第4話 超速の貴婦人!

Sector-1 :AYUMI-1

パパが戦うグランプリレース。

それを見る私に声をかけてきたのは……。

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ジャパンカップから帰ってきた夜。あたしはひとり、食堂のテレビを見ていた。

日曜日の夜だから、みんな早く部屋に帰っていくけど、あたしにとってはこれがチャンスなんだな。


テレビには、アスファルトのコース、旗が揺れるスタンド、そして鮮やかでスリムなマシンたち。でも、これはミニ四駆じゃなくて、本物のレーシングカーたち。

日本グランプリ。何もジャパンカップと同じ日にやらなくてもいいとは思ったんだけど、こればっかりはしょうがない。

流れているのは、昼間に行われたレースの録画。だけど地上波で流れるのは久しぶり。それもやっぱり、ヤムラ自動車……そう、パパの会社が復帰したからだろう。

チームの名前はマケラレーン・ヤムラ。ダークグレーのボディに、蛍光レッドの模様が流れるように描かれていて、その先端には「Y」のイニシャルがかたどられたエンブレム。

でも、そのエンブレムも見ていてただただ

つらい。

スタートでジャンプアップしたアローン選手とパットン選手。でもストレートスピードが全然伸びず、後続のマシンに次々抜かれていく。

パワーユニットが他よりも劣るのは明らかだった。『バーサス』でも、バッテリーが切れそうなときにこんな風になる。でもレースはまだ始まったばかりだ。


「ミニヨンク! ミニヨンク・モーター! アアアア!」


テレビから「ミニ四駆」の言葉が聞こえて、あたしは全身が震えた。

アローン選手からチームに向けられた叫びだった。意味は、英語のままでもわかる。「まるでミニ四駆のモーターのようだ」ってことだ。


「しっかりしてよ、パパ……」

「あららら、マケラレーン・ヤムラ……厳しいねえ」


誰もいないと思っていた食堂に、誰かの声が響いた。


「あ、ルナちゃんか……」


眩しいくらいのブロンドの髪が、豊かなカーブを描いてたれている。学年で、いや学園で知らないものはいない、お嬢様、いやいやスーパーお嬢様だ。


「グランプリ、わかるの?」

「うん。だってルナの生まれたセルジナ、じゃなくて名古屋じゃ、自動車は文化だもん」

「そう、そうだね」


むりやりな苦笑い。本人は隠してるつもりでもバレバレなこと。ルナは表向きは名古屋から引っ越してきたってことになってるけど、本当は大きな秘密がある。


「クルマ、好きなの?」


あたしは特に考えもなく聞いた。女子校だから、こんなことを聞くこともめったにない。


「うーん……」


ルナは腕を組んで考え始めた。大きな瞳が開いたり閉じたり、くるくると動く。数秒たってから。


「うん!」

「あ、そう……」


そんな時間が許されるのは、ルナの可愛さからか。視線の先、レースは今一つ盛り上がらないまま進んでいく。

頬杖をついた横顔を見て、あたしは考えた。いや、考えるよりも先に答えが出た。


「ルナちゃん! あしたの放課後、一緒にきてほしいんだ」

「どこに?」

「あたしたちのサーキット、ミニ四駆部よ!」




Sector-2 :KANADE-1

3人目の部員候補、猪俣ルナ。

その素性を私は知っている。知っているけど…。

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「猪俣ルナ、2年Y組。出身地は名古屋、推薦でトゥインクル学園に入学、趣味特技なし、現在所属の部活……なし、ですか」


昼休み、涼川さんが屋上に呼び出すのでなにかと思ったら、手書きのメモを渡された。てっぺんには大きく、「新人スカウト計画」の文字。


「会長、そんなとこはみんな知ってるから、その下を見て」

「は? えーと……ルナについての2年生のウワサ? なんですかこれ?」

「つまり、あたしがあの娘をオす理由!」

「はあ……。じゃあ最初からそう書きなさいよ……。なになに、その1、おウチが超お金持ち、カッコ、ある国のプリンセスかも……?」


私は頭をかいた。確かにあの豊かに縦ロールを描く髪、透き通るようなブロンドヘアーは日本人のそれとは思えない。でも顔立ちは東洋のそれだし、日本語に不自由している様子もない。


