第6話 結成! すーぱーあゆみんミニ四チーム!
Sector-1:AYUMI-1
大会まで時間がない! こんなときはどうする? ……合宿だっ!
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「やっと着いた……」
あたしたちの前にあらわれたのは、古式ゆかしい旅館の門構え。作られてから時間を重ねてきたのだろう、くすんだ感じも頼もしく思える。
バスから降りてきた会長、ルナ、そして早乙女ズ……たまおとたくみもあたしと同じようなリアクション。
「あなたのお母様もなかなか、詳しいのね」
会長が言うと、ルナは照れて笑った。
「ママはこの辺に何回か泊まったことがあるっていうから、探してもらったんだ」
「……納得」
「そんなことより早く入ろうよー、ボクもう疲れたよ」
「それもそうね、よっし、トゥインクル学園ミニ四駆部、移動!」
ここは強羅。ロボットの秘密基地でもありそうな名前だけど、あたしたちミニ四駆部は揃ってやって来た。何で? と言えば、「ミニ四駆選手権」地区予選を戦う前に、いちどみんなで話し合いたかったから。つまりは……合宿だ。あたしの思い付きにルナがこたえて温泉つきの宿を探してくれた。会長は、こういうのが趣味なのか時刻表でルートを調べて、バスの遅れすら計算に入れた完璧なスケジュールを組んでくれた。たまおはルナと泊まりに必要なものを用意してくれたし、たくみは会長のプランにあーだこーだ注文をつけて、ゆとりのある計画にしてくれた。
なんというか、準備をする段階で目的はほとんど達成されちゃったような気がするんだな、これが。
「ごめんくださーい」
玄関を上がったところで声をあげるが、誰も出てこない。しばらくたって、遠くから小走りの足音が近づいてきた。
「んもーお母さんったら……どうもごめんなさい。ようこそいらっしゃいました」
ぺこり、とお辞儀をしたのはあたしたちと同じくらいの女の子。
「あー、どうも。お、お手伝い?」
「はい! お母さん、いや、おかみさんがちょうど団体さんのお見送りに行っちゃってて……そうそう、トゥインクル学園ミニ四駆部さん、でいいんですよね」
「はい」
「じゃあ、お部屋用意してますんで、お上がりになってください」
「おじゃましまーす」
一泊だからそんなに荷物は多くない……と思ったら、ルナは外国にでも行くのかっていうようなキャリーバッグを転がしてるし、一方でたまおはデパートの紙袋ひとつだ。みんなバラバラ。
「あの、涼川あゆみ、さんですよね?」
「はい!?」
部屋まで案内してくれてる旅館の娘から声をかけられて、あたしはアタマから変な声を出しちゃった。
「わたしもミニ四駆やるんで、その、《すーぱーあゆみん》のウワサは聞いてます」
「あー……」
「よっ! 人気者!」
たくみが茶化す。まあ、まんざらでもないけどさ。
「あなた、ミニ四駆やるっていうけど、ひょっとして『選手権』は」
「出ます! 強羅中学校プラモデル研究会、チーム《メリーゴーランド》です!」
「あ、そう……」
思わぬところにライバル? あたしが言葉を探してる間に、部屋についてしまった。
「それでは、ごゆっくりお過ごし下さい」
「はーい」
畳敷の部屋がふたつ。五人じゃもて余しそうな、広い部屋だった。
「あー、ボクお風呂入ってくる」
「待って、わたしも~!」
荷物を放り出したたくみを、ルナが小走りで追いかける。
「ズボラ」
「そうよね、全くもう……」
たまおと会長は、奥さんよろしく荷物の片付けと、お茶をいれる準備を始めた。なんというか、うん、わかる。それよりもあたしの中で気になることが渦を巻いてとまらない。
「あたし、ちょっと、さっきの娘に聞いてくる。『選手権』のこと」
「ちょっと、涼川さんまで!」
「すぐ戻るから、ごめんなさい」
そう、さっきの娘。ミニ四チューナーならわかる。言葉ではうまく説明できないけど、「デキる空気」を持ってた。そう、感じたんだ……。
SECTOR-2:TAKUMI-1
大浴場って聞いてたけど、なんだか違うよ。でもそんな時、ボクの前で猪俣センパイが……!
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「大浴場」って書かれた看板の下、ボクと猪俣センパイは立ち止まっていた。
温泉宿のお風呂っていうから、ドラマとかに出てくるような露天風呂を期待してたんだけど、普通に屋根があって、タイル張りの大浴場だったんで、正直、がっかり。
「むー、また後で、みんなで入りますか~?」
「そうね……でも、せっかくだから入ってからもどろうよ」
猪俣センパイはそう言い終わる前にもう、着てるものをもう、脱ぎ始めてる!
