第3話 あゆむとあゆみ
「あゆむ……あゆむ……」
女の子がボクの名前を呼んでいる。
目を開けても何も見えない。
周りを見渡しても真っ暗だ。
これは……夢の中なのか?
「そうよ。これは『私達』の夢の中」
「え? 心を読んだの?」
「そうよ。だってここは私達が一つになる場所だもの。貴方も私も同じ魂だもん」
やばい、変な事を考えないようにしないと!
エロゲのことは黙っていよう!
引き出しの奥にしまってあるエロ本も!
そう思うと次から次へと連鎖する。
「はぁ……」
「も、もしかして……全部わかっちゃった?」
女の子は何も答えない。
流れる沈黙。
「ご、ごめん……こういうの慣れてなくって……意識がリンクするっていうの?」
「まあいいわ。それより自己紹介しましょ。私はあゆみ。貴方はパラレルワールドでもう一人の私なの」
視界に女の子が現れた。
この子が……あゆみ……もう一人のボク……
「あ、はじめまして……でいいのかな? ボクはあゆむ。もう一人の……君……でいいのかな?」
「ええ。間違いなく私達は『ペア』よ。同じ魂から派生している同一魂体」
「ペア? 同一魂体?」
「ペアっていうのは、同一量子のプラスとマイナスの因子を分かち持つ者達のことよ。
同一魂体っていうのは、私も貴方も同じ一つの魂を共有してるって意味。貴方が死ねば、私も死ぬし、私が死ねば貴方も死ぬ。いわば運命共同体ね」
「え!? そうなの!?」
「ええ。共通しているのは死だけじゃないけどね。それはまあ……いいかな」
「そうなんだ。あ、でもボクって男の子だよ? あゆみ……ちゃんは女の子だよね?」
「そうよ。だって『ペア』だもの。プラスとマイナス、性別は正反対になるわ」
「そうそうそれ! 入れ替わるって言っても、あゆみちゃんは男のボクになってもいいの?」
「……」
「やっぱ……いや……だよね?」
『嫌だけど……でも、これしかない。
こうしなければゆきちゃんと……』
あゆみの思念が伝わってくる。
わ……びっくりした。
ペアってこういうものなんだ……
「あっ……聞こえちゃった……よね?」
「うん……ゆきちゃんがどうとか、聞こえた」
「今のは忘れて! 絶対ゆきちゃんには言わないで!」
「う、うん……」
「ところでさ、魔法少女って何なの? こっちの世界はアニメやゲームの世界だけの話だよ、そんなの」
「うんとね、世界創生の時に流れ出した因子の数が、こっちの世界の方がそっちより倍以上多いのよ。
その影響で、こっち側の方が圧倒的に色んな物や事象が多いの。
そっちは3割でこっちは7割。この差の中に、魔法っていう概念も含まれてるの。物理に干渉する力っていうやつね。
でもあゆむが使うのは科学。疑似魔法ね。
その力を扱える人物の中で、特に未成年の女の子で、魔物と戦う役目を負った人達を魔法少女っていうの。先生以外は、私とゆきちゃんしか今はいないけどね」
「難しくて……わかんね。でも、なんで未成年の女の子なの?」
「それは、初代魔法少女の二杜氏先生のポリシーみたい」
「二杜氏先生……絶対こっちの世界の先生の意思が含まれてるだろそれ」
「二杜氏先生は、すっごい天才なのよ。魔法少女だけじゃなくて、宇宙物理学や量子力学にも精通しているの。
パラレルワールドのペアと意思疎通が出来るのは、先生くらいなのよ。今だって先生の協力で貴方と話してるんだから」
「そうなんだ。あのむっつり先生がねぇ。それに入れ替わったそっちの先生とも今日話したけど、なんかすっごい雑な感じだったよ」
「あはは。それは同感。すごい先生なのは認めるけど、かなり大雑把な感じね。あ、これ先生には内緒よ?」
「それでさ、ボクがその魔法少女になるって話だけどさ、ほんとに魔物なんかと戦ったりするの?」
