その3
今までの悪口が軽いものだと思わされるほど悪化した。人のことを菌扱いするのはまだ序の口で彼らは螺鈿の弱点を的確に突いた罵詈雑言を吐き、それに耐えかねて反論すると螺鈿に悪口を言われた、という大義名分を得たとばかりに手を出した。
一番ひどかったのは螺鈿とは違うはずのクラスの彼らの仲間がいるときに反論した時だ。いきなり彼は鋏をもって螺鈿を追いかけ回した。その様子は普段いじめに無関心を貫く螺鈿のクラスメイトまでもが彼を止めようとするほどに恐ろしかったそうだ。最終的に螺鈿は捕まってしまい、床に俯せに強く叩きつけられた。
その後、ようやく来た担任によって事態は収まったが、床に叩きつけられた時に目を痛めたため介護の先生に付き添われ病院に行った。幸い怪我自体は軽く、後遺症なども当然無かった。
当然、暴行を加えた彼の親に担任から連絡が入ったが、彼の親は
「息子は正義感のためにやったため悪くない、悪いとしたらその子だろう」
と言い、お詫びの一言はなかった。また、当時の担任新人といっても差し支えないほどに若い先生で事態を収拾できるほどではなかったのいじめが続いた原因のひとつだろう。
このときの螺鈿は自信を失いすぐ泣き出してしまうほどに心が弱っていた。その最たるエピソードが秋頃に行われた学芸会で寿限無を演じた時で、演者が着る浴衣や下駄が用意できなかった。
母に渡された甚平とサンダルを持っていき、皆が着替えた後で誰に何を言われたわけでもないのに勝手に劣等感を感じて泣き出してしまった。このとき、担任と共に螺鈿を慰めていたのが綾巴(あやは)で、世間一般で言うところの「心が弱っている時に異性に慰めてもらうとその異性に恋をしてしまう」状態にあった。
小五になって先生が代わり表面上はいじめが収まってもその状態は続き、なるべく綾巴と共に行動しようとし、同じ相手を想うさとしと何かと張り合うようになった。
このときの螺鈿はまだ知らなかったが、父の会社では業績が悪化しており京都に本社を構える某企業に父が所属する部門ごと買収されるという話が流れていた。
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