「プリンセスってのはちょっと、なんというかマンガの読みすぎじゃない?」

「いーえ。ルナの口からは何度か怪しい言葉が出てきてます」


手元のメモには書かれている。「セルジナ公国」という言葉が。ただし「?」マークつきで。


「これについてはわたしも聞いたことあるけど、ウワサよね。仮にそれが真実だとして、それとミニ四駆と何か関係ある?」

「お金があれば、パーツをたくさん買えます」

「買えるっていっても、個人の買い物は部活で使えませんよ」

「えー」

「しょうがないでしよ」


とはいっても、個人のマシンを速くするためのパーツは基本的には自腹である。自由に使えるお金が多いに越したことはない。


「じゃあもうひとつの方」

「なになに、その2? えーと、レースが好きっぽい、カッコ、これはあたしが昨日聞いた、ですか……」

「そうですよ。昨日あたしがグランプリレースを見てたらスッとあらわれて」

「そう……たまたまじゃないの?」

「いやいや、それなりに知ってるような感じでしたよ」

「じゃあ、興味は持ってもらえるかな」


予鈴がなった。昼休みもあと五分で終わる。


「一応、今日の放課後、見てみたいって言ってくれました」

「へぇ……。まずは一歩、ゴールに近づいたかな」

「まずは、生徒会長の意外な一面にビビらなきゃいいですけど」

「涼川さん!」


言いながら、期待よりも不安が膨らむのが自分でもわかった。

猪俣ルナ。本当は、生徒会長ゆえ素性は先生から聞かされている。マァス・ドオリナ・サレルナ、それがあの娘の本当の名前。そして、ヨーロッパの小さな国、セルジナ公国の第三皇女。

そんな娘が実際にいるのも驚きだが、この日本の学校に、まるで隠すように通っているというのも驚きだ。私にとって、彼女を他の生徒から守ることは生徒会長としての義務。だからと言ってミニ四駆部に入れてしまうのが本当にいいことなのか……。

迷いは尽きない。




Sector-3 :AYUMI-2

まずはミニ四駆がどんなものか、

見てもらうところから始めようかと思ったけれど!?

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六時間目の授業が終わり、部活なり寮なり次の場所へみんな向かっていく。あたしは小走りにとなりのY組に向かった。

クラスの中でも一際輝きを放っている娘。正直、あたしもどっちかといえば浮いてる方だから、ルナのことは何となくわかる。遠巻きに見ていると、だれもルナには声をかけない。同じ部活の娘は連れだって教室を出ていくし、文化系の部は文化系でまとまっていくのに、ルナは一人のままだ。

