第5話 ふたりはモケジョ!!

Sector-1:RUNA-1

 秋晴れの空のもと……。

 私たちの挑戦はここから始まる! はずが?

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 今日はトゥインクル学園の文化祭です。


 この学校の文化祭は中等部と高等部が合同で行うので、準備の間から、普段は近づかない高等部の先輩方やその教室に近づくことが多くなります。もちろん、中等部の中でもクラス関係なく、色んな部活の人が校内に溢れかえるわけです。

 私には、ちょっとゆううつな期間でした。クラスのみんなからも、1枚ガラスをはさんだようなお付き合いしかしてもらえないのですから、ウワサしか知らない他のクラスの子、それに高等部の先輩からもどんな風に見られるのか心配で心配で、とにかくこの期間を、そして文化祭の一日を静かにやり過ごすことに集中していました。

 でも、今年はちがいます。涼川さんに誘ってもらったミニ四駆部。その仲間である涼川さん、恩田会長が私を広いフィールドに誘い出してくれました。そう、この青く広がる秋空のように広いフィールドに……。


「はぁ……」


 なぜかため息が出ました。例えではなく、今頭の上には青い空が。そう、私は、いや私たちミニ四駆部は屋上にいるのです。


「恐れ入りますが、会長」

「なんです?」

「あの、本当に高等部の屋上しか使わせてもらえなかったのでしょうか」

「ごめんなさい、猪俣さん。本当に本当なのよ。新しい部活が使える場所なんて、余ってなんかないから」

「もし、予算の問題というのなら、協力……」

「わー、わーわーわー!」


 ブルーシートの上に広げられたコースを飛び越えて、部長である涼川さんが私たちの間に滑り込んできました。


「あの、部活ですから。私物で活動するようなことはしません」

「そういうものなのでしょうか……」

「そういうものです」

 ずいっ、と顔を近付けられてしまうと、もう用意してるものがあるとはさすがに言い出しにくく、作り笑いでごまかしてしまいました。


「ま、こういうところから始めた方が、この先うまくいきそうな気がするんだ!」


 涼川さんはそう言って腕を組みました。この根拠のない自信がどこからやってくるのか。私にとっては不思議で、同時に魅力的なところでも、あるのです。


「でも、まあ見学者歓迎とは貼り紙してるけど、実際ここまで来てくれるのはよっぽどの物好きか、このメンバーに恨みでもある人じゃ」

「たのもーう! たのもうたのもう!」


 涼川さんの言葉を遮って、階段から通じる扉が開いた。私は《彼ら》を恐れて身を固くしましたが、現れたのはトゥインクル学園の制服でした。


「やあやぁ!涼川あゆみ!」


 現れたのはショートカットの元気な娘。涼川さんを指差した、その背後から影が立ち上がったかのように、もう一人の娘が現れたのです。文字通りそっくりの顔で。


「……勝負」


 その様子を見て、会長がキャンピングチェアから滑り落ちました。


「ぶ、分身したーっ!」


 そんなはずはないと思いますが……。



Secor-2:AYUMI-1

 昔なじみの双子だけど、まあなんだかケンカ腰ですな。いいよ、受けて立とう!

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「あ、早乙女ズきてくれたんだ」

「ボクらをまとめて呼ぶな!」

「……無粋」


 早乙女ズ。

 ふたりは双子。だけどそれぞれから受ける感じはだいぶちがう。

 妹のたくみは元気。自分のことをボクって呼ぶのがちょっとイタいけど、あたしに似たところもある。一方で姉のたまおは、無口で何を考えてるかわからない。たまにしゃべっても短いことばしか出てこないので絡みづらいんだよな。


「ちょっと、あなたたち」


 立ち直った会長が言った。


「一年生でしょ? 先輩に向かっての口の聞き方、それでいいの?」

「ああ、会長気にしないで。あたしと早乙女ズは付き合い長いから、これでいいの」

「しかしねぇ」

「……閑話休題」

「そうだよ! ボクらは用があってきたんだ! もちろん会長さんにもね!」


 たくみが、抱えていた100円ショップのツールボックスからなにかを取り出して、あたしに向けて突き出した。人型のロボット、のプラモ。表面はつや消しで、立体的な塗装がされている。背面から伸びるパーツは人型のシルエットを崩し、追加の武装があちこちに取り付けられていた。