「は、はい、そうですね!」
ボクも慌ててあとに続いた。
一年生の間でもずいぶんウワサになってる、猪俣センパイ、いや、プリンセス・ルナ。そのひとと二人っきりでお風呂にはいるってことに今更ながら気がついて、焦る。これは、ヤバそうだよ……。なんでたま姉やあゆみは来ないんだ?
「いきましょ、たくみさん」
ボクを待たずに、センパイは引き戸を開けて洗い場へ進む。自然にロールした髪が、細い背中でしなやかに揺れてる。ボクは何でかわからないけど、ゴクリ、とつばのカタマリをのみこんだ。
そそくさと髪を、顔を、からだを洗っていく。まだ夕飯前の時間だから、ボクたちの前に入っていたひともいないし、後に入ってくるひともいない。貸切り状態のまま、二人で湯船に入った。
「はーっ」
リラックスしたため息が聞こえるけど、ボクにはそんな余裕がなかった。黙ったままでいると、
「たくみさん、ありがとうね」
そんなことを言うもんだから、のぼせたみたいに顔が熱くなる。お風呂の中だから目立たなくてよかったけど……。
「ありがとう、って、そんな、ボクはなんにもしてないですよ?」
「ううん。あなたのような、プラモデルを、ミニ四駆がわかってるひとが増えるのは頼りになるから」
「はー……わかってるんですかね……ってことは、センパイはなんというか、初心者っていうか」
「うん。まだまだ勉強中よ」
でもつい最近、寮の食堂で生徒会長と猪俣センパイが《バーサス》でバトルしてセンパイが勝ったらしいって聞いたけど……。
「じゃあ、どうしてミニ四駆を? ていうかミニ四駆部に?」
「うーん、そうね……」
天井を見てから、ニコッと笑ってボクを見た。
「部長が……あゆみちゃんが、真剣だったからかな? 食堂でグランプリレースを見てたときも、ミニ四駆のことを語るときも、普段からいつも全力だよね。その目かな。あの娘と一緒にいると、真剣に遊べそう。真剣に戦えそう。そう思ったからね」
話し終えた猪俣センパイの笑顔は、本当に、キレイな笑顔だった。
SECTOR-3:TAMAO-1
会長の決意……あたいにはしっかり伝わった。そうだ。いけるとこまでいってみましょう。
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「はぁ~」
「はぁ……」
なんとか荷物を片付けて、あたいと生徒会長はお茶を一口飲んだ。
開け放った窓から、普段とは違う音が聞こえてくる。水の流れる音。聞いたことのない鳥の声。浮わついたおじさんおばさん達のおしゃべり。日常とはかけ離れた時間を思い知る。
「それにしても、たまおちゃん」
「はい」
「あなたって……」
「は」
「あんまりしゃべんないね」
「はあ」
よく言われるし、あたい自身はそれがいいとも悪いとも思ってないなら、コメントすることはとくにない。だから、考えはそこでおわり。でも大抵のひとには、それがよくない、ものたりないと言われる。
「ま、しゃべりすぎていいことはないから。あなたみたいなひと、あんまりいないタイプだから、ね」
「そうですか」
「うん」
そう言ったときの笑顔は、それまでの生徒会長の印象とはずいぶん差がある、やわらかくてやさしい笑顔だった。そのギャップの向こうには何があるんだろう。あたいにしては珍しく、興味と疑問が浮かんできた。
「あの、会長」
「わっ!?」
なぜだかわからないけど、会長が湯飲みを手から滑らせた。間一髪でキャッチしたけど、その慌てっぷりに、あたいの方がむしろ慌ててたかもしれない。
「すみません」
「いいのよいいのよ、あなたから声をかけられるとは思ってなかったんで」
「すみません」
「ううん、で、何かしら?」
「会長が……ミニ四駆部に入ったのは、どうしてですか」
会長は目を見開いたかと思うと、静かに目を閉じた。眼鏡の向こうで何を考えてるのか、推し量ろうとするけども、難しい。
「ひとつじゃないんだけど」
「ひとつじゃなくていいで」
「でもひとつだと思うの」
「……ひとつですか」
一口、お茶を口に運んでから、会長はゆっくりと目を開けた。
「あゆみに、押しきられた感じかな」
「押しきられた」
「諦めるどころか、放っておいた思いに、あゆみが火をつけちゃったから」
「それって、マラネロ女学院の」
「うん、それもある。それよりも、ミニ四駆っていうものに対して、レースに対して、何かと戦うっていうことに対して」
確かに、「押しきられる」っていうことばは合ってる気がする。
「それでどこまで行けるのか、見たくなった、試してみたくなった、からかな。ごめんね、よくわからなくて」
「いえ、大丈夫です」
キーになるのは、やっぱりあゆみ。
と、フスマが勢いよく開け放たれて、そのキーが飛び込んできた。
「ゴハンだってさ!」
SECTOR-4:AYUMI-2
《ミニ四駆選手権》、そのレース形式について説明するよ! みんなしっかり確認するように!
