第27話 激突

 ルミンの斬撃で魔物が消滅する。


「弱すぎ」


 ゆたかは武器を構えたまま前方にいるルミンを見据え、話しかける。


「約束を破ったな! ルミン! 手を出さないって約束だっただろうが!」


 ルミンは冷ややかな目をしてゆたかを見つめている。


「自分で魔物を生み出しておいて……自分で倒して……そんな茶番……付き合う意味ない。

それに……ゆたかの元にいる間は……手を出していない。もう……あゆみを観察する意味……ない。

だから……もういらない」


 ゆたかはルミンを睨み付け、手にしたデスサイスを強く握りしめる。


「ふざけるな! これ以上やるなら、お前を消すぞ!」


 ルミンの表情が変わった。

 目が吊り上がり、憎しみの表情でゆたかを睨みつける。


「それは……『ゆたか』の意思? それとも……お前だけの意思?」


 ゆたかはルミンの言葉に言いよどむ。


「ゆ、ゆたかは……わたしだ。どっちもわたしであってあいつでもあるんだ。わたしの意思はあいつの意思でもあるんだよ!」


 ルミンの目が細くなり、大きな剣を振り上げながら冷たい口調で言い放つ。


「お前だけが……特別だなんて……許せない。もう一人で……眠って生きるのは……嫌。

お前を消して……『ゆたか』を呼び出す。私は……『ゆたか』と一緒に生きる。『ゆたか』だけいれば……それでいい」


 ルミンの剣に光が集まり、刃が激しく光りだす。


「だから……消えろ!」


 剣の先に回転する魔方陣が広がり、大きなエネルギー波が放たれる。

 ゆたかはデスサイスを右下に構えてから、思い切り振り上げ、エネルギー波を下から上へと弾き上げる。


「でやぁ!」


 弾いたエネルギー波は、上空へと飛んで行く。


「2年前の決着を着けてやる!」


 ゆたかは叫ぶと、デスサイスに黒い炎を纏わせる。


「そりゃー!」


 デスサイスを上段から振り降ろし、ルミン目がけて炎を投げつける。

 下から、左から、右からとなんども振り抜き、いくつもの炎弾がルミンへと襲い掛かる。

 ルミンはその光り輝く大剣で、全ての炎弾を切り裂いた。

 そのままルミンは剣を構えてゆたかへと突撃してくる。

 ゆたかもデスサイスを鎌えて向かい打つ。


「消えろ……」

「でやぁー!」


 ルミンが高速で振り下ろした剣の一撃を、ゆたかは横からの遠心力を用いた一撃で受け止める。


 剣とデスサイスの刃がぶつかり合い、激しい火花が弾ける。

 お互い鍔迫り合いの状態で均衡する。

 今の所、力は五分と五分。


 ルミンが右足でゆたかに蹴りを入れる。

 その蹴りがゆたかの横腹を直撃し、ゆたかは吹き飛ばされる。


「これで終わり」


 吹き飛ぶゆたかに狙いを定め、剣を向けるルミン。

 剣先から魔方陣が出現し、複数の光がゆたかめがけて放たれた。


「ぐっ……!」


 ゆたかは歯を食いしばり、攻撃を回避しようと上空へと軌道を変える。

 しかし、複数の光のエネルギー波はゆたかへと追尾し、その軌道を変える。

 高速で上空へ逃げるゆたか。

 下から追い迫るエネルギー波。

 速度は同じ。

 ゆたかが少しでも気を抜けば、エネルギー波に追いつかれる。


「こんちくしょー!」


 ゆたかは体を回転させながら、横へと急旋回。

 今までゆたかがいた場所をエネルギー波は通過する。

 しかし、更に軌道は変化しゆたかへと向かってくる。

 ゆたかは右手を前に突き出し、ぐるっと円を描くと赤い魔方陣が出現した。

 その魔方陣から巨大な円形の燃え盛る炎の盾が出現する。

 上空から迫るエネルギー波は、その盾と衝突し、巨大な爆発を起こす。


「どうだ!」


 とその瞬間、ゆたかの背後からルミンの一閃。

 ゆたかの背中を切り裂く。


「ぐあっ!!」


 飛び散る赤い血。

 ゆたかは反転してデスサイスを振りぬく。

 しかし、ルミンは後方へ回避する。

 ゆたかはそのまま回転を止めずにもう1回転。

 回転の勢いに乗せて、炎の刃をルミンに放つ。

 ルミンはその刃を剣で受け止めるも、その勢いに押されている。

 ゆたかは更に回転にまかせて炎の刃を放つ。

 ルミンは剣で受け止め切れずに弾き飛ばされる。


「ぐっ……」


 後方に吹き飛ばされながら、ゆたかを睨み付ける。


「消される……ものかーー!!!」


 ルミンは叫ぶ。自身の存在を認めさせるために。

 ルミンの剣が一層輝き、帯状の光線となって解き放たれる。

 その無数の光線は、ゆたかの周囲を取り囲む。


「これで……逃げられない」


 ゆたかを取り囲む球状の光の檻。

 閉じ込められたゆたかは歯噛みする。


「しまった……!」


 球状の光の檻は、その体積を徐々に狭めていき、ゆたかを追い詰めてゆく。


「このままだと……まずい!」


 ゆたかは檻を破壊しようとデスサイスで攻撃を加える。

 しかし、攻撃は弾かれ跳ね飛ばされる。


 ゆたかは周囲を見渡し、覚悟を決めるしかなかった。

 このままあの檻が狭まれば、このエネルギー量全てがゆたかへのダメージとなる。

 それならば、一点突破にかけ、檻の一部分のエネルギーダメージを受けるだけでなんとか済ませよう。


 ゆたかは全身に黒い炎を纏い、檻へと突撃する。

 ゆたかと檻が衝突し、激しい火花を散らす。


「あぁぁぁぁ!!!」


 ダメージを受けながらも、気合を込めて檻から突破を試みる。


「貫けぇぇぇっ!!!」


 デスサイスを振りぬき、やっとの思いで檻から抜け出す。

 しかし、相当のダメージを受けたゆたかは、そのまま地面へと転落する。


「くっそぉ……」


 転落した瀕死のゆたかに対して、ルミンは剣を向ける。

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