第4話 裏腹
「羽月さん、お弁当だよね? お弁当の他にも何か食べるの?」
そう言われて、私は無意識のうちに夏樹さんの後ろへ並んでいることに気が付いた。
「いや、一人で待つのも寂しいしな~って……」
それっぽい言い訳を吐くと、夏樹さんは納得した。
「そっか。ごめんね、いつも混んでるんだよねーここ」
また不必要に気を遣わせてしまっただろうか。別に夏樹さんが気負うことではないし、そもそもこんなことを一々考えてしまう私が面倒臭いだけだ。
「次の方~」
注文口からの声に、会話は遮られた。
見かけによらず、あれだった。
「夏樹さん、これ、本当に一人で食べるの……?」
「そうだよ? 羽月さんも食べる?」
夏樹さんのお盆の上にはカレーライスとラーメン、そして、空いているスペースを無理矢理埋めるように小さいうどんが載っていた。見事に炭水化物しか視界に入らない。
「私はお弁当があるから大丈夫だけど……」
「そっか、食べたくなったら言ってね! じゃあ、いただきます」
夏樹さんは控えめに手を合わせると、長髪を耳にかけ、一気にラーメンを啜った。私はこの光景を未だに受け入れることができない。お弁当の蓋を開け、景色を変えた。
「少な! 羽月さんこれだけで足りるの? 午後からお腹減らない?」
私のお弁当の中身を見て、夏樹さんは目を丸くした。
「う、うん…… 私小食だからさ……」
「夏樹さんが多すぎるだけだよ」なんて口が裂けても言えない。取り繕ってそれらしい理由を答えたが、明らかに夏樹さんの量が異常なだけだ。周りの生徒を見ても、夏樹さんだけ明らかに浮いている。それどころか、近くを通る生徒には必ず凝視されている。
「羨ましいな~ 毎日食堂に通うのは面倒臭いんだよね」
愚痴を吐露しつつも、夏樹さんは既にラーメンのスープを飲み干していた。そして、そのままの勢いでうどんに箸を入れる。やはり、私はまだこの光景を受け入れることができない。
「お、美味しそうに食べるね…… そんなにここのラーメンって美味しいの?」
年頃の女の子のメンタルに対して最大限配慮した話題を投げかけた。美味しいものは仕方がない。誰だって一瞬で平らげてしまうものだ。決して夏樹さんが大食いだとか、そういう問題ではない。ラーメンが悪いのだ。
「確かに美味しいんだけど、ずっと食べてるから正直飽きてきたんだよね……」
夏樹さんは、私の配慮の全てを台無しにしながらスプーンに持ち替えていた。
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