第4話 魔法の仕組み
どうやら入れ替わりに成功し、ボクはパラレルワールドへ無事到着したようだった。
ボクは今、目の前の幼女にお説教をされている。
もちろん正座だ。
その幼女の名前は二杜氏ゆたか。
あの無精ひげの先生のペアだ。
ボクがこっちに来る時に、迷わないようにひっぱってくれたのがこの幼女、もとい二杜氏先生だった。
どさくさに紛れて、こっちに来た瞬間に、先生を思いっきり抱きしめて体中をさわりまくり、もみまくってしまったらしい。
おまけに匂いも嗅ぎまくっていた。
意識がはっきりしなかったとはいえ、驚いた先生はボクに恐怖を感じたらしい。
その証拠に涙目だ。
しかし……こんなに可愛い幼女だとは……
もっとじっくり堪能すべきだったと後悔している。
「まったくもう! まったくもうだよ!歩君!!! 襲われるかと本気で思っちゃったんだからね!! 反省してよね!?」
「はい……ごめんなさい……」
あっ!
女の声だ!!
これ自分の声なのか!!
うわぁ……可愛い声だなぁ……
「あーあーあー。テストテスト」
「おいこら!! お前反省してねーだろ!!」
ぽかっと頭を殴られた。
ほっこりする。
こんな可愛らしい幼女が涙目でボクの頭を殴るんだもの。
怖かったんだね。
あー可愛い。
ボクは満面の笑みで先生を見つめた。
「おまえーっ! 知ってるんだからな! わたしのこと雑だとかいってただろ! ちゃーんと聞いてたんだからなぁ!」
まじか。聞こえてたのか!
「ご、ごめんなさい。こんな可愛らしい幼女だと思ってなかったんです」
「わたしこう見えても三十路だからな! 見た目で判断するなよ!!
そしてっ! わたしがお前の先生で、魔法少女の先輩なんだからな!」
「三十路!? 全然そう見えない! でも逆にそこがいいです!」
あーなでなでしたい。
ロリっ子先生に連れられて、ボク達は公園に来ていた。
「ところで先生、魔法っていったいどういう仕組みなんですか?」
にひひっと口元を吊り上げ、いやらしい目つきでボクを見るロリっ子、もとい二杜氏先生。
「聞きたい? 聞きたいです先生。どうかお願いします。って言ったら教えてあげる」
こういうとこ見ると、あっちの世界の二杜氏先生そっくりだ。
しかし、おっさんがやるのとロリっ子がやるのじゃまるで印象が違う。
こっちの先生に言われると、しょうがないなぁって気持ちになれるから不思議なものだ。
「わかりましたよ、先生。どうか魔法について教えてください。どうかお願いします」
ボクの言葉を聞いて、先生は上機嫌だ。
めんどくさいので、先生にはそのまま上機嫌でいてもらおう。
しょうがないから教えてあげる。とロリっ子先生は語りだす。
「魔法の秘密はこの機械なのだ! この機械を使って、リアル世界から仮想世界へ命令を送信。
そして仮想世界内のデータをARとしてリアル世界へと再転送させるの。
右手に着けてるその装置がそれらを一瞬の内に処理してくれるといった、一世一代の大発明なのだよ。
ふっふーん。すごいでしょ?」
先生は右手の装置をボクの顔の前に突き出す。
つま先立ちしてるところが可愛い。
「魔法発生の機械となっているここに横長のライトが付いてるでしょ? ここから光が立体的な帯状に発生するの。
発生した光の光子に、映像エフェクトを表示させてっと。ほら……こんな具合に」
そう言うと、ロリっ子二杜氏先生は右手を前にまっすぐ突き出した。
右手に装着してある機械の先端から伸びる光が放射される。
「この光全部がモニターだと思えばわかりやすいわね。
光子自体にデータを保存していて、装置から継続的に光を放出させることで相対位置にオブジェクトを表示させることができるのよ」
そういうと、光の放射上に炎が浮かび上がった。大きさは人間の頭の2倍程度。赤く燃える炎はまさに本物の炎。
揺らめくさまも、炎の周囲が歪んで見えるのも本物と見分けがつかない。
「すごい! 本物の炎とそっくりじゃないですか!」
「描画能力も高いでしょ? 立体解像度もこだわったんだ」
驚いた。
その質感、存在感、揺れ具合、どれをとっても本物と見分けがつかない。
「あれ……? あったかい……え、熱!?
