第29話 先生との思い出はボクの宝物でした

 ボクはゆたか先生とルミンが戦っている屋上へと向かった。

 ボクが屋上へ到着すると、上空でゆたか先生とルミンが戦闘しているのが見えた。


 先生は光の檻に囲まれ、必死に突破を試みていた。

 なんとか先生は檻から抜け出したが、ダメージが相当大きいらしく、屋上へと落下してきた。


 体中血まみれで、呼吸も荒々しい。

 瀕死の先生。

 その先生の上空で輝く光が見えた。

 ルミンは巨大な光を集めていた。

 物凄いエネルギー量がルミンの剣へと集まっていく。

 あんな攻撃を先生が受けたら、間違いなく先生は蒸発してしまうだろう。


 悪魔の姿をした先生。

 本当に先生が悪魔を操っていたのだろうか。


「私は、先生を信じる。魔法少女のゆたか先生を信じるわ。これまでだって、先生は私達を助けてくれた」


 ゆきちゃんがボクに語り掛けてきた。


「そうだよね……それに、ルミンさんはボクを消そうとしているんだ。ボクも先生を信じるよ」


 先生は……もう助からないかもしれない。

 せめて……最後まで先生を信じることにしよう。


 ボクの目に映るのは、ガクガクと足を震わせながら立ち上がるボクたちの先生、魔法少女ゆたか。

 必死に歯を食いしばり、ルミンにデスサイスを向ける。


 まだ……戦う気だ。


 あんなにふらふらになっているのに。

 あんな小さな身体で。


「先生……」


 ボクは涙を流しながら、その雄姿を見守る。


「先生は……ボクの憧れでした」


 ゆたか先生は、ふらっとよろめき、その場でガクっと片膝をついてしまう。

 しかし、デスサイスだけはルミンへと向けていた。


「先生……ボク……もっと先生に……色々教えて欲しかったよ」

 

 もしかすると、これが最後の先生の姿かもしれない。

 そう考えてしまった。


 先生を助けたい……でも、ボクにはあんな力はない。

 ボクに……ボクに何が出来るの?


 ふらふらしながら、先生はデスサイスに魔力を集め始める。


 しかし、先に魔力を集め始めたルミンの方が圧倒的にエネルギー量が多い。

 貯めた力同志をぶつけても、先生に勝ち目はないのが明白だ。

 ルミンの貯めている巨大なエネルギーは絶望的にまで膨れ上がっている。


 先生……ゆきちゃん……ボクは……ただ見ているだけしかできないの?

 ごめんなさい、先生。ごめんなさい、ゆきちゃん。


 先生がやられる所なんか見たくない。

 ボクはそっと目を瞑った。

 思い出されるのは、数々の先生との思い出。

 先生との思い出は、ボクの宝物。


 先生と初めて出会ったとき、先生を抱きしめるボク。

 初めて先生の顔を見たときに抱いた印象。

 あんな可愛い幼女が二杜氏先生のペアだったなんて。

 先生に正座させられて、何度も叱られるボク。

 魔法の仕組みを教わるボク。

 先生との思い出が次々と頭に浮かんでくる。


 そういえば、馬鹿な質問したっけ……


「先生、長さ100メートルくらいの武器も作れるんですか?」


 そんなの砲撃したら済む話なのにね。

 ほんと意味のない……


 ふと、ボクの頭に引っかかる何か。


 意味ないよね……見かけは派手だけど。

 見かけだけ……?


 ボクは目を見開いた。


 いいんだ、それで!


 ボクは高速移動カードを起動させ、いっきにルミンの背後まで走りだした。


「てりゃぁぁぁぁああ!!」


 出現させたのは100メートルもある巨大な剣。

 レーザー出力0の見せかけの剣。


 考えさせるな! 最高速度でやらなきゃ意味がない!


 ルミンはすぐにボクに気づくが、巨大な剣を見て目を見開いていた。

 ボクは高速移動をしながら、その剣をルミンに振り下ろす。

 ルミンは手に集めたエネルギーを放出し、ボクの剣を防いだ。

 もちろん見せかけの剣をいとも簡単に素通りするルミンの攻撃。

 ルミンの放ったエネルギー波は、そのまま天高く登り、消えていった。


「先生! 今です!」


 今なら、ルミンの手元にはエネルギーがない。

 先生の魔法を防ぐ手段はない。


「よくやった! あゆみ!」


 ボクと先生は、二人で声をそろえて叫ぶ。


「「ヘルフレイム・サイクロン!」」


 ボクは人差し指を伸ばし、撃つ真似だけした。

 先生は最大出力で魔法を放つ。

 50メートル四方はあろうかという巨大な炎が、ルミンの体を捕らえる。


「ああぁぁぁっ……!」


 ルミンの悲鳴が響き渡る。


「どうだー!!」


 ボクは力いっぱい叫ぶ。


「お前は撃っていないけどな」


 ぽつりと先生が笑いながらつぶやく。

 焼け焦げたルミンは屋上に落下する。

 ルミンはピクリとも動かなかった。


 先生が勝ったんだ。

 ボクと先生の勝利だ!


 ボクは先生に飛びついた。


「先生! ボクの先生! ボクのゆたかちゃん!」

「おぃ~~!」


 ボクの勢いに押され、先生は押し倒される。


 ブウンと機械が停止する音がして、ボクの衣装が消え失せる。

 超高速移動をしたせいで、ボクの体から力が全て抜け、動けなくなった。

 全ての力を解き放った先生も、魔力が切れて衣装が消えうせる。


「あ……」


 ガクリと力が抜け、まったく身動きできないゆたか。

 はだかの幼女をはだかで押し倒すツインテールの少女。


「あゆみ……どけ!」

「先生……ボク……動けません」

「はぁ!?」

「先生こそ……動けませんか?」

「わたしは全魔力使い切ったから……力が入らないんだよー!!」


 見詰め合う二人。

 照れながら笑うボク。


「ごめんなさい先生。てへ」

「あゆみはなんで……毎回わたしにセクハラするんだぁ~~!」


「だって、先生は……ボクの宝物だから!」

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