第19話 傷跡

 ボクは泣いていた。

 あれだけ優しかったゆきちゃんの豹変。


 一体どうして?


 ゆきちゃんと花火を一緒に楽しみたかった。

 楽しい思い出を作りたかった。

 ただそれだけだったのに。

 わけがわからなかった。


 ただ一つわかることは、ゆきちゃんがボクを否定した、ということ。

 ボクの気持ちを伝えたら、突き飛ばされた。

 それが否定以外のなんだというんだ。


 ボクの心には、ゆきちゃんでいっぱいだった。

 だから、ゆきちゃんに否定されてゆきちゃんがいなくなったら、ボクの心は空っぽになってしまう。


 なんでなの?

 ボクの心が男だから?

 どうして? どうして?

 うわあああああ!!


 この心の隙間に空いた穴。

 今まで詰まっていた幸福がすべて消え去り、代わりに大きな穴が開いた。

 ボクは耐えられなかった。

 だから叫んだ。


 周りの視線がボクに集まっている。

 だけど、そんなのはどうでもよかった。


 ボクは走った。

 どこでもいいから走って逃げたかった。


 そして転んだ。

 浴衣の裾は乱れ、桜の髪飾りがその拍子に地面に落ちる。


 ボクは泣く。

 道路に転がったまま。


「どうしたの、かのじょ~?」


 誰かがボクに声をかけてきた。


「そんな所に寝転がってちゃ、浴衣が台無しじゃね?」


 男がボクを起こす。


「おぉ~。すげー可愛いじゃん!」


 ボクの顔を見つめる男達。


「どうしたの? 振られたのかな~?」

「こんな可愛い彼女残していなくなるなんて、とんだくそやろーだな」

「俺達なら優しくしてやんぞ? ほら、一緒に遊ぼうぜ~!」


 男はボクを力任せに担ぎ上げ、人気のない林に連れ込む。


 どうせボクなんか……


 何も抵抗せずに、黙って男達に運ばれる。

 ボクは木の陰に降ろされ、周りを男達に囲まれた。


 また嫌らしい目つきの男達か……

 またボクにひどいことをしようとしているんだろう。

 好きにすればいいよ。

 もう、ボクには……何もなくなっちゃったんだから。


「大人しくていいねぇ。こりゃ、彼女もOKってわけじゃね? いひひっ」


 嫌らしい笑い声をした男がボクの浴衣をはだけさせる。

 あらわになる素肌。そして胸。


「おほ~彼女ブラつけてねーじゃん! 浴衣の下は、すっぽんぽんかぁ!?」


 ああ……そういえば……下着つけてなかったんだったな。

 まあ……いいか。


 ボクはされるがまま帯をはぎ取られ、浴衣の衿を広げられた。


「いいねぇいいねぇ! 下もはいてねーじゃんか! 最高だな!」


 ボクに覆い被さり、ボクの顔を撫でる男。

 無抵抗なままのボクを見て、喜ぶ男達。


「こりゃ今夜はやり放題か~?」


 他の男がボクの顔を強引に自分の方に向けさせる。


「可愛い唇いただきまぁ~す」


 そういうと、ボクは唇を奪われた。

 口の中に入ってくる男の舌。

 ボクの舌に吸い付き、嘗め回している。


 更に他の男がボクの両足首を開いて持ち上げる。


「こりゃたまんねーな!」


 次々と男達がボクの体に触りだす。


 体中を触られる感触。

 こんな感触ははじめてだ。


 これが……体を触られる感触……

 あはは……ボクのはじめての経験は、ゆきちゃんだけじゃないじゃん。

 あるじゃん、他にも。

 無くなったらまた埋めればいいんだ。

 ボクには……いくらでも言い寄ってくる男達がいるじゃないか。

 ボクは……一人じゃないし。

 寂しくなんか感じなくていいんだ。


 受け入れればいいんだ。

 ボクは女の子。

 男を受け入れればいいだけなんだ。

 それでボクは満たされる。


 触れられる感触。

 初めて感じる女の子としての感覚。