単なる表示じゃないんですか!?」
嘘だろう?
熱まで感じる。
ここまでくると、本当に魔法だ。
「いい所に気が付いたね、歩君。わかりやすく言えば、炎を描画したとこは別でレーザー放射をしているの。魔法ってさ、撃ったらバーンってしなきゃじゃない?」
ロリっ子先生は両手を円状に動かして、バーンを表現した。
撃ったらバーンってなんだよそれ。
お子様かよ。
つっこむと機嫌が悪くなりそうだから黙っていよう。
まあ、可愛いからいいか。
ロリっ子が両手を動かしている間も、先ほど発生させた炎は同じ位置にとどまっている。
単純に光の放射上に描画しているだけじゃないらしい。
リアル世界に、相対座標として配置しているのだろう。
「いくらAR技術が進歩したとしてもさ、リアル現実への干渉がなきゃさみしいじゃない?
だから考えたのよ。あっちのわたしと一緒にね」
ほほう。あっちの二杜氏先生も開発に携わっていたのか。
「炎がビューンって飛んでどーんってしても、ダメージ与えなきゃ意味ないじゃない?
だからね、ダメージの部分だけは別の方法で処理して、映像だけを魔法のように描画させることにしたの」
確かにそうだ。
いくら光子をモニター代わりにすることに成功しても、炎はあくまで炎の形をした描画されたオブジェクトでしかない。
それがぶつかった時、リアル世界でどういう結果をもたらすかまでは、AR技術だけでは不可能だろう。
「それでね、ぶつかった時のダメージは全部熱レーザーで壊しちゃおっていうのが結論」
そういうと、ロリっ子先生は炎を前方の木に投げつけた。
ドーンという爆発音とともに、前方にあった木の上部が吹き飛んだ。
「な……なんて威力だ!」
予想以上の破壊力!
科学でここまで出来るのか!?
確かにこれは……魔法だ!!
「まあ、氷の魔法でもバーンってなるし、物理攻撃でもバーンってなるんだけどね。
描画だけなら氷が飛んでいってるようにみせれるけど、ダメージは何でも同じってこと。
逆に言えば、見た目だけならお好みのエフェクトを選んで、好きなようにカスタマイズできるのよ」
そういうと、ロリっ子先生は右手に巨大な鎌を出現させた。
先生の身長とは不釣り合いなほどに巨大な鎌だ。
右手の鎌を高だかと掲げ、両足を開いてボクの方を見る。
ゆっくりと左手はピースの形で横に倒し、左目の前に添えた。
先生はポーズを決めたままずっとボクを見ている。
「ふふふ……どお?」
どおって聞かれても……
「可愛いです。はい」
ボクがそういうと先生は顔を赤らめた。
「そ……そうだけど! そうじゃなくて!!」
照れた顔も可愛いです。先生。
「わたしみたいな小さな体でも、こんなおっきな武器が扱えちゃうんだよ。描画だけだからね。実質的な重量は、この機械だけだから」
なるほど。
重すぎて扱えないっていうことがないのか。
大きければそれだけ当たる範囲も広くなるし、武器としては有効か……
ん? まてよ……
「先生、長さ100メートルくらいの武器も作れるんですか?」
大きければ大きいほど、長ければ長いほど有利じゃないのか?
100メートル以内なら、どんな敵でも一瞬で倒せそうだ。
「結論から言えば、できるよ。でもね、それだけ光子とレーザー照射距離を広げないといけないから、エネルギーがすぐなくなっちゃうかな」
「エネルギーっていうと、マジックポイントみたいなのですか?」
「ううん、電池の」
そりゃそうか。
どうも現実と仮想世界の話が混同してしまう。
現実離れした話ばかりだから、ついゲームの概念がよぎってしまう。
「それだけじゃないよ!」
そういうと、ロリっ子先生はその場でくるりと回りだす。
地面から光の帯が上へと放射され、先生が光で包まれた。
すると、先生の着ていた服が消え……
裸の先生が!