あたしはずけずけとY組の教室に入っていく。


「あ、あゆみちゃん!」

「すーぱーあゆみん!」

「頑張ってね!」


あの体育館のバトルのせいで、あたしは他クラスでも知られた人間になってしまったようだ。まあ、いいっちゃあいいんだけど……。


「昨日の話、ホントにいい?」

「いいよ?」


ルナを連れ出す。何となく現実感がなくて、頭の中に「?」が踊ってる。


あいかわらず生徒会室に間借りしているミニ四駆部。ノックすると会長の声がした。


「失礼します」

「失礼します」


ルナと二人で会釈しながら入ると、会長が『バーサス』のセッティングをしている最中だった。机に置かれた筐体の回りに、何台かのマシンが並べられている。


「さあ、入って」


ルナを促して部屋に入ろうとしたが、立ち止まったまま。声をかけようとしたところで、ルナは深々と頭を下げた。肩にのっていた金髪が、するりと垂れ下がる。

その動作の、なんというか優雅さにあたしは圧倒された。


「2年Y組、猪俣ルナと申します。この度はミニ四駆部にお招きいただき、誠に光栄に存じます」


これは、本物だ。

あたしや会長のような一般市民とは違う、気配というか空気というかオーラ、そういうものがわいて出ている。

会長も目を見開いたまま固まっていたが、あわてて立ち上がった。


「そんなに、固くならなくても、よ、よくってよ」


ルナは顔をあげた。


「よろしくお願いします」


微笑んで、生徒会室に入る。


「トゥインクル学園中等部生徒会長、恩田奏です」

「よく存じております。日々のお仕事、本当にご苦労様です」


自然な動きで、奏の手をとって握る。あのみみっちい会長が自分から握手なんて気取ったマネをするはずがない。きっと、握手しなければならない空気に飲み込まれたんだろう。


「ほら部長も」

「あ、ごめんなさい。改めて、トゥインクル学園ミニ四駆部、部長の涼川あゆみです」

「ふふ、改めて、よろしくお願いします」


確かに。

まるで、トラスビスがモーターに吸い寄せられるように、簡単に右手が出て、ルナの小さな手と握手していた。


「それで、入部の手続きというのはどのようにするのですか?」

「え?」


思いがけない言葉。


「ルナちゃん、今日は軽く説明だけで」

「いいえ、お手間はいただきません。少し調べてきましたが、ミニ四駆を通じて学校でレース活動ができるのなら、それはとても幸せなことです」


そしてまた、深々と頭を下げた。


「未経験の身ですが、どうかお二方にご指導いただきたくお願いします」

「えー!?」




Sector-4 :RUNA-1

私の初めてのミニ四駆、

運命のマシンは金色に輝くこのコにきめた!

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わたしがミニ四駆部に入部したい、ミニ四駆を作ってみたい、そして作ったマシンをミニ四駆部の方と走らせてみたいと言ったら、恩田先輩は『バーサス』を借りてくるといって出ていってしまいました。

いまトゥインクル学園には1台しか『バーサス』がなく1台ずつしか出走できないので、ミニ四駆バーのマスターから借りてくるとのこと。意外と大変なお願いをしてしまったようで、私は今更ながら反省しています。


「さ、じゃああたしたちはマシンを作っときますか」

「え、じゃあこれから買いに?」

「いやいや、あたしのストックがあるから1台好きなのを差し上げるわ」

「本当ですか? ありがとう」


学校を出て寮にもどり、連れられて涼川さんの部屋に入りました。クローゼットのなか、乱暴に押し込まれた衣服とは対照的に、ミニ四駆キットの箱が10個ほどきちんと重ねられていました。


「この中から選んでよいのです?」

「ええ。どれもマシンが壊れたとき用の予備だから大丈夫」

「じゃあ、遠慮なく……」


フォーミュラカーのようなスリムなマシン、ロボットのような武骨なマシン、スタイリングは様々で、走る姿を想像すると本当に今からわくわくしてしまいます。

そんな中で、スーパーカーのような、薄くシャープなスタイルのマシンにわたしの目が止まりました。ところどころアレンジされてはいますが、あきらかにヨーロッパのスーパーカーを連想させるスタイル。


「これ、いただいていいかしら」

「決まった? どれ、フェスタジョーヌか! いいね!」


涼川さんが箱を引っ張り出す。その瞬間、文字通り表情が凍りついたのです。


「ルナちゃん……別のにしない?」

「え? だってどれでもいいって」

「いや、それは言葉のアヤって」

「なにか、ヒミツがあるのね?」


わたしはやや強引に、涼川さんから箱を奪い取ってふたを開けた。現れたのは、パッケージの黄色とは異なる、半つや消しのゴールドに彩られたボディとホイールでした。


「綺麗……」

「フェスタジョーヌ、ゴールドメタリック……。雨の中三時間並んだのに……」

「え? 貴重なものなら別のにしますよ」

「いや、いえ、いいのよ。もともとこうなる運命だった、そういうことで」

「ありがとう」


そのあとは、涼川さんに教えてもらいながら《フェスタジョーヌ》を組み立てていきました。シンプルな構造のシャーシはわたしにもわかりやすく、三十分ももかからずに組上がりました。


「素質あるわね」

「そんなことないわ ただ」

「ただ?」

「小さい頃にクルマを作る人になりたいって言ったのを思い出したの」

「ふーむ」


不意に鈴川さんのスマホがなった。

「はいはい、はい、お疲れ様でした。で、……食堂? わかりました、おります。でも相手は会長で。え? だっていま作ったばっかりですよ? いやいやいやここは先輩がぜひぜひ」


