、透き通るように美しい、青みがかった紫色をしていた。

瞬きをするたびに、キラキラと光り輝いているようにも見える。


「タンザナイト」


宝石の名前だ。

十二月の誕生石にもなっている、タンザニアで発見された、多色性の美しい石。

石言葉は確か「誇り高き人」「神秘」「冷静」「空想」など。


何故出てきたのかは分からないが、特徴的な目と、少年から感じられる神聖さに合っていると思った。



少年は目を見開く。

先程感じた違和感からして、少年の本当の名はタンザナイトで当たっているのだろう。

適当につけられた名前が、自分のものと同じだったので驚いたのかもしれない。


表情に出さないようにしているようだったが、嬉しそうに口元がほころぶ。


「それじゃあ、僕のことはタンザナイトって呼んでね」


「ああ。よろしく、タンザナイト」


僕も自然と笑顔になる。


「話を元に戻すね。慎二は「困っていること」があるからトビラが開いた。そういうことで良いんだよね?」


「多分、そうだと思う。トビラっていうのが、よく分からないけれど」


「まあ、そこは気にしないで。僕がそう呼んでいるってだけだから。僕は、慎二の助けになりたいんだ。だから、慎二が悩んでいることを、全て話してほしいんだ。格好つけたり、嘘を吐いたりしないで、本当のことを全て」



どうして、タンザナイトが僕のことにこんなにも親身になってくれるのかは、全く見当もつかなかった。


僕の夢の中だから、僕が問題を解決するために作り出した、都合の良い存在なのかもしれない。

そうだとしたら、僕はタンザナイトに全てを伝えるべきなのだろう。

他人に話すことで客観的に自分を見つめ、解決策を見出すことが出来るかもしれない。



「わかった。僕の話を聞いてくれ」


タンザナイトは優しく目を細めて、頷いた。



二人してその場に座ると、僕は昼間に起こった出来事を、僕の目線から話し始めた。


先生に、将来についての話で嫌味を言われたこと。

その内容があまりにも馬鹿げていて、心底呆れてしまったこと。


美波は大輝のことが好きだと思っていたのに、実は僕のことを好きだったこと。

大輝は美波のことが好きということ。

僕はそれをずっと前から知っていたこと。


沙也加への気持ちが分からないこと。

全てを話したつもりだ。



タンザナイトは何も言わない。

静かに、真剣に、僕の心と向き合ってくれる。

時々相槌を打ちながら、僕の話を最後まで聞いてくれた。



「僕は、幼馴染の関係が、完全に崩壊するのを恐れているんだと思う。大輝が美波のことを好きだって聞いたとき、本当は怖かった。三人が当たり前だったのに、二人が付き合ってしまったら、僕は邪魔者でしかなくなる」


「でも実際は、大輝は美波を、美波は慎二を好きだったわけだ」


「そうらしい。だからと言って、幼馴染の関係が崩壊することに変わりはない」


「どうして?」


「だって……例え、僕が美波と付き合うことになっても、大輝を傷つけるだけだし、それに、中途半端な気持ちでは美波とは付き合えない。僕は、美波に恋愛感情は抱いていないから」



強く膝を抱え込む。

不安でいっぱいだった。

どう転んでも、関係を修復することは難しいだろう。

美波も大輝も傷つけてしまう。

 

そんな僕の気持ちとは裏腹に、タンザナイトは明るく笑った。

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