第17話 私が私であるために
世界でただ一人の魔法少女の影響下に入った私とあゆみ。
その効果はとても大きく、不安だった男達の復讐もなかった。
あゆみを襲った男達は、1週間の停学だった。
あゆみの懇願もあり、特に被害も軽微だったということでそれほど大きな罰にはならなかった。
魔法少女が担任を務めるクラスで事件が起こったという事実を、大事にしたくなかったという学校側の配慮もあったようだ。
こうして、私は白木あゆみとともに、魔法少女二杜氏ゆたかに弟子入りすることとなった。
そして、私達二人はパートナーとなった。
私は正直あゆみのことを好きにはなれなかった。
魔法少女の活動中でも、あゆみは上手く立ち回れなかった。
はっきりいって足手まとい。
運動音痴でコミュニケーション力も低い。
クラスで少し目を離すと、すぐ男達に囲まれていたずらされている。
まったく成長しない彼女を尻目に、当初は冷ややかな目で見ることも多かった。
私は魔法少女という肩書を手に入れたので、絡まれている弱者を放っておくということができなかった。
魔法少女であらねばならなかったからだ。
義務感であゆみを助ける。
あゆみに対しての好意は全くなかった。
元々ヒロインに憧れていた私は、弱いあゆみを助けること自体は嫌いではなかった。
むしろ逆に、助けることで自分で悦に入ることができた。
私は弱い弱者を守っているんだ。
だからはじめて自分を好きになれた。
私に助けられたあゆみが、私に感謝する。
私を信頼してくる。
私だけがあゆみのたった一人の支えになっている。
そんな自分が嬉しかった。
いつしか「弱いあゆみ」は、私にとって必要不可欠になっていった。
弱いあゆみを助け、感謝され、好意をこの身に浴びる。
私がヒロインであり続けるためには、「弱いあゆみ」の存在が必要であった。
ある時私は気が付いた。
私が私であるために、私はあゆみを利用しているのだと。
そして感じたのはあゆみへの謝意。
ごめんね。私は、あなたの為にあなたを守っているんじゃないの。
私は私のために、あなたを守っているの。
本当の私は、あなたのことなんか好きでもなんでもないの。
それでも私は、望まれているゆきの像を演じ続けた。
見つめられれば見つめ返し、好意には応えていった。
日に日に高まるあゆみの私への好意。
それは嬉しくもあるが、困惑の元でもある。
友達以上恋人未満。
その範囲にあゆみが留まっていてくれることが、私にとって都合がよかった。
その一定ラインを超えて欲しくはなかった。
あゆみにとって、私はあまりにも大きな存在になりすぎていた。
あゆみの心がとても重かった。
そして、あゆみの好意が私にとって、気持ちのいい物から重荷へと変わってしまった。
あゆみからの告白。
「私の心の中にはゆきちゃんしかいないの。
ゆきちゃんの存在が私には全てなの。
ゆきちゃん……愛してる。
私の特別な人になって?」
私を愛していると告げられた告白の言葉。
私にとってのあゆみは、道具でしかない。
私が自信を持てるために必要な道具。
「弱いあゆみ」という道具。
それ故大事にしていた。
決して粗雑には扱わず、丁寧に扱っていた。
綺麗に磨き上げ、大事に大事にしてきた。
「弱いあゆみ」は、私にとって私の存在理由その物なのだから。
この大事な大事な道具を失うわけにはいかない。
だから受け入れるしかなかった。
愛を求められれば、愛情を注ぐしかなかった。
しかし、私は重荷に耐えきれなくなっていた。
だから言ってしまったのだ。
「私はあゆみの恋人にはなれない」と。
こうして私とあゆみの関係は終わった。
あゆみは学校に来なくなり、魔法少女の活動も辞めてしまった。
あゆみがいない日々が過ぎ、いつしか私は一人ぼっちになっていた。
友達もいたはずだった。
しかし、どの友達と会話をしても、心が伝わってくる感情がなかった。
この友達も、あの友達も、別に私じゃなくてもいい。
ただその場に私がいるから話しているだけなんだ。
私は誰にも必要とされていない。
そもそも友達なんてその程度のものだったはずだ。
わかっていたはずだった。
でも、あゆみが向けてくれていた私への好意が本当に心地よかったのだ。
それがなくなってしまった今、全てが物足りなく感じていた。
そして、私は自身の存在意義を見失っていた。
あゆみは私なのだ。
あゆみは私のそばにいなければならない。
あゆみの心を裏切ってでも、私のそばにいなければならないんだ。
だから私は了承した。
先生からもたらされた提案に。
私に必要なのは、白木あゆみという道具だけなのだから。
私はアクアローズ。
水の薔薇。
そう、形のない偽物の薔薇。
水のように冷たい。
だけど、その美しさだけは損なわせない。
あゆみ……あなたの前では、いつまでも美しい薔薇であり続けてあげるわ。
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