「涼川あゆみ、まだミニ四駆なんかやってるの?」


 挑戦的な目。でもまっすぐだから、悪い気はそんなにしない。いつから見てきたのか思い出せないくらいの、おなじみの光。


「悪い?」

「悪いに決まってるだろ! そういうのは小学生にまかせとけばいいんだよ!」

「年相応」


 たまおもどこからか、自分のプラモを取り出した。武骨な、平べったい、土色のカタマリ。まっすぐに伸びた砲塔が強い力を感じさせる、10(ヒトマル)式戦車。タミヤのホームページで何度か見たことがある。


「ふたりともよくできてるじゃない。でも、それとミニ四駆となにか関係あるの?」

「あるさ! ミニ四駆はプラモの長い道のりのほんの始まり。いつまでもとどまってちゃだめなんだよ」

「……プラモ部」

「たま姉の言うとおりさ! ミニ四駆部なんて小さいこと言わずに、プラモ部にしようよ、あゆみ」

「あなたたちなに言ってるの!」


 会長があたしたちの間に立つ。


「会長から言われたことですよ。プラモ部を新たに作るのは認められない。ミニ四駆部に合流しなさいって」

「あ、あの申請書は、そうか、あなたたち!」

「申請書?」


 あたしは思わず繰り返した。あれをめぐってはあたしも会長とたたかった経験があるから、ヒトゴトとは思えない。


「なんとなく、早乙女ズの言いたいことがわかってきたわ」

「だから、その言い方はやめてって」

「つまり、私達3人がまとめてミニ四駆部から、あなたたちのいう《プラモ部》に移ればいいわけですか?」


 ルナも立ち上がった。


「正解」

「でもそんな事、生徒会長の私が断ります。二人がミニ四駆部に入るっていうのならわかるけど」

「へっ、そんな事は折り込み済みですよ。もちろん何にも条件なし、なんていいません」

「条件ね……」


 だいたい話の流れが見えた。早乙女ズは、手にしたプラモをしまうと、また別のどこかから、今度はミニ四駆を取り出した。


「……コペン、RMZ」

「ボクはコペンXMZ! この2台と勝負してよ。もし、あゆみが負けたら」

「ミニ四駆部は《プラモ部》になるわけね」

「そのとおり!」

「ちょっと、涼川さんがそんな条件をうけると思っていますの?」


 ルナが両手を拡げて私の前に立つ。ありがたいけど、腹は決まってる。静かにルナの肩に手をおいて、あたしは言った。


「いいよ。やろうよ。ただちょっと時間をくれない? 一時間後に、講堂で各部のアピールタイムがあるから、そのときにさ。」



Sector-3:KANADE-1

 受けなくてもいい勝負を避けるのも、チームリーダーの仕事じゃないの?

 それとも勝てる自身があるのか……。

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 文字通り嵐が通りすぎるように、たまおとたくみ、早乙女姉妹は屋上からいなくなった。

 あゆみは、久々にヘアバンドを巻いて「すーぱーもーど」に入っている。エアロサンダーショットを取り出し、セッティングを始める。


「もともと2台でデモ走行をする予定だったから、《バーサス》借りてきてたけど、相手は二人。どうしましょうか……」


 私は言いながら頬杖をついた。一台ずつのタイムアタックにするか、それか一対一の勝負を二回やるか。あゆみは私の考えにも気づかずにもくもくと作業を進めている。


「あの……」

「ん?」


 猪俣さんが、妙にもじもじしながら近づいてくる。手には、何かが入った紙袋。そういえば朝からこの娘の足元にあって、何が入ってるのか気になっていた。


「私物、なんですけど」


 取り出したのは、軽金属の筐体。外であらためて見ると、光を反射してまるで後光がさしているようだった。


「《バーサス》! ちょっと、これなんでもってるの?」

「あの、お二人に少しでも追い付きたくて……それに、今日のデモ走行、ふたりだけだとちょっともったいない、というか私のフェスタも混ぜてもらいたくて」

「じゃー決まりな」


 顔を上げず、手も休ませずにあゆみが言った。


「《バーサス》を3台つかって、二対一でいいでしょう」

「ちょっとあゆみ、それじゃ圧倒的に不利じゃない! 相手は2台で作戦を変えてくるだろうし、それ以外にもどんな手を使ってくるかわからないのよ?」

「わかってますよ。わかってます。早乙女ズの考えそうなことは」


 振り向いてニヤリと笑うと、また作業にもどる。


「お二人のこと、よくご存じなのですね」

「まーね。前からああよ。二人の世界がまずあって、そこから周りを変えようとしていく。小学生のときからそう。」

「周りを、変えようとする?」

「そう。たくみの関心がどっかにいったら、たまおがうなづいて、あとは目の前のものを何でもやっつけていく」

「なるほどね……」


 確かに。学年で唯一の双子だから目立つはずだが、彼女たちの回りで不穏な動きは見られない。もって生まれたパワーとでもいうべきか。


「でもたくみは、にぎやかなのが好きなだけ。本当にいろいろ考えているのは、たまおの方。あの娘がノープランで勝負かけてくるとは思えない。きっと何か作戦があるはず。」

「作戦か……」


 思わず、空を見上げた。

 相変わらず日差しがまぶしく、澄んだ青い空だった。



Sector-4:TAMAO-1

 ……こういうのを豆腐メンタルっていうの?

