第14話 新たな魔法少女
放課後の理科実験室には4人の姿があった。
ボクを二杜氏先生にゆきちゃん、そして転校生のルミンさんだ。
昨日先生が言っていた新しい魔法少女がルミンさんらしい。
「はい、これ」
先生がルミンに装置を手渡す。
「久しぶり……懐かしい」
ルミンは装置を受け取り、手で撫ではじめた。
ルミンの言葉を聞いて、ゆきちゃんが驚きの表情で聞いた。
「懐かしいって……もしかして、ルミンさんは初めてじゃないんですか?」
「……昔……こいつが使ってた装置だ。お前たちとはちょっと違うけどね」
ボク達の目の前でルミンが急に服を脱ぎ始めた。
あわわわわ。
慌ててボクは後ろを向いた。
「これだから、巨乳は嫌いなんだ」
後ろから先生の声が聞こえる。
すると、ルミンはボクの肩に手を載せて、ボクを自分の方に向けさせた。
「あゆみ……見て欲しい」
ごくり。
嫌でも視界に入ってくる。
大きくて、張りもよくて、形もいい綺麗な胸だ。
「そんなもの見せなくても……」
ボクは手で顔を隠した。
ルミンはボクの手をどかして、そのまま自分の胸に押し付けた。
「あゆみ……私の姿……見てて」
見てと言われても困ってしまう。
ルミンが装置を右手に着け、両手を胸の前に置く。
ゆっくりと両手を上へ伸ばし、くるりと回転する。
「……………………」
その場で動きを止めるルミン。
「ゆたか。何だっけ? ……忘れた」
ポーズを取ったまま、顔だけ二杜氏先生を向く。
「お前のは、魔法少女IDスターライト……シーケンススタート、だ」
「そう……それ」
再びゆっくりと両手を上へ伸ばし、くるりと回転する。
「魔法少女IDスターライト……シーケンススタート!」
ルミンの右手から光の帯がいくつも放たれる。
ふわり。
真っ白な羽が上空から舞い降りる。
一枚、また一枚。
突風が吹いたかのように、大量の羽が吹き流れてきた。
その大量の羽は、ルミンの体を中心に渦を巻く。
両手を広げたルミンに、舞い踊る羽が絡みつく。
全身に絡みついたその羽は、光を放ち、白く輝くドレスへと変わる。
ルミンの頭上に、黄金に輝く光の輪が現れた。
ルミンの銀に輝く髪に反射する美しい光。
ルミンの背中には、真っ白な翼がばさりとはためく。
その姿は天使。
天界から舞い降りた、光り輝く聖天使。
その美しさに、その場にいた全員が沈黙する。
「綺麗……」
ボクは思わずそう呟いてしまった。
さっきまで奇行ばかり行っていたルミンと同一人物であるとはとても思えない。
近寄りがたいほどの神々しさ。
魔法少女というよりは、天使そのものに見える。
「これが……わたし。あゆみのも……見たい」
ルミンに変身を催促された。しかし、この美しさは卑怯だ。
この後変身なんかしたくない。ボクだって、この体であるあゆみには絶対の自信を持ってはいる。
持ってはいるが……それでもだ。胸の大きさで敗北し、美しさでまで敗北を受け入れなければならないのは悔しい。
「よーし、みんな早く変身して行く準備しとけー」
先生はささっと服を脱ぎ捨てる。
うぅ……仕方がない。
ボクも観念して服を脱ぎ始めた。
ルミンがじっとボクを眺めている。
ボクが服を脱いでいる間、ぐるぐると周囲を回り、あちこちをじっくり観察されていた。
やめて、ルミンさん。
その美しい姿でボクをじっくり見ないで!
「これが……あゆみの……」
もうボク、顔が真っ赤で恥ずかしいよぅ。
装置を起動させてボクも変身を始める。
ずっとルミンに見られながらの変身。
もう……好きにして。
「これが……あゆみの変身」
変身後もぴったりくっつきながら、ルミンはボクを観察している。
本当にルミンは距離感がおかしい。いくらなんでも近すぎる。
こんな近くでずっと見られたらボク……
全員変身を終え、4人で歩いて駐車場まで行く。
先頭を歩くロリっ子ゆたか先生。右手に機嫌の悪いゆきちゃん。左腕に絡みつくルミンさん。周囲にはいつもの観客。
今日はルミンの初お披露目ということもあって、一際歓声があがっていた。
やはりというべきか。かなりの人が、ルミンを見て感嘆の声をあげていた。
大勢に見送られながら、先生の車へとたどり着く。
いつもの通り、先生が運転席。3人が後ろの後部座席だ。
ボクを中心に、左右にゆきちゃんとルミンさんだ。
「ルミンさん、後ろの座席空いてるから、そっちへどうぞ?」
ゆきちゃんは無理やり作ったかのような笑顔だ。
「だいじょうぶ。……あゆみとくっついてるから」
ルミンの言葉に、ゆきちゃんは眉と口を引きつらせる。
べったりとルミンに抱きつかれ、そして何故かボクにぴったりとくっつくゆきちゃん。
両側から押し込まれた状態のボク。
「あゆみは……いい匂いがする」
ルミンはボクの耳元で囁くものだから、思わずビクリとしてしまう。
「あゆみの……味は……?」
ルミンが首筋をぺろっと舐めてきた。
「きゃっ」
思わず可愛らしい悲鳴をあげてしまうボク。
それを見たゆきちゃんは、ボクの腕をひっぱって引き離そうとする。
「わっ!」
バランスが崩れて、ボクはゆきちゃんのふとももに顔をうずくませてしまった。
そしてそのままボクの上にはルミンが覆い被さる。
ゆきちゃんのふとももに、背中にはボリュームのあるルミンの巨乳。
身動きが取れないボク。
そこで車が発進した。
更にバランスを崩し、ゆきちゃんが押し倒されて、ボクの顔はゆきちゃんの胸の谷間に。
そしてボクの頭の上には、ルミンの胸。
車が発信した勢いに押されて、しばらく動きが取れない3人。
ボクは揺れにまかせるまま、二人の胸の間で溺れていた。
予想外の胸中遊泳に、ボクとゆきちゃんは恥ずかしさと気まずさで俯いたままだった。
大丈夫だよ。ゆきちゃん。
胸板に当たって少しゴリゴリしたけど、十分柔らかかったから。
同志に向ける優しさ。
ボクたちはまだ成長途中なんだから。
頑張ろうね、ゆきちゃん。
貧乳組、ファイト・オー!
美女二人に挟まれること20分。
林近くの広場で車が止まった。
「さーて着いたぞー。降りろー」
相変わらず軽い物言いの先生。
これから戦闘だという雰囲気はまるでない。
「ここは自販機ないからな~。ゆき、後ろからクーラーバッグ出して。飲み物とおやつ入れてあるから」
はーい。とゆきちゃんはクーラーバッグを取り出し、皆に飲み物とおやつを配り始める。
配られたのは豆乳とシュークリーム。
「お前にはこれはやらん。こっちでも飲んでろ」
先生はルミンから豆乳を奪って、代わりに黒酢ジュースを渡す。
先生はちうちう豆乳を飲みながら、後ろを向いて自分の胸を揉んでいた。
豆乳の成分が胸にいくようにとでも考えているのだろう。
先生、頑張ろうね。
ボクは同志に向ける優しい笑みを先生に送った。
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