第9話 運命の彼女
1時間目は体育で、ボクたち女子は隣の教室で着替えとなった。
着替えを持って隣の教室に入ると、すでに着替えをしている女子があちこちにいた。
あたり一面の肌色。
そして下着。
どうしよう。
ボクは今、桃源郷に迷い込んでいます。
入口でぼんやり突っ立っていると、ボクは手を引っ張られた。
「あゆみ、はやく」
ゆきちゃんだった。
「はやく着替えて。そんな所でいつまでもジロジロ見ていたら怪しまれるわよ」
え、ボクってはたから見るとそんな怪しい行動してたの?
まずいまずい。
あわてて服を着替えるボク。
もちろん顔は真っ赤だ。
ゆきちゃんは、やはりボクの事知ってるせいか、ボクに背を向けて着替えている。
後ろから眺めるゆきちゃん。
綺麗な透き通ったブルーの髪……
ゆきちゃんの青いブラ……
ゆきちゃんの背中……
ゆきちゃんのほっそりとした腰……
ゆきちゃんのちいさくて可愛らしいお尻……
お尻に張り付いたゆきちゃんのパンツ……
お尻の形に合わせて歪む青と白のライン……
ゆきちゃんのむちっとしたふくらはぎ……
そして、ほっそりとしたゆきちゃんの白い足……
こんな素晴らしい光景……見たことないよ。
きっとボクは辿り着いてしまったのかもしれない。
この世の果てにある至宝の地へ。
そう、ここがワンダーランド。
あらゆる財宝が眠る夢の土地。
ボクは……ついに見つけたんだ!
ぴしゃりとボクは頬をはたかれて、我に返った。
目の前には、目を潤ませたゆきちゃんが顔を真っ赤にして立っていた。
「変態……」
そしてついにお昼休みの時間が来た。
運命の彼女が待っている。
あ、そうそう。髪の毛はゆきちゃんにツインテールにしてもらった。わかりやすくコツも教えてもらったから、もう大丈夫だろう。
家に帰ったら練習しておかなきゃね。
さてさて、ついに来てしまいましたよ。屋上に。
ドキドキドキドキ……
「ふぅ……」
深呼吸。
さてと、ゆっくりとドアをける。
そこにいたのは……
一人の男子。
あれ?
他にも人がいたのか。
てっきり誰もいないと思っていたのに。
他には……
あれ? 誰もいないぞ?
まだ来ていないのかな。
まあいいや。
先に待っていよう。
どんな子が来るのかな。
思わず顔がにやけてしまう。
あぁ……はじまるんだな。
ボクの青春が……
「あゆみちゃん」
そこにいた男子に声をかけられてしまった。
いやぁ……ちょっと今は勘弁してほしい。
こっちは約束があるんだ。
しかし、無視するわけにもいかないか……
「こんにちは」
適当に会話を切り上げよう。
出来れば出て行って欲しい。
これからボクは、告白されるんだから。
彼女も他に人がいて欲しくはないだろう。
うまく外に出てもらうように誘導しようかな。
「来てくれたんだね。俺、うれしいよ。あゆみちゃん」
ん……?
は? 別にお前になんか呼ばれてないぞ?
「俺、初めて見たときから、あゆみちゃんの事が好きだったんだ!
よかったら、付き合ってください!」
目の前に押し迫る男子。
え? え? どういうこと?
ぐいぐい前に近寄ってくる男子。
ちょっ、寄るな寄るな。怖いだろ!
がしっと両肩を掴まれてしまった。
思わずびくっとして体が硬直する。
なになになに!?
「俺、あゆみちゃんのこと大事にするから!」
すごい圧だ。そしてボクの頭は真っ白。
「どうしたの? 黙っちゃって。
来てくれたってことは、OKってことだよね?」
男子に肩を揺さぶられる。
揺さぶられるままに体が揺れる。
「あぅあぅあぅ……」
何を血迷ったのか、その男子は固まったボクに抱きついてきた。
「ひっ!」
痛い……力……強すぎ……
ぎゅっと抱きしめられて、力もでない。声も出ない。
頭はパニック。
振りほどけ……ないっ!
