第15話 ホーリーライト・ストライク
そういえば、ルミンさんは元魔法少女なのか。
てっきりボクにも後輩が出来て、ボクが教える側になるのかなと思っていたら。
となると……相変わらずボクが最弱なのは変わらず……かぁ。
足を引っ張らないようにしないとね。
豆乳を飲み終えた先生が、ボクたちに向かって今日の戦闘について話し始めた。
「今日はルミンもいるし、いつもより敵を多く惹きつけるから。覚悟するよーに。あゆみは無理せず後ろに隠れててもいいぞ」
そんな。ボクだって戦ってみんなの役に立ちたいのに。
「ボクも戦います!」
いつまでもみんなに守られてるだけじゃいけない。
ゆきちゃんを守れるようにならなきゃ。
「そう? んじゃ無理しない程度に頑張れ。あーそうだ、あゆみ、ゆき。お前達は絶対にルミンと敵の間に入るな。
自分と敵とルミンの位置は、常に確認しておけよ。ルミンを味方だと思うな。わかったな」
え、今先生物騒な事言わなかった?
ルミンを味方だと思うな……?
敵味方区別なく戦うバーサーカーなのだろうか。
昼間のルミンの奇行が思い出される。
ルミンには常識は通用しない。
ごくり。
背中に冷や汗が流れた。
まさか……味方に魔法撃ったりは……しないよね?
「んじゃはじめるぞー」
先生が例のアレをやる気だ。
先生がアレをやると、何故か魔物が現れる。
先生を中心に見えない何かが爆発した。
「うわぁ!!」
昨日とは比べ物にならない圧力を感じた。
これは一体何なんだろう。
しばらくすると、先生が敵の接近を感知した。
「きたぞきたぞ。いっぱい釣れたようだ。
これはすごいな……1000匹はいるんじゃないのか?」
は!? 1000匹!?
ゆきちゃんと顔を見合わす。
ゆきちゃんも怯えているようだ。
「1000匹だって……ゆきちゃん」
ボクはゆきちゃんの手を握る。
ゆきちゃんが震えている。
「せ、先生……1000匹って……」
ゆきちゃんも困惑の声だ。
「ゆきちゃん……」
いくら先生が強いといっても、1000匹はまずいだろう。
エネルギーが持つのだろうか。
なんとなくだけど、ボクの最高出力のサクラプリズム・バスターでも、10匹倒せればいい方なんじゃないだろうか。
しかも、最高出力だと1発だけ。
ノーマルで撃てば何発か撃てるけど、倒せるのはせいぜい3匹位だろう。
ゆきちゃんなら20匹はいけるだろう。
昨日は先生が半分以上一人で倒してしまった。
しかし、それでも30匹位だ。
魔王がいたとはいえ、それで先生もエネルギー切れだった。
今日はその20倍。
本当にいけるんだろうか。
敵影を目視で確認した。
とんでもない数だ。
空一面を覆う、魔物の超軍勢。
これは……まずすぎる。
先生が強い口調で支持を飛ばす。
「ゆきとあゆむは自分の前に敵が来た時だけ攻撃しろ。遠距離砲撃はわたしとルミンでやる。お前たちは後方待機だ。援護もいらん。
ちと予想以上にきちゃったからな。命令厳守。余計な手は絶対出すな」
そういうと、先生はデスサイスを構えてみんなの前に出る。
「ルミン、戦い方忘れてないだろうな? 一緒に撃ちこむぞ。返事はいらん。行動で示せ!」
先生のデスサイスに巨大な炎が噴き上がる。
先生もかなりの出力で撃つ気だ。
「ヘルフレイム・サイクロン!!」
先生がデスサイスを敵方向に振りぬく。
巨大な炎の渦が敵の集団目がけて飛んでいく。
空を覆う敵に集団に穴が開く。
かなりの敵を1撃で屠ったようだ。
しかし、数が多すぎる。
未だに数百の魔物がこちらへ向かってきている。
あの先生の一撃をもってしても、100匹も倒せていない。
これは……本当にまずいのではないだろうか。
ルミンが魔法を発動させるべく、右手に剣を出現させた。
綺麗な装飾が施された光を帯びた聖剣だ。
「ホーリースライト・トライク」
この場に似つかわしくないほど、そこ声は小さかった。
すると、巨大な魔方陣が剣の周辺に出現した。
その魔方陣から無数の光の光線が発せられる。