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お手伝いをしてる娘、小田原ゆのちゃん。チーム・メリーゴーランドは、もう「選手権」にも申し込んだとのことなので、いろいろ聞いてしまった。
その、ゆのちゃんが運んでくれたゴハンを美味しくいただいて、あたしたちは何だかリラックスモードに入っていた。
「はっ!」
何のために、ここまで来たのか。五人でダラダラと寝転がってスマホをいじったりテレビを見るためじゃないはず!
「部員全員注目!」
あたしはそう叫んで、バッと立ち上がった。浴衣の会長とたまお、Tシャツ・短パンのたくみ、そしてネグリジェ? なにか優雅なモノをまとったルナ、それぞれあたしに向き直る。たまおがすかさずテレビを消す。
「なあに?」
ルナが言う。
「改めて、今度の《ミニ四駆選手権 地区予選大会》について確認しておきたいの」
バッグからクリアファイルを取り出し、布団の上に広げた。一枚目の真ん中に大会の名前が大きく印刷されている。
「そもそも《ミニ四駆選手権》とは? いまから27年前、サーキットでミニ四駆を走らせるってのが出来上がるのと同時に始まったイベント。そこはいいわよね」
ちら、とたまおを見ると、小さくひとつ頷いた。
「今の《バーサス》のもとになった、バーチャル世界でミニ四駆を走らせる装置を使っての大会。第一回の決勝は三分割ボディのマシンがフロントモーターのマシンを破って勝ったみたい。それから全国を巡業したり世界戦を開催したり色々あったみたいだけど、今は学校対抗になって、各地で予選大会を開いて勝ち上がったチームを集めて全国大会を開催することになってる」
「そこまでは知ってるよ」
たくみはあぐらをかく。
「そうね。で、神奈川エリアの予選が二週間後、土・日の2日開催。初日はエントリー全チームでの、《チームタイムトライアル》。日曜日の決勝は、予選での上位チームによる《8時間耐久レース》と発表されてる」
「《チームタイムトライアル》ってどういうこと?」
会長が身を乗り出す。浴衣がセクシー……なはずだけどそんな気配ぜんぜんない。ジャージのあたしが言えた立場じゃないけど。
「えー、少なくとも3台、最大で5台で1周のタイムを計るそうです。3台のラップタイムを合計したものをチームのタイムとして出して、その上位10チームが決勝進出で」
「待って? じゃあ私たちみたいな5人チームはどうなるの?」
ルナの質問に、あたしは書類を斜め読みする。
「あった! 4台の場合は、ベストの1台のタイムはカット。5台の場合は、ベストの1台と最下位の1台をカットする、って」
「はーん」
「……納得」
「たま姉、どういうこと?」
「エース1台に集中させても、無意味」
「あー、なるほど!」
「たまおの言うとおり。このルールだと、とにかく全員がベストのタイムを出さないといけない。逆に一人はコースアウトギリギリの攻めたセッティングにしてもどうにかなる」
「そっか、おもしろそう」
「うーん、難しい」
「やるっきゃない!」
「戦略が重要」
「よーし、じゃあ作戦会議! っと、あとひとつ」
ここに来る前に気にしていたもの。書類の束の中、ポストイットを貼ったものがある。
「学校名とは別に、チーム名をつけららるんだって。さっき小田原さんに聞いたら、ほとんどの学校はつけてるらしい 」
「確かに、秀美のマラネロ女学院は、たしか《スクーデリア・ミッレ・ミリア》って長い名前だったわ」
「……どうする?」
SECTOR-5:RUNA-1
旅行先でないと、朝のお風呂ってなかなかできないから……って、あなたは!