 まあ、アタイがどうにかするしかないけど……。

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「あれでよかったの」

「うーどうしよどうしよどうしよ」


 アタイの言ったことに反応できないほど、たくみはナーバスになっている。校舎の裏手、日差しがほとんど届かない場所に、アタイらは逃げるようにやってきた。ま、ホントに逃げてきたんだけどな。

 たくみは校舎の壁に背中を預けて、あたまを抱えている。ふだんのテンションが高い分、その糸が切れたときの落差が激しい。でも、たくみはいつだってこんなもん。自分が有利なシチュエーションをつくったつもりになって上から目線で向かっていくけど、アイディアが足りなくて返り討ちにあってしまう。まあ、それがたくみのやり方だといえばそれまでなんだけど。


「こんなこともあろうかと、一回バーサスで練習してきたやん」

「あーでもでもでもでも、リアルのコースならまだマグレもあったかも知れないけど《バーサス》ったら無理だって」

「なんだかなぁやねえ」


 腕時計は1時50分を指している。


「二時からだよな。さ、そろそろいこか」

「ああ、あああ。」

「アタイの作戦は聞いてたよね」

「ううう、うん」

「アタイが先に出るから、たくみはあゆみをマークしといてね」

「おお、おおう……」


 たくみの口から、威勢のいいかけ声の代わりにため息が出る。まあ、身から出たサビ、自業自得、どうとでも言えるだろうけど、そこまで自分を信じて追い込めるのも、うちにはない個性だと思ってる。


 うちらは隠れていた場所をでて、体育館へと向かった。

 トゥインクル学園の文化祭は二日間にわたって行われ、文化系の部活には一枠ずつのアピール時間がもうけられている。軽音部のライブや演劇部の劇など定番のものが並ぶなかで、ミニ四駆部の存在は控えめに言っても「異様」だった。

 まあ初日の午後という、どうしても眠くなる時間は人気がないから、たまたま空いていたスペースを埋めるように滑り込んだようだ。でもできてから一ヶ月もたってない部が枠を作れたあたり、生徒会長の権力と、それだけではない交渉力がよくわかる。それでもミニ四駆なんて、この学校ではマイノリテイのはず……。


「あわわ、結構ひとが入ってるよ」

「……想定外」


 並べられたパイプ椅子は半分ほどうまっている。中等部の生徒の中に、高等部の生徒も見える。

 確かに、「すーぱーあゆみん」こと涼川センパイは、ミニ四駆部立ち上げのときのエキジビションで相当な有名人になった。さらに新たに入った猪俣センパイは学内で知らぬものはいないスーパーお嬢様。そして説明の要らない恩田生徒会長。

 学内の人気者がそろってるんだから、当たり前なのかもしれない。


「ふたりとも用意いい?」


 不意に後ろから声がかかる。

 猪俣センパイの笑顔がそこにあった。


「そろそろ出番だから。いきますよ」



Sector-5:AYUMI-2

 いくよっ、《ミニ四駆選手権》参戦体制発表会!

 と、早乙女ズとのレース、舞台は富士で。

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「それでは、午後の部活アピールタイムです。最初は、この7月にあらたに生まれた《ミニ四駆部》です。それではお願いします」


 司会のコが話し終わると同時に、正面のスクリーンに《バーサス》の画面を映し出す。あたしはステージ上、スポットライトに照らされた演壇に立つ。


「みなさん、こんにちは。ミニ四駆部部長をつとめてます、2年Z組の涼川あゆみです。

 こないだ皆さんに応援していただいたおかげで、こうして正式な部活として活動できるようになりました。この場を借りてお礼します。ありがとうございます。」


 深く一礼。


「ミニ四駆部は、お陰さまで部員が3人に増えました。生徒会長としてお馴染みの、恩田奏センパイ」

「お馴染みって!」

「それと、うん、説明はいらないですね。猪俣ルナさん」

「説明してよ~」

「これで、私の念願だった《ミニ四駆選手権》へエントリーすることができました。《ミニ四駆選手権》は、今から……だいたい25年前に第一回大会が開催された、いちばん伝統のある大会です。まずは、来月の神奈川県大会突破が目標になります。マラネロ女学院をはじめ、神奈川には強豪校がたくさんありますけど、この3人なら、必ず、絶対に勝てると思ってます!」