みえ……みえ……っ!!
しかし、白い光が不自然に各所を覆い隠している。
いったいなんだこの不自然な光は!
おかしいだろう! いい加減にしろ!
フーーっ! フーー!
ボクはその白い光に思いっきり息を吹きかけていた。
無駄だとわかると、今度は見る角度を変えてみることにした。
なんだこの光は!
不自然に移動して視線を塞ぐぞ。
くそー! あとちょっとで見えそうなのに!
あ。
先生の冷たい目とボクの目が会った。
先生の体が一層ひかり、多くの小さな光のオーブが舞い上がる。
一度上昇した光のオーブは、吸い寄せられるように先生の体へと集まっていく。
腕、足、胸、腰……
光の集合体は、ゆっくりと光度を失い、フリルのついた赤と黒のミニスカートへ。
ゴスロリ調の上着、長めの手袋、そして赤と黒の縞々の二―ソックスが姿を現した。
周囲に赤い薔薇の花びらが宙を舞い、ゆったりとした円を描く。
その中心には、幼く可憐なゴシックロリータの衣装を着た魔法少女。
「変身した……」
定番の変身シーンまで再現したのか!
さすが先生だ。
「歩君、君は女の子なんだから、もっとその辺を自覚してよね……さっきのはどう見ても、変態さんにしか見えなかったよ!」
そうだった! ボクは女の子だったんだ!
見た目は女の子だけど、中身が以前のままだ。
これは気を付けないといけないな。
「すみません……注意します」
「まったくもう! まったくもうだよ、歩君!」
しかし、魔法少女の変身シーンまで再現できるとは、なんというこだわり様なのか。
着ていた服が消えて、裸になって魔法少女の衣装へと変わる。
すごいな……
あれ? まてよ……
ふと沸いた一つの疑問。
ボクの頭の中で、仮説が一つ閃く。
その答えはすぐそこにある。
ボクはじりじりと先生へと歩み寄る。
「先生、質問なんですが……」
「な……なに? 歩君、ちょ……ちょっとなんで近づいてきてるの?」
先生は警戒しながら半歩後ろへ下がる。
「変身シーンもその衣装も描画なんですよね?」
ボクは更に先生へと歩みを進める。
「そ……そうよ。ちょっと、なになになに!?」
興奮が止まらない。
だってそうだろう?
今着ている服は現実の服じゃなくて、描画された服ってことになる。
なら、『さっき着ていた服』はどこいった?
消える服なんて現実にあるのかい?
答えはノーだ。
ボクは右手を先生のスカートへと伸ばし……そのまま捲り上げた。
白い下着が……見えることはなかった。
スカートを通り抜け、ボクの手は空振りしたのだ。
そう、この服は偽物。
実在しない服。
もしもこの機械の電源を今落としたらどうなるだろう。
描画されていた服は消え、ありのままの先生だけがそこに残るだろう。
さっき着ていた服も、今着ている服も偽物だった。
つまり……
先生はずっと素っ裸だったのだ!!
興奮が止まらない。
ボクの歩みが止まらない。
ボクの右手が止まらない。
「先生、すっぱだかで歩いてたんですか!?」
本来服があるべき場所には感触はない。
その先には、小さく、柔らかな先生の腕。
「きゃぁぁぁぁあああ!!」
先生におもいっきり殴られた。
やっと正気に戻ったボクは、正座させられていた。
先生はボクに言った。
「見えてないから裸じゃないもん!」
ロリっ子幼女に正座させられながら、今までの情報を整理した。
ボクが先生に最初に抱きついた時の感触は、ありのままの先生だったんだ!
じゃなく……コホン。
自分で好きなようにエフェクトを付けることができる。
自分ですきなように魔法を作り上げられる。
自分の好きな武器を作り上げられる。
自分の好きな衣装を作り上げられる。
自分の好きな変身シーンを作り上げられる。
ボクはどんな魔法少女になりたい?
どんな魔法を使いたい?
どんな武器を使いたい?
どんな衣装を着たい?
どんな変身シーンで変身したい?
ボクなら……
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