「うん。今の所そんなに強い魔物は現れてないから、心配しないで大丈夫よ」
「え? そうなの? てっきり魔法少女を続けるのが辛くて、辞めたがっているのだとばかり……
そんな強くないなら、なんで入れ替わりたいの?」
「…………」
『言わない。言わない。心を平静に、平静に……』
「……無理には聞かないよ」
「ごめんね……いくらペアでも……これは言いたくないの」
「その気持ちはわかるよ。ボクも知られたくない事だってあるさ」
ボクがロリコンでちっぱい好きだってこととかね。
「しっかり聞こえてるよ。まったくもぉ……」
「はっ!? しまった!」
「あのさ……入れ替わってもらうのに……なんだけど、ちょっと心配になってきた。ゆきや先生に手出さないでよ?」
「わ、わかってるよ! 先生になんか手ださないって!」
ゆきちゃんは超好みだから、手出しちゃうかな。
「だから聞こえてるって!」
「うわぁぁぁ!!!」
「ゆきちゃんには……ある程度ならいいわ。あの子もその方が……いいかもしれないし。でも、絶対にゆきちゃんを悲しませないでね。それだけは約束して」
「うん」
そこまでゆきちゃんを思ってるなら、どうして……
「…………」
「声は……聞こえないけど、気持ちは伝わってるよ。本当にゆきちゃんが大事なんだって。
約束するよ。ゆきちゃんを悲しませない」
「ありがとう……」
「それで、入れ替わるってどうやるの? 先生の話だと、あゆみちゃんが魔法でやるとか聞いてるけど」
「あ、うん。私が魔法で私達の繋がりをもっと強くさせるから、同時に入れ替わるの。
自分の体を離れて、繋がれたリンクを通ってこっち側にきて。
私達が、入れ替わりたいって思いを同時に強く念じれば、入れ替わりができるわ」
「そんなふわふわしたやり方でいいの!? ボク、出来るか不安だよ」
「私も初めてだからさ、二杜氏先生の受け売りしか説明できないの……」
「二杜氏先生か……大丈夫かな」
「大丈夫よ。二杜氏先生がサポートしてくれるはずだから」
「う、うん……」
「じゃあ、入れ替わりたいって強く念じてみて?」
「わかった」
入れ替わりたい。
こんな自分とおさらばして、可愛い魔法少女になりたい。
こんな素敵なあゆみちゃんに……ボクはなりたい。
ボクは……こんなにも素敵で可愛らしい女の子になれるんだ。
なりたい。
なって……色々……してみたい!
「歩君……ちょっと雑念……多すぎ」
聞こえてるんだったぁぁぁ!!
「もう一度。ごほん」
入れ替わりたい。
入れ替わりたい。
入れ替わりたい。
…………
突如意識が遠くなり、自分が吸い込まれる感覚がした。
自分の体から離れる感覚。
恐怖。
本当に入れ替われるのだろうか。
怖い。
体から完全に離れて吸い込まれていく。
真っ暗闇の中、引っ張られていく恐怖。
自分の体から離れてしまったという恐怖。
このままこの暗闇の中を彷徨ってしまい続けるのではないかといった恐怖。
怖い……
助けて……
あゆみちゃん!
助けてっ!!
その時、声が聞こえた。
「こっちよ」
その瞬間、声の主に引っ張られる感覚がした。
急激に光が降り注ぐ。
痛いほどの光。
たすけてっ!!
徐々に体に伝わってくる感覚。
光。そして、耳鳴りのような音。
柔らかい感触。
いつまでも触っていたい感触。
初めての感触。
柔らかくて気持ちがいい。
なんだろう……この感触はとても心地よい……
柔らかな匂い。
あぁ……なんていい匂いなんだ。
いつまでも嗅いでいたい。
ぎゅっと抱きしめる。
鳴り響く声。
何かを叩く音。
同時に感じる痛み。
なんだろう。
これが入れ替わり……?
ゆっくりと目を開けると、ボクは幼女を抱きしめていた。
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