[Ep2]ハルジオン・デイズ - 食に関心の無い世界を料理人が歩み行く

第6話：どこのラノベかっての！

　【いつもの肉】を食べて外に出ると、清々しい風がサアッと吹き抜けていった。

　エゲツない肉の味が洗い流されるような気分だったが、現実の口の中はそうはいかなかったようだ。

「明日の昼までの我慢だ……ふぅ……」

　若干げっそりとしつつ昨日休んだ木まで歩き、幹に背を預けて腰掛ける。

　何気にお気に入りの場所になっている事もあり、今度ベンチでも置こうと心に決めた。

「村に着くまでにサラッと見たけど、もう一度スキルの確認をしておこうかな」

　タブレットを取出し、状態（ステータス）を表示させる。

　上部のスキルタブをタップすると、所持しているスキル一覧がズラリと出てきた。

――

　＜基本タブ＞

　七節（ななふし）　綴文（つづみ）

　人族　女　十八歳　Ｌｖ１

　職業：料理人

　称号：異世界人、神の御使い、食の探求者、食材に愛されし者、幸運の女神

　体力：１０

　魔力：計測不能

　攻撃：１０

　防御：１０

　素早：１０

　運：ＭＡＸ＋限界突破

　装備：村娘の上服、村娘の下服、村娘の上着、木の靴

　＜スキルタブ＞

　【身体強化】Ｌｖ☆

　【能力強化】

　――閲覧権限が与えられていません――

　【料理魔法】Ｌｖ☆

　火炎術：微火、弱火、中火、強火、火操

　水氷術：真水生成、海水生成、炭酸水生成、水操、氷生成、氷操

　温冷術：熱操、冷操

　風嵐術：乾燥風、湿気風、撹拌風、風操

　土木術：樹木生成、土砂生成、岩石生成、木材加工、石材加工、研磨

　光聖術：殺菌、消臭、消毒、光操

　闇邪術：解呪、隷属、催眠、催淫、五感遮断、闇操、魂操

　無重術：物操、重操

　毒癒術：回復、異常解除、蘇生、毒生成、毒操

　結界術：物理防御結界、魔力防御結界、封印結界、防音結界、防臭結界

　包丁術：筒斬、輪斬、半月斬、銀杏斬、色紙斬、短冊斬、細斬、千斬、櫛斬、拍子木斬、角斬、賽ノ目斬、微塵斬、乱斬、薄斬、笹掻、削斬、筋斬

　調理術：皮剥、種抜、桂剥、擦下、面取、鱗剥、内蔵抜、骨抜、筋取、潰砕、叩伸、満混、揉込、盛付

　調味術：絶対計量、絶対味覚

　【記憶鮮明】

　五感記憶強化Ｌｖ☆

　記憶強化：瞬間記憶Ｌｖ☆、空間記憶Ｌｖ☆

　記憶操作：記憶整理Ｌｖ☆、記憶引出Ｌｖ☆、瞬間引出Ｌｖ☆

　記憶出力：記憶保管Ｌｖ☆、記憶印刷Ｌｖ☆、記憶投影Ｌｖ☆、記憶共有Ｌｖ☆

　記憶読取Ｌｖ☆

　【概念書換】

　概念創造Ｌｖ☆

　概念操作：概念連結Ｌｖ☆、概念切断Ｌｖ☆、概念融合Ｌｖ☆、概念解体Ｌｖ☆、概念施錠Ｌｖ☆、概念解錠Ｌｖ☆、概念複製Ｌｖ☆

　【魔眼】

　鑑定眼Ｌｖ☆、賢者ノ瞳Ｌｖ☆

　【タブレット】Ｌｖ☆

　ギフト：【限界突破】

――

「うん、やっぱりどう見ても人やめちゃってるね」

　【料理魔法】の中にどう見ても料理に関係ない物も含まれてるし、正直意味が分からない。

　転生前に付与してくれた【前進】と【嫉妬】の神さまが、なんか頑張っちゃった感じかもしれない。

「まぁあって困るものでもないし良いんだけどね……」

　はははっと空笑いが漏れる。

「料理に関しては地球に居る時以上に……異常に？　上手く出来るようになってるみたいだし、記憶力も変人レベルになってるし、生活に困るわけじゃないし諦めが肝心かね……」

