第10話 魔法少女出撃!
ラブレターの一件も収まり、その日の放課後、ボクはゆきちゃんと手を繋いで再び理科実験室の扉を叩いた。
扉をあけるなり、その繋がれた手を見てため息をもらす二杜氏先生。
「はぁ……中身が変わっても相変わらずだな。お前らは」
ちょっと恥ずかしい。
女々しくも何もできなかったボク。
それを守ってくれたゆきちゃん。
なんか性別が逆転しているようだけど、ちょっと今のボクは女の子な気持ちだ。
ほんとうに女の子なんだけどね。
頼れるゆきちゃんに甘えるボク。
それが今の関係図だ。
もしかすると、元のあゆみちゃんとゆきちゃんも同じような関係だったのかもしれない。
「いいかー。今日は3人で戦うぞー。まだ以前のようなコンビネーションは出来ないと思うから、あゆみは足引っ張らないってだけ気をつけろ」
「は、はい」
「ゆきはちゃんとあゆみを守ってやれよー。わたしは守らないからなー」
すごい適当だ。
「大丈夫。あゆみは私が守って見せます」
頼もしいゆきちゃんだ。
お願い、ボクを守ってね。
繋いだ手に熱が伝わる。
「守った後に、どさくさにまぎれてセクハラされちゃかなわないからなー」
ふんっと先生は言い放つ。
「よし! じゃあいくぞー! 準備しろ!」
というと、先生とゆきちゃんは服を脱ぎ始めた。
そうだった。
魔法少女の衣装は、ある種の幻影。
実際には素っ裸なのだ。
目の前でどんどん服を脱ぐ二人。
あわわわわ。
慌てて後ろを向いて、ボクも服を脱ぎ始める。
これはかなりはずかしい。
すっぱだかの先生から装置を受け取る。
この装置がないと変身できないのだ。
「それじゃ各自変身ー」
二杜氏先生がそのばでくるっと一回転。
「魔法少女IDヘルフレイム……シーケンススタート!」
赤い薔薇のエフェクトが円状に舞い上がり、渦を巻く。
その中心には何一つ身に着けていないロリっ子先生。
あいかわらず謎の白い光は健在だ。
薔薇の花びらが集まり、先生の衣装へと変化する。
以前見たのと同じ、赤と黒のゴスロリ風の衣装だ。
「魔法少女IDアクアローズ……シーケンススタート!」
その横では、青い光のエフェクトが渦を巻く。
ゆきちゃんのポーズは、両手を絡ませるように上へとあげている。
そして、青い光の正体は水だ。
周囲の光が集まり水へと変わる。
そして、その水は地面へと落ちる。
すると、床から伸びた水の薔薇の蔓。
ゆきちゃんの体に蔓が撒きつく。
その蔓は何重にも重なり合い、ゆきちゃんの体を覆っていく。
ミニスカート風の和服に、フリルが付いたいわゆる和ゴスだ。
ゆきちゃんの衣装は白地に青い薔薇の花が描かれた可愛らしい衣装だ。
今度はボクの番。
右手をあげて、起動ポーズをとる。
決まったポーズをとり、決まったセリフを言う。
変身シーケンスを起動させるには、この2つが必要だ。
先生のIDはヘルフレイム。地獄の炎か。
ゆきちゃんはアクアローズ。水薔薇だ。彼女らしい綺麗なIDだ。
ボクのIDはサクラプリズム。
桜の花びらがモチーフだ。
「魔法少女IDサクラプリズム……シーケンススタート!」
右手の装置からピンクの光の球がいくつも飛び出してくる。
その光の球がボクの周りをぐるぐると回り始める。
その光の球と反対側にボクはゆっくり回転する。
ここまでくると、起動シーケンスによる自動行動として制御され、何故かボクは自分で体の制御ができなくなる。
装置から脳へと、光の光子状の電気信号が発せられ、身体制御を奪われてしまうのだ。
この自動制御は変身する場合と、緊急時に発動する場合の2パターンがあるとのことだ。
完全にシーケンスが完了するまでは、自分の意思で動けないのだ。
変身中に敵に襲われてはまずい。
だからほとんどの場合、こうやって理科実験室で全員がいる時に順番で変身しているのだ。
何しろ、着替えもここに置いておくからね。
初めて変身した時は、外で変身したんだけど、あれはとっても恥ずかしかった。
裸をみられるのは仕方がないと、はずかしながらも自分を言い聞かせているのだ。
決して露出狂の集まりなわけではない。
ピンクの光の球は、ふわりと破裂して、幾枚もの桜の花びらへと変化する。
何百枚もの花びらがボクの体の周りをぐるぐると舞う。
桜の花びらがボクの腕、足、腰、胸、首に集まる。
長めの手袋へ、膝近くまであるロングブーツへ、白いニーソックスにピンクのリボン。
フリフリのミニスカートに、背中には大きなリボン。
おへそを出したフリルの上着に首飾り。
ピンクのフリフリの衣装は、元男のボクにとってはとても恥ずかしいものだ。
体がそれに似合う女の子だからなんとか心もごまかせてるけどね。