 場内からどよめき、そして拍手。この、足元からゾクゾクする感じがたまらないんだな。


「ありがとうございます。今日は、この《バーサス》を使ったデモ走行を観てもらう予定でしたが、急遽、たのもしいチャレンジャーが現れたので、エキシビジョンマッチに変更させていただきます。じゃあ、ふたりとも」


 うながされて、早乙女ズが入ってくる。たくみはいかにも緊張した様子。たまおは相変わらず平然としたもんだ。


「1年X組、早乙女たまお」

「お、同じく早乙女たくみです! ボクらは、ミニ四駆部に挑戦する! ボクらはミニ四駆だけじゃなくてプラモをみんなに知ってもらいたい! だからボクらが勝ったら、ミニ四駆部は《プラモ部》に変えてもらうよ!」


 瞬間、ブーイングに包まれる場内。

 たまらずわたしはマイクをとった。


「落ち着いて! 大丈夫です。……勝ちますから」


 スクリーンの《バーサス》が、レースモードに移る。映し出されたのは、富士山。


「よし、はじめよっか!」



Sector-6:RACE

----------

 -COURSE:Fuji Speedway

 -LENGTH:4.563km

 -LAPS:5

 -WEATHER:Sunny

 -CONDITION:DRY

 1P

 -CAR:Kopen RMZ

 -CHASSIS:VS CHASSIS

 -TUNER:Saotome,TAMAO

 2P

 -CAR:Kopen XMZ

 -CHASSIS:Super-2 CHASSIS

 -TUNER:Saotome, TAKUMI

 3P

 -Car:Aero Thunder shot

 -CHASSIS:AR CHASSIS

 -Tuner:Suzukawa,AYUMI


 LADYS, START YOUR MOTOR.


 FORMATION LAP ENDED…


 Signals all red…


 Black out!


 GO!


LAP 1/5

 涼川選手が選んだコースは富士スピードウェイ。名の通り富士の裾野に位置し、数々の国内レースの舞台となってきた。

 1キロに及ぶ直線と大味なコーナーが特徴であったが、グランプリ招致に伴って近代化工事が行われたため、中低速コーナーが増え一般的な国際レースコースとなった。


 スタートは3台が横一線、中央に涼川選手のエアロサンダーショット、それを挟むようにコペン2台が停まる。


 スタートで飛び出したのはアウト側、たまお選手のRMZ。進路をインに寄せ、涼川選手を牽制する。無難なスタートを切ったたくみ選手のXMZはエアロサンダーショットの背後につけた。3台がひとつなぎになって最初のヘアピン。そこからの加速で、軽量コンパクトなVSシャーシにものを言わせてRMZがリードを奪う。XMZが背後からプレッシャーをかけるため、涼川選手はブロックラインをとらざるを得ない。コーナーごとに、RMZとの差が開いてゆく。


LAP2~3/5

 P1 TAMAO

 P2 AYUMI (+8.253)

 P3 TAKUMI(+0.436)

 RMZは軽快に飛ばすが、バッテリー残量とタイヤの劣化が心配される。一方でXMZはエアロサンダーショットを背後から攻め立てるが抜くには至らない。しかし涼川選手は徐々にペースアップを指示し、じりじりとRMZとのタイム差を縮めていく。


4/5

 P1 TAMAO

 P2 AYUMI (+5.962)

 P3 TAKUMI(+0.587)

 残り1周半となったところで、たまお選手のRMZが左コーナーでスライド、カウンターで立て直すがタイヤが限界であることが露呈する。ノーマルのローハイトタイヤは出足に優れるが、コース上の汚れを拾ってしまうことで急激にグリップを失う弱点があった。かろうじてRMZがリードを保ったままホームストレートへ戻ってきたが、すでに2台がペースアップして近づいてきていた。



Sector-7:TAKUMI-1

 このままいけば作戦通り、勝てる!

 でも、あゆみの想像力はボクらの上をいってた!