　溜め息を吐きながら空を見上げれば、雲も青さも地球と大差無い。

　葉の隙間から漏れる木漏れ日も、頬を撫でる風もそうだ。

　この木の下から見上げる空が、今一番心を落ち着かせてくれるのが、なんだか嬉しい。

「はぁ……今頃お母さん泣いてるんだろうなぁ……あの人寂しがり屋だったし……」

　残してきてしまった母を思い浮かべていると、木の反対側からガサッと音がした。

　村の誰かが来たのかな？　と思って目元を拭うと、こちらに近付いてきている事に気が付いた。

　何気なく音がする方を向いてみると……。

「スライム？」

　ほんのり水色っぽい透明な物体がプルプルと揺れている。

　周りを見ても他にスライムは居ないようだが、いったいどこから入ってきたのだろうか。

「そういえば、この村の柵って簡単に入ってこれそうな感じだったね……」

　正直、戦闘力無いから倒せる自信は全く無い。

　かと言って放置するわけにもいかないし、どうしようか悩んでいると、スライムがプルプルと震えながら飛びついてきた。

「ちょっ！　服溶かされる！」

　スライム＝服を溶かしてくるというイメージが先行して腕をクロスして防御を試みるが、粘体なのでヌルっとすり抜けてお腹辺りにポインっと弾力を感じる結果となった。

　しかし、予想に反して服が溶ける事も無く、何か攻撃をしかけてくるわけでも無く、ただ飛びついてきただけのようだ。

――スライムをテイムしました

――スキル【獣魔術】を獲得しました

――スキル【獣魔術：捕獲】を習得しました

――スキル【獣魔術：命令】を習得しました

――スキル【獣魔術：意思疎通】を習得しました

――スキル【獣魔術：獣魔言語】を習得しました

「えっ！　ちょっと！　異世界来て最初のテイムがスライムって、どこのラノベかっての！」

　スライムはお腹にへばり付いてプルプル震えている。

「……えーっ……どうすればいいのよ此れ……」

　スライムはお腹にへばり付いてプルプル震えている。

「私と一緒に居たいの？」

　スライムはお腹にへばり付いて頷くようにポインポインと動いている。

「はぁ……しょうがないなぁ……とりあえず＜鑑定眼（アヴィデクスパー）＞」

　タブレットの画面が切り替わり、スライムのステータスが表示される。

――

　＜基本タブ＞

　ななし

　スライム　無性　０歳　Ｌｖ１

　職業：―

　称号：七節綴文の獣魔

　体力：１０

　魔力：１０

　攻撃：１０

　防御：１０

　素早：１０

　運：１０

　装備：―

　＜スキルタブ＞

　【溶解】Ｌｖ１

　【体当り】Ｌｖ１

――

「君は生まれたばかりだったんだね、ステータスも完全に初期値っぽい感じだし」

　スライムを膝の上に移動させ、スベスベな体を撫でながら呟くと、一度ポインと揺れた。

　せっかく一緒に居たいと言って？　くれているし、なんか愛着湧き始めてるし……色々弄ってみたくなってウズウズしてきた。

　試したい事は色々あったし、変なことになりそうなら直ぐ止めれば良いし、と安易な考えで早速とりかかった。

　まずはどんな欠片が作れるか、だ。

　「スライムにさせたい事をメインに考えたいから……＜概念創造（コンクレエ）：｜巨大＞」

　手のひらに灰色の欠片が現れ、表面には【巨大】と書かれている。

　それをスライムの概念板（コンセイル）に設置するが……特に何も起こらなかった。

　ステータスを見ても特に変化は無く、意味のある言葉でも影響を及ぼさない場合があると分かった。

　次に【変化】の欠片を作り、同じようにしたが何も起こらず。

　なんとなく【巨大】と【変化】を融合してみると【巨大化】という二×一の横長な欠片が出現した。

　それを設置してみると……カチリと嵌った直後にスッと消えてしまった。

「え、え、なになに？」

　突然の出来事に焦ってしまったが、スライムがポインポインと嬉しそうにしているが異常があるようには見えず、ホッと一息。

　落ち着け落ち着けと思いながら、冷静になりながらステーテスの確認を行う。

　すると、新たに【粘体術：巨大化】が追加されていた。

「なるほど！　スキルとして判断されれば、吸収されて習得ができるようになるのね！」

