第12話 魔王の存在
「お前たちが逃げずに戦おうとしてくれていたのは、素直に嬉しいわよ。でもね、あの場合は素直に逃げて欲しい。お前達じゃどうしようもないからね。犬死するだけだ」
すっぱだかで車を運転する幼女はそう語っていた。
ちなみにボクも素っ裸だ。
相変わらずののろのろ運転。
追い越していく車の窓から、二度見する人多数。
先生も顔が真っ赤だ。
「くぅ……今度から車に予備の服を積んでおくことにしよう」
先生も相当恥ずかしいらしい。
「服くらい、前もって準備していてもいいじゃないですか! そもそも今までエネルギー切れって起こらなかったんですか?」
ボクは先生に突っ込む。
周囲から見られて本当に恥ずかしい。
「今までそこまでエネルギー消費する敵が出てきたことなんかないのよ。今回は異例中の異例よ」
ゆきちゃんが心配そうに先生に質問する。
「でも先生、今回みたいな敵が、また現れたらどうするんですか? 私達じゃ役に立ちそうもないです」
ゆきちゃんの意見にボクも同意。とても歯が立つ感じがしなかった。
先生はうーんと考え込む。
「まぁ……多分、大丈夫だとは……思うけど……うーん……」
「でも、先生が倒したじゃないですか。もう大丈夫なんじゃないんですか?」
ボクの答えを先生は否定する。
「いや、倒してないぞ。逃げてった」
え? 倒してないの?
「先生! それじゃ……またさっきのやつが現れるんじゃないんですか?」
「いや、あいつは……ちょっと特殊なやつで、めったには出てこないはずだったんだけど……
まさか戦闘に加わってくるとはわたしも思わなかったわ」
あいつ? 先生はあの敵を知っているの?
「前にも戦ったことがあるんですか?」
とゆきちゃんが先生に質問する。
「昔……ね。わたしが魔法少女になったばかりのころに、ちょっとね。あいつとわたしは……何ていうか……特殊な間柄でね。
正義の魔法少女がわたしだとすると、あいつは魔王ってとこかな」
衝撃の言葉が飛び出してきた。
魔王だって!? そんな存在がいたのか。
「魔王……」
「といってもね、本来あいつはわたしと戦うのを辞めたはずだったんだ。無干渉を貫くはずだったの。まあ、ある種の協定があったんだけど。
さっきも、わたしが突っ込んでいったから、戦闘になったって感じで、話し合いになったらすんなり引いてくれたしね」
そんなことがあったんだ。
「それじゃあ、何故その魔王は今回に限ってやってきたんですか?」
先生はボクの質問に答えず、無言を貫いていた。
「…………」
先生と魔王の間には……何かがありそうだ。
そうこうしている内に、学校へと到着した。
すでに周りは真っ暗で、生徒は誰もいない。
こっそりと素っ裸で校舎を歩き、服が置いてある理科実験室に向かった。
裸で校庭を走り抜けたり、途中で見回りの警備員のおじさんから隠れたり、見つかって追い回されたり。
鍵を取りに裸で職員室に潜り込んだり、どうしても避けられない防犯カメラの場所を、顔だけ隠して走り抜けたり。
深夜の露出遠征は、あまりにも刺激的すぎて、ボクの感性がおかしくなりそうだった。
「ぐぬぬ……あの防犯カメラの映像……あれだけはなんとかしないと!」
先生はとても悔しがっていた。
それはそうだろう。
先生は身長でばれそうだから。
そもそも一緒に写っていた、魔法少女の衣装を着ているゆきちゃんがいる時点で、ボクもアウトだろう。
明日から警備員の人の顔をまともに見れないだろう。
理科実験室に無事戻り、着替えも終わって少しくつろいでいた。
先生の魔法少女権限で、ここ理科実験室だけは24時間電気がつくのだ。
おまけに冷蔵庫とガスコンロもある。
先生がココアを3人分用意してくれたので、ボクとゆきちゃんもごちそうになっていた。
ちなみに先生はココアにミルクと砂糖を入れていた。
味覚もお子様レベルらしい。
先生が何気なしに言いだした。
「あー……明日転校生がくるから。
それでだ……そいつも魔法少女になるから、仲良くしてやってくれ」
唐突な発言だった。
今までは先生以外はゆきちゃんとボクことあゆみの3人だけだった。
ゆきちゃんはココアをすすりながら先生に質問する。
「突然ですね。適正のある子が見つかったんですか?」
何やら困った顔をする先生。
「まあ……見つかったというか……なんというか……元からいたというか。まあ、仲良くしてあげて欲しい」
仲間が増える。
いいことなんじゃないだろうか。
魔王という存在がいる以上、こちらも戦力を向上させる必要があるだろう。
そして……
「先生、ボク達ももっと素早く動いたり、もっと強力な技をだしたりできませんか?」
そう、ボク自身の強化だ。
完全に他力本願な所は情けないが。
ボクがどう頑張っても、先生のような速度で動けないし、そもそも空も飛べない。
それに、あゆみちゃんには悪いけど、この体は運動能力がとても低い。
力は全然ないし、体力もない。
足も遅い。
恐らく、クラスでも最低ラインなんじゃないだろうか。
それくらいか弱い。
よくこれで戦ってこれたなぁと感心してしまう。
しかし、ボクはこのか弱い体が心地よい。
自分はか弱い女の子なんだって実感できる甘い幸福感がたまらない。
だから、体を鍛えようなどとはまったく思わない。
無理やり襲ってくる男達の拘束から逃れられない、という感覚を実際に何度が体験してしまい、その時に芽生えてしまった興奮が忘れられないでいるのだ。
抵抗虚しく虐げられるボク。
ボクってどMの変態さんなのだろうか。
それとも元のあゆみちゃんのせい……?
「うーん……そうだなぁ。追加マイクロバッテリーを実装してみてもいいかもしれないなぁ」
先生が検討してくれている。
今以上の力を手に入れることも可能かもしれない。
「装置の方は、わたしがなんとかしてみるよ。まあ、ぼちぼちね。すぐは無理だから期待しないよーに」
そうして深夜のお茶会は解散した。
先生に車で送ってもらい、ボクは自分の家に帰った。
布団の中で思い出す。
人生初めてのキス。
ゆきちゃんとのキス。
大好きなゆきちゃんってボク言っちゃったよ。
あれって……告白にはいるのかな……
キスを受け入れてくれた感じだったけど……
ゆきちゃんもボクを受け入れてくれたのかな……
もしかして、このままゆきちゃんとお付き合い……なんて!
そして今日の体験を色々思い出す。
人生初のラブレターをもらった事。
男子に力いっぱい抱きしめられてしまった事。
屈服させられる興奮が芽生えてしまった事。
助けてくれたゆきちゃんがかっこよかった事。
裸同志で抱きついた先生の事。
素っ裸で車にのって、大勢の人に見られた事。
素っ裸で深夜の校舎を走り回った事。
録画されてしまったのではないか、後で誰かに見られるのではないかという不安と興奮。
色々思い出して……どうしようもなく……どうしようもなく……一人悶々としていた。
今日一日で、ボクはまだ見ぬ知らない世界の扉を開けてしまった。
それどころか、気が付いたら引き返せない所まで進んでしまったのではないだろうか。
どうなっちゃうのボク。
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