さて、変身も完了した所で出発だ。
このかっこのまま学校の外まで出るのだ。
皆に見られまくるってとっても恥ずかしい。
飛んでいくこともできないからね。
攻撃魔法以外は、本体である肉体にすべて依存する。
残念ながらあゆみの体はかなり運動音痴だ。
力もまったくないし、足も遅い。
よくこんな体で戦っていたものだ。
がんばれーと多くの生徒に声援をもらう。
先生は慣れた感じで周囲に手を振っている。
「ゆたかちゃんかわいー!」
先生は大人気だ。
「ゆきちゃんがんばれー!」
声援してくれた女子にゆきちゃんも笑顔で手を振る。
「あゆみちゃんだいすきだー!」
ひきつった笑顔でボクも声援に応える。
「あゆみちゃん結婚してくれー!」
「パンツの色何色ー?」
様々な声援が飛ぶ。
何故かボクへの声援は男子からばかりだった。
そんなこんなでとぼとぼと3人は歩いて校舎裏の駐車場まででた。
なんか思ってたのと違う。
目の前にあるのは先生の車。
魔法少女に相応しい可愛い車……ではない。
普通のワゴン車だ。
そう、なんとこの世界の魔法少女は車に乗って移動するのだ。
運転するのは、どうみても小学生のゴスロリを着た幼女。
乗席するのは、これまた和ゴスの少女に、フリルのドレスを着た少女。
華々しく見えるが、これが魔法少女の裏側だ。
いそいそと車に乗り込む。
先生は運転席だが、背が低いせいで前が見えにくそうだ。
大丈夫なのだろうか。
すると、先生は助手席においてあったクッションを3つほど取り出し、自分のお尻の下に敷いた。
なるほど、これで前も見える。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
ゆっくりと車が走り出す。
やけに遅い。
安全運転主義なのだろうか。
どんどん他の車に追い抜かれていく。
もう夕方だけど、こんなので大丈夫なのだろうか。
というか、どうやって魔物と遭遇するのだろうか。
30分ほど運転した後、ボクたちは海辺に到着した。
「よーし。着いたぞー」
ぴょこんと運転席から降りる先生。
「私、飲み物買ってきます」
とゆきちゃんは自動販売機まで走っていった。
前に先生に連れてこられた時もそうだった。
誰もいない広い公園に連れてこられて、しばらく待っていたのだ。
そうしたら魔物が現れてきた。
不思議な感じだった。
「あゆむ、サンドウィッチ作ってきたからとって……そこ、そうそれ」
ボクはバスケットを持って外に出た。
「この辺で食べてよっかー」
暢気なものである。
まるで観光気分。
だからこそだ。
魔物が現れてからの落差。
その緩急の差がボクの恐怖を増長させた。
今回は先生だけじゃなくて、ゆきちゃんもいる。
アドバイスももらった。
頑張らないとね。
先生はブルーシートを敷いて、浜辺に座り込んだ。
「おまたせしました。先生は豆乳で、あ、あゆみは聞かなかったけど、これで大丈夫?」
そうして手渡されたのは、パイナップルジュース。
あ、ボクが大好きなジュースだ。
「ありがとう! ボク、これ大好き!」
「よかった。やっぱりあゆみはあゆみなのね」
ゆきちゃんがにっこり微笑んだ。
3人はサンドウィッチを食べながら、軽く雑談。
先生は、どうやら同僚の先生にも過度な可愛がられ方をされて困っているようだった。
「いきなりわたしの後ろから持ち上げられて、高い高いをされるのは困ったもんだよ。いくらなんでもそこまで子供じゃないのにな。
それに教頭のやつ、いっつもわたしの頭撫でるんだよ。撫でるだけならいいんだけどさ、あいつの目嫌らしいんだよな~。まったくもう……あいつはロリコンかって感じ」
自分でロリだと認知しているんだな。
「先生可愛らしいですしね」
と、ゆきちゃん。
「あゆみも気をつけろよ。お前の場合は……元もそうだったけど、おとなしくて力もないだろ。お前の事いやらしい目で見ている男が結構な数いるからな」
え、そうだったの?
全然気が付かなかった。
これは気を付けなければ。
昼間の男子や、昨日の朝の男子たち。
あんな連中に絡まれたら、ボクは何もできない……
ゆきちゃんがいないと、ボク全然だめなやつだ……
「大丈夫。あゆみは私が守るから」
ゆきちゃんがボクの手を握ってくれた。
「ありがとう、ゆきちゃん。ボク、心強いよ」
「逆だろ! お前がわたしたちを守る位の意気込みはないのかよ」
先生に突っ込まれた。
そうだよね。ボクがみんなを守れるように強くならないと。
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