通話を終わらせた涼川さんがこちらを向いた。


「レースは下でやるって。相手は会長よ」

「はい!」


私はフェスタジョーヌをつかみ、立ち上がった。




Sector-5 :RASE

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-COURSE:SERGINA Street Course

-LENGTH:3.34km

-LAPS:10

-WEATHER:Crowdy

-CONDITION:DRY


1P

-CAR:FESTA JAUNE

-CHASSIS:MA CHASSIS

-TUNER:INOMATA,RUNA


2P

-CAR:AERO AVANTE

-CHASSIS:AR CHASSIS

-TUNER:ONDA, KANADE


LADYS, START YOUR MOTOR.


FORMATION LAP ENDED…


Signals all red…


Black out!


GO!


LAP:1/10

ルナの希望によって選ばれたのは、セルジナ公国の公道コース。

王宮が見下ろす海岸線に設定されたコースは、四方をガードレールに囲まれていてオーバーテイクが容易ではない。

一方でトンネル内の高速コーナーは最大時速250キロに達し、そこからシケインで急減速するゾーンには追い越しのチャンスがある。


スタートダッシュはチューンが施されたエアロアバンテが速い。

四方をガードレールで囲まれたストリートコース、慎重に1コーナーを右に曲がる。フェスタジョーヌも続くが、まだ駆動系が馴染んでおらず立ち上がりが鈍い。登り坂、カジノ前、ヘアピン、トンネル。一周が終わって差は10秒。


LAP:2/10


リードを広げるエアロアバンテから、奏に対して警告のメッセージがとんだ。右のリヤタイヤに異常が発生している。差は20秒まで広がっていたが、ピットインの間にフェスタジョーヌが先行する。

『バーサス』の筐体が開き、奏はマシンを取り出す。右リヤタイヤがホイールから外れかかっていた。あゆみがとっさにテープのりを渡してタイヤを固定する。


LAP:3/10~5/10


エアロアバンテは30秒後ろから追い上げるが、ギヤが馴れてきたフェスタジョーヌのペースも上がってきている。一周につき5秒ずつ差を詰めていくが、なかなかフェスタジョーヌのテールが見えない。差は10秒。


LAP:6/10・7/10

奏は他のタイヤが外れることを警戒してペースをあげることができない。一方でルナはコースの各所で細かい指示を飛ばし、ペースを維持している。基本的なコマンドはあゆみからレクチャーされていたが、それ以上にコースコンディションを確実に理解していることが大きかった。

しかしチューンドカーとノーマルの差はいかんともしがたく、あと3周で2台はテール・トゥ・ノーズとなった。




Sector-6 :AYUMI-3

残り3周、

とんでもないバトルが目の前で始まった!

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さあ、エアロアバンテがフェスタジョーヌのリヤに入った。

ストレート、ホームストレートを駆け抜けていく。ここはルナがおさえこむ。


フェスタジョーヌはエアロアバンテの行く先をふさぎ、狭いコースを巧みに利用している。『バーサス』上でバトル状態になるということは、両者のラップタイムが接近している証拠……。


トンネルの中の高速コーナーからシケイン、ここが問題だ。ここも抜きどころ。しかし順位は変わらない。


もうルナも、さっき教えた「オーバーテイク」の手順を使っているのだろう。

しかしエアロアバンテが後ろに来ている!これは外からいく!もう会長はどっからでも行ける!


「会長! どうしました!? 大丈夫ですか?」

「あーっ! やってるわよ!」

「ルナちゃん?」

「……」


ルナから返事はない。完全に「スイッチが入った」感じなんだろうか。


あと2周。コース脇では「後ろからペースの速いマシンが来ている」ことを示すブルーフラッグが掲示された。しかしあと2周、ルナは譲らないつもりだろうか?


さあ、もう一度トンネル。これが勝負。

シケインが待っているが、ルナが押さえた。フェスタジョーヌがスライドしながら押さえていく。すごいレース、すごいバトルだ。

エアロアバンテが右に左に懸命にプレッシャーをかけるけど、抜けない!