「はい、終わり」
気の抜けた声とともに、光も消えた。
そして、空にはきれいな夕焼けが広がっていた。
自分の目が信じられなかった。
残りの900匹をルミンが一瞬で全滅させたのだ。
そして……プツンという電源が落ちる音。
ルミンを包む天使の衣が消滅した。
「あ……」
ルミンはその場で裸のまま立ち尽くす。
「すごいよルミンさん」
ボクは心から賞賛を送った。
「この程度……たいしたことない」
先生も目を見開き、口を引きつらせている。
「ルミン……こんな強かったっけ?」
「ゆたかとやった時は、『ゆたか』が傷つかないように手加減していた。ゆたか弱いから」
「何だとー!? わたしだってリミッター解除すればお前なんか!!」
「ゆたかに……負ける気はしない」
先生とルミンがコソコソ話をしている。
何を話しているんだろう。
「なにぉー? このデカ乳がー!」
「ゆたか……痛い……」
先生がルミンの乳をビンタしているのが見えた。
乳を庇って後ろを向くルミン。
すると先生はルミンのお尻をぺちーんとはたく。
「ゆたか……痛い……」
「このデカ乳がー! デカ尻がー!!」
先生は、車から予備の着替えを取り出し、ルミンに手渡す。
「これではやくそのぜい肉を隠せ」
手渡されたのは1着のTシャツ。
少し小さめに見える。
先生の服だろうか。
そのTシャツを着たルミンが先生に文句を言う。
「ゆたか……胸がきつい」
見ると、ルミンの胸の大きさによって胸元が引き伸ばされている。
「いちいちむかつくやつ!」
先生はルミンの胸をビンタする。
ぼよんぼよんぼよん。
ルミンの胸が弾む。
「ゆたか……痛い……」
はたかれた胸が遠心力で揺れる様を見て、先生は殊更頭に血が上る。
「この! こんなもの! こんなもの!」
涙目でビンタを繰り返す先生。
「ゆたか……いたい……あぅっ……いたいっ……やめてっ……あぁぁっ……」
二人の攻防が続いていた。
何やってるんだろ、先生。
まあ……ボクにも気持ちはわかるけどね。
美少女にセクハラする先生を眺めて、ああはなりたくないと心に誓うのであった。
それにしても、ルミンさんはとんでもなく強かった。
これならきっと、魔王が来ても返りうちにできるだろう。
よかったねゆきちゃん、仲間が増えたよ。
心強い仲間が。
ボクはゆきちゃんと手を繋いで、先生とルミンの姿を眺めていた。
戦闘後の帰りの車中で、先生は魔法少女の出力強化について触れた。
「もっと出力アップが出来るように、みんなの装置をグレードアップとリミッターの解除をするから。ルミンの以外ね。ルミンのはもともとリミッターついてないからね。
超小型の量子エネルギーバッテリーカードを増設するから、学校も休みだし、明日あさっては魔法少女はお休みね」
ありがたい。前回も今回も何も役に立てていなかったボク。
これでボクもお役に立てるのかな?
それはさておき、お休みかぁ。
こっちの世界に来てからはじめての休日だ。
ゆきちゃんは何か予定あるのかな。
「ゆきちゃん……あのさ」
「ん、なあに?」
「明日のお休み、ゆきちゃんは何か予定あったりする?」
「特に予定はないわよ。あゆみは?」
「ボクも何にもないんだ。それで……ゆきちゃん……よかったら、明日ボクと一緒にお出かけしない?」
「うん。もちろんいいわよ。どこか行きたいとこある?」
「実はボク……浴衣で花火に行きたいんだ」
もうすぐ春が終わり、夏がくる。
毎年感じていたんだ。
夏が来るとはじまるわくわくを。
結局毎年何もない退屈な夏なんだけど。
でも、今年は違う。
人生初のきらめく夏が来そうな予感。
ゆきちゃんがいる。
それだけで、こんなにも気持ちが高鳴るんだ。
ゆきちゃんと一緒に過ごしたい。
「ゆきちゃん、一緒に浴衣を着て花火を見に行こう。ボク……ずっと着てみたかったんだ。可愛い浴衣」
夏まであと少し。
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