「んんっ……」


 思わず熱い声が漏れる。

 体が感じている。


 なんだろう、このこみあげてくる感覚は。

 お腹の奥からキュンと感じる変な感覚。


 気持ちいい……これが……女の子なんだ。


 初めて知る女の子としての感覚。


 あはは……もうどうにでもなれ。

 ボクを……好きにして。

 ボクを……女の子として目覚めさせてよ。

 そうすれば……そうすれば……もう、ゆきちゃんを忘れることができるから。


 男達は自分たちの欲望を、無抵抗のあゆむにぶつけ続ける。

 あゆむはされるがまま、無理やり沸きたてられる感覚に身をまかせていた。


「あ……」


 思わず小さく声が漏れる。


「彼女も感じ始めたみたいだぜ」

「んじゃそろそろ本格的に頂くとするか」


 男達がズボンのベルトを外し始めた。




 その時、一人の男が悲鳴を上げて転がる。


「うがっ!」


 一斉に男達は、転んだ男を見る。

 そこには下半身を出したまま仰向けの男。

 見上げると、木の棒を持った浴衣の女の子が立っていた。


 そこにいたのは佐倉ゆきだった。

 ゆきは、すかさず木の棒を連続で突き出す。


「ぐあ!」「ぎゃあ!」「がっ!」


 その突きは外すことなく、男達の喉元を捕らえていた。

 苦しみながらも男達は立ち上がり、ゆきに襲い掛かろうとする。


「効いていない……?」


 今は魔法少女ではない。

 ただの中学生の女の子だ。

 だから威力もあまりなかったのだ。

 ゆきは恐怖で足を震わしている。


「今、助けを……」


 後ろを向いて逃げ出そうとして、立ち止まる。


「……違うでしょ、ゆき! ここで……あゆみを私が助けなきゃいけないんでしょうが! 誰でもない、私が助けないと意味がないんだから!!」


 襲い掛かってくる男の足を、木の棒で薙ぎ払う。

 男達は全員、ズボンを降ろしているので自由に身動きが取れないでいる。

 ゆきは木の棒で何度も男達を殴りつける。

 しかし、ゆきも浴衣で自由には動けない。


「いてぇ!!」

「やめろこのやろう!」


 一人の男がゆきの棒を手で捕まえた。

 そのまま木の棒を奪われ、ゆきはその場に転んでしまった。


「しまった!」


 形勢逆転、男達に捕まるゆき。


「このやろー! よくもやりやがったな!」

「お前も一緒に可愛がってやんよ!」


 暴れるゆきを抑え込む男達。

 魔法少女になっていないゆきは、力も普通の女の子だ。

 その力は複数の男達には敵わない。

 取り押さえられてしまったゆき。


「さっきのおかえしだ!」


 バシッ!

 男がゆきに馬乗りになり、ゆきの頬をはたく。


「うぅ……」


 ゆきは痛みで呻き声をあげる

 馬乗りになった男は、ゆきの浴衣の裾を強引に広げる。


「痛みの代償は、お前の体で払ってもらうからな!」


 ゆきの浴衣が肩まではだける。

 その瞬間、ゆきが膝でその男の股間を蹴り上げる。


「ぐあっ!!」


 男はゆきの上から転がり落ち、痛みで悶えている。

 ゆきは立ち上がり、転がっている男の顔面を蹴り飛ばす。


「ぎゃっ!」


 他の男がゆきを後ろから押さえつけ、再びゆきは地面に転ばされた。


「大人しくしろ!」


 男がゆきの手を後ろにまわして押さえつけ、もう片方の腕で首をしめる。


「くぁっ……!」


 息が出来ずに苦しむゆき。

 ゆきは空いている方の左手で必死に男を叩くが、まったく効き目がない。


「ごめん……あゆみ……」


 ゆきの意識が遠くなる。

 ゆきは裸で項垂れているあゆみを見る。


 視界が次第にぼやけ……やがてゆきの視界からあゆみの姿が消えた。

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