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 さすが、たま姉。前もっての作戦通り。

 オーバーペースで逃げるけど、ファイナルラップの直線で失速させる。そのときにイン側へ切れ込みながらエアロサンダーショットを押さえるから、ボクがアウトから抜いていく。

 はたしてその通りになった。バイザーに映るホームストレート、視界の向こうから風の音が近づいてくる。RMZが予定通り、内側へ車体を寄せていく。


「いまだ、コペン、オーバーテイク!」

《Copy.》


 XMZがアウト側から2台を包むように接近する。

 光沢をもったメタリックグリーン、プロテクターのようなフラットブラック、質感のコントラストはモケジョとしてのこだわり。わざわざキレイに作ったプラモデルを走らせて、しかもクラッシュさせてしまうなんて、なーんともったいない。ボクはそう思ってる。あゆみも、キレイなプラモをつくるテクをもってるのに、ミニ四駆にのめり込んでいる。なんでだろ。

 スローダウンするRMZとの接触を避けようと、エアロサンダーショットが進路を内側にとる。これであゆみはタイムロスして、それで終わりだ。


「そこをどけーっ!」


 あゆみの叫ぶ声が聞こえた。

 瞬間、エアロサンダーショットが鋭い加速をかけた。このままでは2台が接触する。いくらなんでも、ボク以外の2台がクラッシュしてボクが勝つってのはあんまりだ。そんな風に勝って、《プラモ部》を名乗っても気分が悪い。そんな気持ちとは関係なく、XMZのバンパーが先頭におどりでる。直線はあと500メートル。


「全開!サンダーショット!」

《Copy.》


 あゆみの声とともに、エアロサンダーショットはRMZの懐に飛び込んだ。クラッシュ、と思われたそのとき、フロントにつけられた低摩擦ローラーが、RMZのサイドに接触して回転した。衝撃を受け流し、推進力に変えてエアロサンダーショットは一コーナー、ヘアピンに突っ込む。RMZはたまらずスピン。


「わっ!」

「これがミニ四駆の走りよ!」


 ブロックしようとしたXMZにもローラーを接触させて、エアロサンダーショットは先頭を奪った。本当に奪い取った。ボディを、光沢にしあげた塗装面を守ろうとしてしまったボクらの負けだった。

 気持ちが切れたとボクらをおいて、あゆみが先頭でゴールした。


「ああ……」


 言葉がない、っていうのはこういうことなんだと初めて知った。悔しい、それ以上に悲しかった。脚に力が入らず、しゃがみこんでしまった。


「たくみ」

「たま姉……」

「立ちな。詫びとお礼を」

「あぁ……」


 今さら何を謝ればいいのか。あたしがなにもできずにいると、ひゅっ、と風を切る音がして、ボクはステージに倒れていた。ほっぺたが熱くなってきて、なにがあったかやっとわかった。


「甘えるな」


 降り下ろされたたま姉のてのひらも、赤く、熱くなっていた。


「これが、レースなんだ」



Secor-Final:AYUMI-3

 これで、今考えられる最強の布陣が完成!

 待ってなさいよ、選手権!

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 あたしがバイザーをとった瞬間、たまおがたくみをビンタ……した。体育館は、その乾いた音の余韻に包まれている。あたしも次に何をしたらいいのかわからない中で、たくみがマイクをとった。何を言おうというのか。あたしはバイザーを持ったまま聞いた。


「お騒がせしました。ただ、アタイら二人だけでプラモを作ったり見せたりするのがイヤになってきて。それでこんな風に。どんなペナルティでも。お願いします。」


 さっ、とお辞儀をして、たくみはもとの場所へ戻った。ペナルティ。そんなんじゃないけど、始める前から考えていたことはあった。


「じゃあさ、ミニ四駆部においでよ。ぶっちゃけさ、どう遊んだっていいんだよ。ミニ四駆なんてさ。でも、あたしはレースで、《ミニ四駆選手権》で走りたい、勝ちたい。でもそれがすべてじゃないし、勝つための方法は早乙女ズのやり方のなかにあるかもしれない。だから、一緒にやろう?」


 あたしは両の手を早乙女ズに差し出した。たまおは迷うことなく手を握った。そしてたまお。


「ボクらを許すの?」

「許す?」


 不意に投げられたたくみの言葉にとまどったけど、あたしはすぐに言い返した。


「《好き》にいいも悪いもない」


 偽らない気持ちだった。

 そして、たくみと、かたく握手をかわした。


 これで5人。戦いの、《ミニ四駆選手権》への準備はととのった!



RACE RESULTS

 -COURSE:Fuji Speedway

 AFTER 5LAPS


 WINNER

 Suzukawa, AYUMI 7:45.324


 DNF

 Saotome, TAMAO

 Saotome, TAKUMI


 SIMULATED BY

 VIRTUAL CIRCUIT STREAMER: <VS>


 SEE YOU NEXT RACE.


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