「ん~っ!」
もがいてもびくともしない。
だめだ……この体、全然力が出ない。あゆみちゃん……こんなにか弱かったの?
そこに男子の顔が近づいてきた。そして、頭を後ろから抱きかかえられた。
やばい! こいつ……ボクにキスしようとしてる!
まずいまずい! 逃げなきゃ。
「やめてぇ……」
必死に声を振り絞ってもがく。
やめて! 誰か助けて!
抵抗しても何をしても無駄になる。
無理やり従わせられる感覚。
あぁ……何だろう……嫌なのに。
ボクはか弱い女の子……
あぁ……ボク……もうだめかも……
ゆきちゃん……
「助けて……ゆきちゃん……」
何故かゆきちゃんの名前を呼ぶ。
それを聞いた男子が更に強くボクを締め上げる。
うあぁっ! いたい……よぅ……
「佐倉とは別れたんだろ? もう終わったんだろ? いい加減目を覚ませよ! あゆみちゃんは女の子なんだぞ!」
がくがくと体を揺さぶられた。
そうか。目が覚めた。ボクは……女の子だったんだ。
ラブレターの相手は、女の子だと勝手に思い込んでいた。
そうだよね。ボクは女の子。ラブレターの相手は男子なのは当たり前。
女の子だと思い込んていたのが異常だったんだ。女なんだから、男に抱きしめられて当然……??
でも……だからといって……男子と付き合うつもりは……ない……と思う。
それに、いくら異常だとしても、ボクの心にはゆきちゃんがいる。
ゆきちゃん……そうだった。
ゆきちゃんへの想いがありながら、ボクはなんでこんな所にのこのこ来てしまったのだろう。
完全に生まれて初めてのラブレターに浮かれてしまっていた。
ゆきちゃんという人がいるにもかかわらず。
これは……ボクが悪い。
ゆきちゃんを裏切ったボクへの罰だ。
ごめん……ゆきちゃん……
ボクは……ゆきちゃんを裏切ってしまった。
目から涙が溢れてくる。苦しい。
ゆきちゃんへの想いが溢れてくる。苦しい。
「ゆきちゃん……ゆきちゃん……ごめんね……」
その瞬間、男の締め付けがなくなった。
見上げると、男子はボクを見て後ずさりしている。
いや、見ているのは……ボクの後ろ……?
後ろを振り向くと、すごい怒った顔をしたゆきちゃんが立っていた。
「あゆみに何をしたっ!!!」
ゆきちゃんは、たじろぐ男子に飛び蹴りを放つ。
吹き飛ぶ男子。
「まってくれ佐倉!! 俺は……まだ何もしていない!!」
驚愕の表情で乞う男子。
「とっとと失せろ! 二度とあゆみに近づくな!!」
慌てて逃げ去る男子。
男子が屋上のドアから校内へと戻ったのを確認して、ゆきはあゆみに歩み寄る。
「大丈夫だった? あゆみ。何もされてない?」
その声はさっきとはまるで違う、優しい声だった。
「うん……だいじょう……ぶ」
そして思わずゆきちゃんに抱きつく。
「ゆきちゃん……ゆきちゃん……ゆきちゃん」
ボクは泣きじゃくった。怖かった。苦しかった。
そして、ゆきちゃんへの裏切りが辛かった。ゆきちゃんに会いたかった。
いくつもの想い。
ボクの心は、ゆきちゃんでいっぱいだった。
「もう大丈夫よ。安心してあゆみ。私がいるから」
ゆきちゃんはボクの頭をゆっくりと撫でてくれた。
安心する。
頼もしい。
本当に大事な人。
「ゆきちゃん……かっこよすぎ」
ボクは上目遣いでぼそっと言った。
「もう……あゆみったら。女の子みたいじゃない。ほんと……あゆみそっくり……」
ラブレターの彼女には会えなかったけど、それでもボクは運命の彼女を見つけた。
その名は佐倉ゆき。
もう一人のボク、あゆみの心。
そしてボク自身の心。
二人のボクの心が告げている。
彼女こそ運命の人その人だと。
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