　軽い感動を覚えつつ、スライムに増えたスキルをそっと撫でると、突然指がスッと入り込み指先に何かが触れた。

　驚きつつそれを摘んで引き抜くと……【巨大化】の欠片がそこにはあった。

　と同時に、スライムがとても残念そうにヘニャッとなってしまった。

「スキルの習得と解除？　奪取？　強奪？　忘却？　……なんでもいいや、とにかく人ならざる事ができるってのはよく分かったわ」

　また乾いた笑いが出るが、こんな事を知ってしまったら思わずにはいられない。

　この子のスキルをカスタマイズしたい！

「せっかくだから前衛も後衛も出来る、万能タイプになってもらおう。必要なのは……」

　スキル構成は、攻撃と回復に重点を置いて、捕縛とか出来るようにしようと思う。

「アレもあったがいいよね……あとコレと……漢字以外っていけるのかな……あ、いけた」

　スライムに出来る範囲で、あーでもないこーでもないと考えながらスキルを増やしていく。

　いきなり全部高レベルにすると扱いきれないだろうから、基本Ｌｖ１にする事にした。

　そして、最終的にこうなった。

――

　＜基本タブ＞

　ななし

　スライム　無性　０歳　Ｌｖ１

　職業：―

　称号：七節綴文の獣魔

　体力：１０

　魔力：１０

　攻撃：１０

　防御：１０

　素早：１０

　運：１０

　装備：―

　適正属性：

　　下位：水、風

　　上位：幻、音

　　特殊：毒、癒

　＜スキルタブ＞

　【体当り】Ｌｖ１

　【硬化】Ｌｖ１

　【状態異常無効】Ｌｖ☆

　【粘体術】

　巨大化Ｌｖ☆、縮小化Ｌｖ☆、分裂Ｌｖ１、粘液Ｌｖ１、粘糸Ｌｖ１、溶解Ｌｖ１、溶解液Ｌｖ１

　【隠密術】

　隠密行動Ｌｖ１、透明化Ｌｖ１、気配遮断Ｌｖ１、気配察知Ｌｖ１、気配探知Ｌｖ１

　【魔法】

　水術：水刃Ｌｖ１、水撃Ｌｖ１、水砲Ｌｖ１

　風術：風刃Ｌｖ１、浮遊Ｌｖ１

　幻術：幻影Ｌｖ１

　音術：消音Ｌｖ１

　毒癒術：自己再生Ｌｖ☆、毒生成Ｌｖ１、回復薬生成Ｌｖ１

――

　調子にのって弄りすぎたかもしれない。

　なんか忍者みたいになってしまった。

「……一気に頼もしくなったね、心なしかキリッとして見えるよ、スライムさん」

　スライムは綴文の周りをポインポインと跳ね周り、喜びを表しているようだ。

　この感情が分かるのは獣魔術の【意思疎通】のお陰なんだろう、凄い役に立つ。

　そういえば、巨大化と縮小化はＬｖ１が最大値だった。

　そういうスキルも存在するんだね、勉強になった。

「よし、じゃあ縮小化して肩に乗ってくれるかな？　何時の間にか太陽も傾いてきたし、宿に帰らないとね……君の事も紹介しなきゃいけないし」

　頷くようにポインポインと跳ね、きゅきゅーっと小さくなって肩へ飛び乗る。

　……何此の可愛い生物、ヤバイ愛しい。

「……はっ！　ちっちゃ可愛いのに見惚れてしまった！　……帰ろうか」

　指で撫でてあげると左右にプルンプルン揺れて喜ぶものだから、顔が綻んでしまう。

　若干ニマニマしながら白々亭へと歩を進めながら、ある事に気が付いた。

「そうだ、君の名前を決めてあげないとね」

　寝る前にでも決めようと考えながら、白々亭の扉を開けるのだった。

――神界――

「無事に獣魔化できたようじゃな」

「なんでスライムなんすか？」

「愛らしいじゃろ、スライム」

「……え？　そんな理由っすか？」

「そうじゃ、常に一緒に居てくれる仲間が居った方がいいじゃろ？」

「そこは全面肯定するっすけど……スライムっすか……」

　【前進】が腕を組んで顎を指で摘んで首を傾げる姿を見て、【輪廻】はとても不満そうに鼻を鳴らした。

「なんじゃなんじゃ！　何なら良かったんじゃ！」

「いや……宿で良くしてもらってますし、しばらくはいらなかったんじゃないかなーと思っただけっす」

「…………そうかの？」

「あたし個人の意見なんでアレっすけど」

「わ、私も……まだ……よかったか、かな……と……」

　おずおずと【嫉妬】が【前進】に同意した事で微妙な空気になる。

　【輪廻】が口を尖らせて何かブツブツ言っているが、獣魔を仲間にする事自体は否定されていない事に気付いていないようだ。

　相変わらず綴文への伝言を忘れているが、思い出す日は来るのだろうか……。