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目覚まし時計がないのに、自然に起きてしまう。いつもとはぜんぜん違う時間に寝たのに、起きるのは普段とおなじ時間。そんなことありませんか? 私はいま正にそんな感じです。
オレンジ色の光の下、まだみんな寝ているようで静か。でも妙に静かな感じはありますけど、遅くまで起きてたからまだ寝てるのでしょう。
そのくらい、5人で考えて、話し合って、悩んで、笑って。レースについては結局、全員が頑張るしかない、チーム名についてはみんなで考えてあした決める、そのぐらいしか決まりませんでした。それでも、みんなとの距離は縮められたような気がします。
うーん、何かもう一度寝られないので、せっかくだから朝風呂に入ろうかと。枕元の着替えをもって、そーっと部屋を出ました。昨日も行った廊下の先、大浴場がありました。
「あれ? たくみ?」
誰かが既にお風呂場にいるようで、すりガラスごしには、たくみが入っているようでした。昨日も真っ先にお風呂に入ろうといい始めていましたし。
さっと裸になって扉をあけると、昇ったばかりの日の光が飛び込んできて、その中に立ち上がった女の子のシルエットがありました。なんというか、月並みだけど「こうごうしい」としか言えないような姿でした。
「……先輩、来たんですね」
たくみよりもトーンの低い声。
「たまおちゃん?」
勘違いしてたのが恥ずかしくて、何となく気まずく、私はあわてて洗い場へ。たまおちゃんは湯船に。私が洗い終わるのを待ってたのか、たまおちゃんは肩までお湯につかってじっとしていました。
「となり、いい?」
「はい」
たくみとはぜんぜん違う、鋭い感じが伝わってくる。でも誰かを遠ざけたり、傷つけたりするような感じじゃないのです。どっちかと言えば、日本舞踊とかなぎなたあたりが似合いそう。私のなかに「?」マークが浮かびました。
「たまおちゃん」
「もう出ますか」
「いや、そうじゃなくて……。たまおちゃんがプラモデル、それにミニ四駆をやってるのってどうして?」
今まで見たことない、困った顔に一瞬なって、でもまたいつものクールさが戻って。
「プラモデルは、自分との対話です。無心になりたくて。でもミニ四駆は、もちろん自分とのもあるけど、コースとの対話、相手との対話。つながりが、そこにあるので」
「そっか」
「先輩とも、会長とも、それにあゆみとも」
たまおちゃんが天井を見上げた。
「じゃあミニ四駆部に入ったのも、そのつながりのせい?」
「そう、ですね」
「みんなとの?」
「いえ、どっちかと言えば、あゆみとの」
「あゆみちゃんとの、つながり?」
「ええ。あゆみは、私たちを特別あつかいしない。双子で、プラモデルが好きなんていったら、みんな興味だけか、無視するかだから」
「そっか」
「だから、あゆみには感謝してますし、頑張らないと、と」
思いがけず、ハートの立ち入り禁止エリアに入ってしまったようで、私は次の言葉が出せませんでした。
「ところで先輩」
「え、何?」
「チーム名なんですけど、何か思い付きました?」
「そう、ね……」
「私、ひとつしか思い付きませんでした」
たまおちゃんが不意に立ち上がって、口にした名前。
確かにそれが自然だなって、私も思ったのです。
SECTOR-6:KANADE-1
昇る朝日に、私は決めた。あゆみと、このみんなとで頑張っていくんだって。
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夜明け前に目が覚めて、布団の中でモゾモゾしていたら、誰かが部屋を出ていく音が聞こえました。二人、それとも三人? 顔を合わせるのもバツが悪く、私は物音が止むのを待って目を開けました。
障子の向こう、夜が終わって朝になり始めている。日の出が近い。私は布団を這い出ると、浴衣の上にジャケットを羽織って、静かに部屋を出ました。
学校にかよい、勉強に生徒会に部活、そして帰って休んで、また次の日が始まる。そんな繰り返しから抜け出たときでないと、日の出なんてみる機会はないから。正面を出て駐車場へ行くと、箱根の山々の間から太陽が浮かび上がろうとしていた。
「きれいですね」
背中からかけられた声に振り向くと、Tシャツ姿のたくみがいたのです。
「あれ? 何しにきたの?」
「会長こそ! ボクはただ、朝の内に少し走っとこうと思って」
「へえ……そんなことしてるんだ」
ナイロンの短パンに、ランニング用のシューズ。いつものヘッドフォンは軽いイヤホンに交換してあるし、ソックスはくるぶしまでの短い形で、すねやふくらはぎがあらわになっている。そんな健康的な姿からは、「モケジョ」であることは想像できない。