これからファイナルラップ。

ルナにとって初めてのミニ四駆、そして『バーサス』体験が信じられないような、すごいレースになった。


本当に最後のトンネル内の高速コーナー、そしてシケイン。抜かせないルナ。恩田会長、先輩の威厳の灯火が、向こうでかすかに揺れて今にも消えそう……。


このレース、ルナの入部記念というよりも、トゥインクル学園ミニ四駆部にとっては大きな、大きな意味がある。これから最終セクション。


どんなにしても抜けない。ここはセルジナ公国・ストリートコース。絶対に抜けない!

最後の直線、後ろから会長が仕掛けるがどうか!


届かない!


ルナ逃げ切った! 猪俣ルナ、押さえきった!最後の最後、ギリギリいっぱいのところまでフェスタジョーヌ、MAシャーシは我慢した!


と、大きな音が食堂に響く。


「ルナちゃん!」

「猪俣さん!」


フェスタジョーヌがコース脇に止まるのと同時に、きゃしゃなルナの身体が、フローリングの床の上に崩れ落ちた……。



Sector-FINAL :RUNA-2

やわらかい光の中。

グランプリの記憶が、よみがえってきました。

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まだ小学生にもならない頃でしょうか。いまに比べると低い視界。開け放たれた窓の向こうから、大勢の人々の話し声と、エンジンのアイドリング音が聞こえてきます。

見下ろすと、原色、金属色、蛍光色、目がくらむような色の大群。

人だかりがいくつもできている、その中心には、空気の流れをつかまえたかのようなフォルムのマシンたち。屋根のないコクピットには、すでにドライバーがおさまっています。


『母上』


記憶の中のわたしがいいました。


……なあに。

『母上、あのね、あちし、大きくなったら、あのクルマを運転するひとになりたい』

……そう、でも難しいわよ。

『どうして?』

……グランプリに出るためにはもっと下のクラスのレースに勝った、選ばれたひとしかなれないもの。それに力がつよくないと。

『ふーん、じゃあ、ああいうクルマを作る人ならどうかな?』

……あら、それならまだいいかもしれないわね。

『うん、あちし、レースに出られるようなクルマをつくる! つくってみせる!そして勝つよ!』

……そう、じゃあがんばりなさい。


見上げた母上は笑っていて……

「母上!」


気がつくと、わたしは寮のベッドの上にいました。


「ルナちゃん」

「大丈夫ですか? もう本当にびっくりして」


恩田会長と、涼川さんが身を乗り出して私を見ています。そうでした。『バーサス』でミニ四駆のレースをして、無我夢中で、コントロールラインが見えたところまでは覚えていますが。


「大丈夫ですよ」


わたしはベッドから降りました。


「それより、レースはどうでした?もう必死でしたので」


涼川さんを見ると、一瞬目を伏せてから、強い視線とともに言いました。


「ルナちゃんが勝ったよ! 0.125秒差!」

「そうですか。じゃあこれで部に入れてもらえますね」

「え?」


二人は、お互い見合わせてから、わたしを見ました。


「そんな、試験のつもりだったんですか……」

「ううん、いっしょに走らせてくれれば、それで十分」


涼川さんが跳び跳ねて、わたしと会長さんを両腕で抱き寄せました。


「よーし、これで部員3人だ! 明日もう、《ミニ四駆選手権》へのエントリーをしちゃおう!」

「涼川さん、まだ猪股さんが出てくれるとは聞いてないですよ」

「やります! わたしと、フェスタジョーヌで参加させてもらいます!」


あの日みた景色、それは『バーサス』でしっかりと再現されていました。


そして、あの日の夢は思わぬ形で実現しそうです。




RACE RESULTS

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-COURSE:SERGINA Street Course

AFTER 10LAPS


WINNER

 INOMATA, RUNA 12:15.876


P2

 ONDA,KANADE 12:16.001 <+0.125>


SIMULATED BY

VIRTUAL CIRCUIT STREAMER: <VS>


SEE YOU NEXT RACE.

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