第7話あかり、自室を大暴露!
「え~! あかりの部屋、こんなだったなんて、想像できなかった~!」
まなみがマスクの上から鼻をつまむ。あかりの視線が波打つ。
「が、学校では絶対に言わないでよ?」
マスクがずれないように慎重に頷く友人を見て、あかりは毛束で顔を覆う。
「だ~から言ったでしょう? はい、まなみさん」
「ありがとうございます」
インテリアアドバイザー・ゆうきは玄関から三歩分離れたところでビニール製のサックから取り出したものをまなみに差し出す。
まなみが喜んで受け取ったのは、無数の細かい毛玉ができた靴下と使い捨てのシャワーキャップ。
そして年季を感じる水泳用ゴーグル。
「これくらい、予想していましたよ。汚れに汚れることでしょうから、洗濯機に入れなくて済むようなものを用意しておかなきゃ」
あかりの傷心に追い打ちをかけるのはゆうき。
生地が薄くなった割烹着を着て、主の許可なくその場でスニーカーを脱ぐ。
ゆうきが履いていたのは、色褪せたカーキ色。摩擦で布部分がすり減っている。
「それにしてもビールの臭いが強いですね。ナメクジが家に上がり込んだらどうするつもりだったんですか?」
「な、ナメクジ?」
あかりとまなみがゆうきの背中に隠れるように身を寄せ合う。お互い防備しているので、互いが衛生面のテリトリーに侵入することはない。
「そうよ、ナメクジはね、ビールが大好きなんです。それはそれはうようよ~っと……」
「ギャー!」
若い二人が両手を握り合う。頬の距離が縮まり、ゴーグルの端がカチンッと鳴る。
「なーんてね。大丈夫、今のところナメクジはいないみたいだから。まずは空き缶の山をどうにかしましょう。四十五リットルのビニール袋二枚で足りるかしら?」
ゆうきはサックからビニール袋と軍手を一組、百円ショップで販売されている薄い布のバッグから火ばさみを二本取り出す。
「気休めですが、これがあればナメクジを触らなくて済むでしょう?」
あかりとまなみは片手を固く握りしめながら、もう片方の手でそれぞれ火ばさみを受け取る。
固唾を呑んで、魔の巣窟に踏み込むこと三十分。
「うーん、やっぱりビニール袋三枚は要りましたね~。それにしてもあかりさん、二十歳だったかしら? 成人一年目なのに、ずいぶん飲みますね」
ゆうきはコンビニのレジ袋にあるものを入れ、持ち手を固く結ぶ。
その仕草が素早いので、まなみは何をしているのか分からない。
まなみが換気のため窓を開けている隙を狙っていたこともあり、あかりにはゆうきが言いたいことを察知する。
現実を見せつけられた衝撃、友人に私生活を晒した羞恥、そして残酷なまでに細かいゆうきの配慮。
どれが一番強い感情なのか分からず、あかりは何も答えられない。
ゆうきははめていた軍手を「燃えるゴミ」袋に入れ、新しい軍手に替える。
「さ、次は断捨離しましょう。自分のプラスにならないものはさっさと処分するのが一番! ね、あかりさん」
ゆうきはまなみに見えないように、ウインクをする。あかりの察知は確信に変わった。ゆうきがあかりを絞める正体に気づいていることを。
「まなみさん、今回の断捨離はあなたの参考になるわ。だから手伝ってくださいね」
「はい、先生」
ナメクジが出現しなかったことで安堵したまなみは、マスク越しでも分かるほど声のトーンが高い。
三時間に及ぶ断捨離が開始されるまで、残り五秒。
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