「たくみは、どうしてプラモデルとか、ミニ四駆が好きなの?」
「どうして? いやあ、好きだから、としか答えようがないですけど……」
「それじゃあ、ミニ四駆部に来たのはどうして?」
すっ、とたくみの顔に薄暗いものが走ったけど、ほんの少しのことでした。
「あゆみが……」
一瞬いいよどんで、続ける。
「あゆみがうらやましかったから、ですかね?」
「うらやましい?」
「あー、うまく言えないんですけど、一歩、いや二歩くらい先を行ってるんですよ。ボクたちがキャラクターのプラモを作ったら、その時にはリアルなロボットを作ってるし、追い付いたとおもったら今度はミニ四駆」
たくみは私の横まで歩いてきた。昇る朝日が、晴れやかなたくみの顔を照らす。
「わかるわ。あのコが《ミニ四駆部》を作るって言ってきたときもそうだった」
「ナイショにしててほしいんですけど」
たくみが小声で言う。
「あゆみは……ボクのあこがれ、かも、です」
「ふーん」
いいことを聞いた、とつい私はニヤけてしまう。
「会長!」
「うん、わかってるよ。ホント、あのコはファンが多いわよね……」
ゆらゆらしていた太陽の輪郭がはっきりしてきて、強い光になっていく。そうするともう、直接は見ていられない。
「そういえば会長、チーム名なんですけど」
「ああ、なにか考えた?」
「はい、もう、いくつか思い付いたんですけど、これしかないなって」
たくみの考えた名前は、もともとこうだった、って思えるくらいに自然で、逆らえない強さがあった。
「うん、私も、それがいいと思う」
「ありがとうございます! じゃあ、ボクはひとっ走りして戻りますんで」
言い終わる前に、たくみは駆け出していた。照れ隠しなんだろうけど、ちょっと可愛かったよ。
SECTOR-FINAL:AYUMI-3
一番になろう! 誰よりも速く、誰よりも強く、誰よりも美しく!
いこう、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》!!
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「忘れ物ない?」
ロビーにそれぞれの荷物を並べて、チェックアウトの手続きを済ませた。費用はルナのお母さん……どんな立場の方なのかは考えたくないけど……が負担してくれた。情けない!次にやるときは、学校の部費でまかなえるように、どうにかしたい!
「涼川さん、ありがとうございました」
小田原ゆのちゃんが深々とお辞儀する。同い年のコにそこまでされると、あたしの方が何か悪いことをしてるような気にさせられる。
「いえいえ。次は、じゃあ《選手権》の予選だね」
「はい! 会場であいさつさせて下さい」
「うん。《チーム・メリーゴーランド》が決勝に出られるといいね」
領収書をもらったルナがやってきて、全員が揃った。うまく言えないけど、みんなの距離が近くなったみたい。こう、横に広がったときの幅が昨日までよりも、せまい。
「じゃ、部長、いきますか」
会長の言葉を合図に、それぞれの荷物に手を伸ばす。
「ぜひ、あの、涼川さんたちも決勝に行ってほしいです!……そういえば、みなさんはチーム名はつけられてるんですか?」
小田原さんの問いかけに答えようとしたとき。
「「「「はい!」」」」
四人が一斉に答えた!
「え、あたし、まだ聞いてないけど、いつのまに?」
「それぞれに考えたんだけど、ボクらひとつしか思い付かなかったんだよ」
「だから、もう、それがいいんじゃないのかなって」
「いずれにせよ、4票入ってるから」
「賛成多数」
お互いを見て、なんだかウフフフ笑ってて、ちょっとくやしい。
「で、何に決めたのよ」
「それは……」
『すーぱーあゆみん!ミニ四チーム!』
……は?
「ちょっと、なによ、それ! このチームは、あたしだけのものじゃないのよ?」
会長が一歩、前に出る。
「確かにそう。でも、私たちはあなたに誘われて、あなたを信じて、あなたと一緒に何かをやりたい、続けたいと思って集まった。だから、私たちは、あなたの名前で出場したいと思ったの」
「そんな……」
みんなの視線があたたかくて、でも辛い。
と、不意に拍手が響いた。小田原さんだった。
「すごい! めっちゃいいですよ! 《すーぱーあゆみんミニ四チーム》! わたしはいいと思いますよ!」
「そうかな……」
拍手が大きくなる。たくみが、たまおが、ルナが、会長が、拍手を始めた。もう、恥ずかしいことをするんだから……。瞳から溢れそうなものを、手でぬぐった。
「わかった! いいわ! トゥインクル学園ミニ四駆部、
《すーぱーあゆみんミニ四チーム》! いくわよ!」
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