射し込む白光
凛子は、結人を見た。
結人はドアを見つめていた。
多分、凛子が生まれてから今までで、最高に気まずい空間だった。
「ほんとに……」
結人がドアを見つめたまま呟いた。
「へ?」
「ほんとにわかってんのかな?」
結人の言葉は独り言だったようだ。
凛子はただ、痛いくらいにきつく握りしめられた結人の手を見つめることしか出来なかった。
「あ、ごめん。月沢さん、ほんとに……」
結人はハッとして振り向くと、すっかり落ち込んだ様子で頭を下げた。
「う、ううん。でもLIOさん、警察は見つかったって言ってるって書いてたけど、やっぱりサナは見つかってないんだね」
「あ、いや、それさ、聞いて来たんだ。そしたら、月沢さんのこととかあの人に話すハメになっちゃって、今日着いて来ちゃったんだけど」
「え? ううん! いいよ、それはもう。それよりその聞いて来たことって?」
凛子は思わず早口になってしまった。結人は、凛子の勢いに圧されながら答えた。
「あ、うん。あのね、サナさん、おじいさんにはどこにいるか連絡してるらしいんだ。だけど、お父さんには言わないでって言ってるらしくて。スマホも充電切れちゃって、充電器がないんだって。お世話になってるとこの固定電話からかけてきたらしいんだけど……とにかくあの人……おっさんさ、自分にだけ仲間外れみてーにされてるから、イライラして必死で、見境ないんだよ。ホント、月沢さんごめ」
「それはいい!!」
「えっ?」
凛子は気付けば、結人のくどいくらいの謝罪を遮って叫んでいた。
涙がボロボロと溢れてくる。
「えっ、ちょっ、月沢さん?! わ、ごめん、俺っ」
サナは、自分を嫌ってたんじゃなかった。
やっぱりスマホが動かなかっただけだった。
なのに、自分は、嫌われたかもしれないとか、うじうじ考えて、サナを助けに行こうなんて思いもしなかった。サナが困ってるかも、苦しんでるかもなんて、思いもよらなかった。
安心と自己嫌悪がぐちゃぐちゃに入り混じって、凛子の涙腺はすっかりたがが外れて壊れてしまった。
うろたえる結人にも、結人のせいじゃないと話そうにも、うまく喋れないくらい泣いてしまっている凛子の手の中で、スマホが鳴動した。
凛子のクラスではホームルームが始まっていた。
担任は会議室に向かっているということで、中年の女性の学年主任が代わりに教室に来ていた。
志穂と心菜は、凛子と結人のことが気になってホームルームどころではなかった為、机の中でそれぞれのスマホを握りしめていた。
その手の中で、わずかにスマホが振動したが、こっそり盗み見るチャンスがない。
早く終われ!!
そう心の中で思いながら、心の中でそわそわしていると、突然教室のドアが開いた。
「志穂! ココ!」
「モカ!」
「モカちゃん!」
スバーンと大きな音を立ててドアを開いたのは、図書室にいたはずの萌花だった。
「見つけた! サナさん!」
驚き戸惑うクラスメイトや、教師すら視界に入らない様子で、萌花は叫んだ。
心菜と志穂も思わず立ち上がる。
ここでようやく教師が声を出した。
「あなた……仙葉さん?」
「先生! ごめんなさい!」
萌花はそう言って教師に頭を下げると、廊下を駆け出した。
「センセ! ごめん!! 生理痛ーー!」
心菜がそう言いながら、カバンとスマホを持って立ち上がる。
「え? ちょっとあなた」
「すみません、私もお腹が痛いので!!」
心菜が教室を出て行くと同時に、志穂も席を立ち、荷物を持って頭を下げてから駆け出した。
「え? ちょっと……何?」
三人は、教師の混乱した声も、ポカンとするばかりのクラスメイトも、全部無視して駆け出した。
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