第6話偽キラキラ女子・あかりとチェック項目の解説
「うっわ~! 予想はしていましたが、このチェックの数は酷いですね」
それでも鉄壁の笑顔に歪みが見えない。過去にまなみの写真以上に散乱した部屋を目にしたと見た偽キラキラ女子・あかりと同類の友人・まなみ。
不名誉な烙印を押されたショックよりも、十年も先の人生を歩んだゆうきの未知に想像が追い付かない。無言で口内を乾かす。
「まあ、とくにあかりさんが何か言いたそうなのはわかります。いろいろとね。でもそんな品もなく開口する暇はありませんよ。どうしてこのチェックシートで偽キラキラ女子と断定できるか、ご説明します。いいですね?」
あかりとまなみが重い頭を下ろす前に、回収したキャラクターのボールペンのうち、ピカチュウが飛び跳ねた。
「ここ!」
トン、トン、とゆうきが最初のチェック項目をボールペンで指した。
以下、ゆうきが設けたチェック項目の解説。
□たとえ所有物が服にしろアクセサリーにしろ、把握していないということは、あなたが本当尾はご自分に興味がないから。
もし本当に自分磨きに夢中であれば、ご自分にフィットするデザインやコーディネートを普段から把握しているはず。
その場しのぎで見繕う必要がなく、自然とオシャレできるものだから。
人間の自然体が最も美しいと言われるのは、それが理由である。
□翌日のコーディネートが決まらず、当日ギリギリまで慌てて服の山を漁る。
――物の最終地点、ゴミ箱の位置が定まっていないと、安らぎ空間を確保することができない。
あなたの体内の気の巡りが悪くなるばかりでなく、マイナスの気を纏った不要物に四六時中触れていることで、本来必要なものまでも物持ちが悪くなる。
□手持ちの服やアクセサリーのデザインや所有数を把握しておらず、ショッピングのたびに似たようなデザインの物を複数購入する。
――上記と同じ理論です。結局は自分に興味がないから、自分を見つめる時間を設けないということです。
□メイン、サイドともにテーブルの三分の二以上のスペースが空容器などで埋め尽くされている。
――テーブルの理想は引き出しのあるものだが、脚と脚の間に隙間を埋めてもベター。
要は、机上にスマホとマグカップ以外の者を置かないこと。
仮にそのテーブルでレポート編集などをするとして、物で散乱した場所で集中できるはずがない。
□化粧品はポーチやドレッサーの引き出しにしまっておらず、いつでも使用する物が机上に散乱している。
――化粧は女子にとって毎日の
しかし、そもそもポーチやドレッサーの中に使う予定のない物が入っている可能性が高く、その必要性は皆無である。
□毎回の自炊はカップラーメン、ごみはそのまま。また、シンクは使用済み食器で埋め尽くされている。
――内面から滲み出る美しさと健康の九割以上は食事で決まると、健康や食に関する書籍の多くに、異なる表現で同じことが書かれている。
例えば、今食べた物が半年後の自分を作る、など。
「では、ここで質問です。あかりさん、まなみさん」
「えっ? あ、はい」
二人は声を揃えて肩を震わせた。ゆうきの解説が見えない鏡となっていて、突然自分たちと異なる動きを見せる。思い込みから現実に戻り、二人の全身に温度差を感じる。
「あなたたちの周囲に、毎食カップラーメンだけで生活しているのに肌がキレイな人は何人いますか?」
あかりとまなみは互いを見合わせた。鏡を見立てて顔の距離が縮まる。
「あかり、よく見ると毛穴の黒ずみ、鼻に何か所かあるね。化粧で分からなかった」
「そういうまなみこそ、昨日生理になったって言ったよね? 吹き出物、おでこに一個あるよ」
「じゃあ、ほかの人は?」
両頬に手を当てる鉄壁の笑顔のゆうきには、吹き出物も黒ずみも見当たらない。
「ちなみに私、今日生理三日目」
あかりは立ち上がる。その勢いにより椅子は五十センチほど下がり、机はあかりに目掛けて傾く。ゆうきはあかりを見ながら、視界の外にある机を両手で押さえ、転倒を防ぐ。
まなみは腰の力が抜け、突発的な物理変化に反応できない。椅子に座ったまま、開口してゆうきの肌を見つめる。
「ま、私は美容の専門家ではないんですけどね~。要は、インテリアや住まいが充実していると、毎日はつらつとして仕事や勉強、お肌のお手入れに精が出るってことですよ。あ、そうそう。まだまだ続きますよ~」
□お風呂にはカビが何か所にも生えていて、浴槽にはぬめりがある。
――風呂場は女子の美を作る最高の場所である。それにも関わらず浴槽の底がぬるぬるしているて垢が浮かんだ湯船に入るなど、衛生面でも美容面でも非常にナンセンス。
自分を大事にするために自分に興味を持ち、浴槽もキレイにするとよい。
□ゴミ箱の定位置が決まっておらず、いつも裸のレジ袋に不用品を詰め込んでいる。
――レジ袋を再利用することは悪いことではなく、むしろ地球環境にとってはよいこと。だからといってそのまま床に放置するのはキラキラ女子のすることとは言えない。せめてオシャレなデザインのゴミ箱に設置するのが女子の嗜み。
また、普段使うものも含めゴミ箱の位置が定まっていると、確保できるスペースが安定し、自分のお気に入りのリラックス空間、お気に入り空間を作ることができる。
「そもそも、普段から整理整頓、断捨離していれば六畳一間でも十分リラックスできるんですよ。私の今の部屋もそのくらいの広さですし。それでもお花を活けたり、アロマキャンドルを取り入れて、毎日の生活を十二分楽しんでいますよ」
六畳一間、というフレーズに両肩を震わせ、あかりは全身が硬直する。
まなみはあかりの心配ではなく、整った身だしなみを見てゆうきに問う。
「あの、仮にあかりの部屋が汚部屋……じゃなくて、実際に私と同じチェックが付くとどうして分かったのですか?」
まなみはゆうきとあかりの上半身を見比べる。ファッションの洗練度は明らかにあかりが上回っている。ゆうきはどこにでもいるようなファッションをしている。ナンセンスではないが、特別に垢ぬけているわけではない。
「あら、まなみさん。逆に聞いていいかしら? あかりさんの傍にいて、どうして気づかなかったの? 彼女が真の姿を隠していることを。見繕ったところで、バレるだけなのに」
ゆうきは付け足す。
「あなたたちは磨けば磨くほど輝くジュエリーそのものなの。その真の姿を隠してきったな~いお部屋に不満を持つなんて、矛盾していると思いません? 私はファッションの専門家でもないけど、それでもわかるほど、あかりさんの雰囲気に表れているわ。でも安心して。インテリアに関しては私が二人ともお世話をするから」
あかりの耳には届かない。不名誉な烙印を押された汚部屋に今日も帰るのかと思うと、理想のライフスタイルが雪崩となり全身が押しつぶされそうになる。
今後どうすればよいのか、路頭に迷ったうつろな目で天井を見つめるほかにない。
まなみが勝手に同日にあかりのカウンセリングの予約を入れていることなど、気づくわけがない。
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