雨と夜空とブランコ2

「おばーちゃん、星宮さん知ってんの?!」

 心菜が興奮して叫んだ。

「あっ、いや、俺、母さんが星宮のおじさんと再婚して……それでその……」

 結人がオドオドと、萌花の顔色を気にしつつ言うと、おばあさんはみるみる困ったような表情になった。

「あれぇ、なんと。オラだば、なんも知らねで。変たごど言って、わりがったねえ。なんと。星宮さん、再婚したってぇ。ほっほー。なんとなんと」

「おばあちゃん、おばあちゃん。ここん家、星宮さんて、女の子いたの?」

 心菜が駆け寄って聞くと、おばあさんは、なんだか神妙な顔つきで大きく頷いた。

「んだぁ。めんこいこだったよ~。あど、アンダだちとおんなしくらいさ、なってらべえ。なあ」

 おばあさんは結人に言った。結人は「あ、はい」と弱々しい返事をした。

「ね、星宮さんて、何で引っ越しちゃったの?」

「へぇ? ホラ、なんだ。奥さんがねえ。若がったのにねえ。亡ぐなったのよ。三十歳さなったばっかりだったなでねがや。気の毒にねぇ。それで、旦那さん一人だば、小さい子の面倒みれねどってぇ、子供さんどご、じいちゃんばあちゃんさ預けでよぉ。旦那さんも、こごさ一人だば、※おがとじぇねぇ(※あまりにも寂しい)どって、駅の方さマンション買って引っ越してしまったもの」


「あの、その、女の子って、どんな子だったんですか?」

 凛子は勇気を振り絞って、震える声で聞いた。

「なんと、めんこい、いい子だったよう。お母さんのお葬式の日にねぇ、悲しがったんだべなあ。いねぐなって。みーんなして探したの。夜でねぇ。公園さいだっけど。なんと大雨降ってなあ。見づがった時だば、びっしょぬれで、なんとなぁんと」


「あめ……?」


「まぁだ五歳ぐらいだったんでねがったがねえ。なんて名前だったっけねえ」


「さな……」


「ああんだ、さなちゃんねえ。元気にしてらぎゃ?」

 おばあさんは結人の方を向いて、にこにこと聞いた。結人は「ええ、まあ」としどろもどろで答えた。


「さな……!」


 そう呟いた凛子の顔を見た志穂と心菜はぎょっとした。

 凛子はいつのまにかボロボロと涙を流していたのだ。

 志穂が心菜に目配せをして、おばあさんに気付かれないようにそっと凛子を連れてその場を離れた。

 残った三人でおばあさんに礼を言い、愛想よく見送ってから、凛子たちは昨日の公園に移動することにした。


 凛子はベンチに座って、しゃくりあげながら小さな子供のように泣いていた。


 思い出したのだ。

 幼い頃のことだから、ハッキリとしたものでもなく、半分くらい夢なのではないかとも思う、自信のもてない記憶だけれど。

 でも、きっとそうなのだ。

 凛子が、サナに初めて会ったのは、夏休み前の、あの病院の駐車場ではなかった。

 この公園の、今、凛子の視線の先でゆるゆると揺れているブランコだ。


「凛ちゃん、大丈夫?」

「うん、ごめん、思い出しちゃって」

 志穂が凛子の背を撫でて顔を覗きこんだ。凛子は、涙を拭いて、なんとか答えた。

「何を?」

 萌花が心配そうな声で聞いてきた。

「思い出したの。私、ちっちゃい頃、ここでサナに会ってるの」

「え、ちょちょちょちょっとどういうこと?」

 心菜がうろたえる。

「さっきの、おばあさんが言ってた、お母さんのお葬式の日に、サナさんがいなくなったって話を聞いてから、様子変わったけど……その話で思い出したの?」

 志穂に聞かれて、凛子はこくんと頷いた、


「私ね、ちっちゃい頃、お父さんとお母さんが大喧嘩して、それで、家出したことがあって。でも、まだ四歳とか五歳とかそんなだったから、行くとこもそんなになくて、ここにいたの」

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