祭りの準備もそろそろはじめよかー
第35話制服エプロンvsメイド服
俺は満身創痍の状態で、陽射しが大分傾いた廊下をのっそり歩いていた。大した運動はしていないのだが、全力疾走したかのように、身体が重く感じられる。精神HPがもう残りわずかだからだろうか?
いやぁ、ひどい目にあった。
屈強な男たちに連れいかれたのは、刑務所……ではなく、学校だったところまでは良かった。問題はそこから先だ。
到着と同時に待ち受けていたのは、怪しげな笑みを浮かべた五木。その時点で嫌な予感はしていたんだけどさ。逃亡を図ろうとするも失敗に終わり、二人して連れていかれたのは学校のとある一室。何でもAクラスに所属する生徒には、学校からそれぞれに1部屋提供されているらしい。そんなわけで、その五木御用達のプライベートルームの中で精神的ダメージを受け、解放されたのがさっきのこと。
責められるのが好きな俺ではあるが、他の女子の前で性癖をいじられるのはあまり経験したくないものである。くせになってしまうからな。まあ、他の女子って言っても、俺よりはるかに変態の美々だったから反応に困るものではあるが。
そういや、美々は大丈夫だろうか?暫くの間五木家に立ち入り禁止を言い渡された時には、この世の終わりみたいな顔してたけど…。まあ、これを機に反省するこった。そうすりゃ五木も分かってくれるだろ。好意を持たれて嫌な人間なんていないだろうしな。…うん。程度は大事だけどね。
そんなことを考えながら、会議室の扉を開ける。ん?学校に行ってなぜいきなり会議室に行くのかって?授業はいいのかって?ははは、そんなことは些末な問題だぜ。もうとっくに放課後だから、授業なんて終わっちゃってるんだよ。
会議室の中には、コンテストの出場者が半分くらい集まっていた。まだミーティングは始まっていないらしい。その中の一人が爽やかな笑顔で近寄ってくる。Eクラスのリア充こと小鳥遊たかなしである。
「山田君、おはよう。今日は何かあったのかい?昼間見かけなかったけど」
「おう。ちょっと野暮用があってだな」
わざわざ美々とか五木に捕まったことを審らかに話す必要もあるまい。
「それはそれは。お疲れ様」
「サ、サンキュー」
適当に挨拶を済ませると、小鳥遊が思い出したかのようにポンと手を打つ。
「あ、そういえば、2つ山田君と話したいことあったんだ。まずね、昼頃教室に山田君を探しにきた人いたよ」
「ん?誰?」
「神崎さんだよ。Aクラスの」
「そうか。何か言ってたか?」
すると、奴と俺の間に不思議な沈黙が訪れる。あれ?変なこと言ったか?疑問に思って小鳥遊の方に目をやると、驚いた様子のイケメンがいた。
「どした?」
「あ、ごめん。ちょっとびっくりしてただけで」
「何かびっくりする要素あったか?」
「うん。だって、Aクラスの神崎さんって言ったら学園一のマドンナとも言われている人だよ?そんな人が探しに来たっていうのに、すごく普通の反応だったから」
「なるほど」
確かに、神崎家に訪れる前の俺だったら、喜びのあまり校舎を駆け巡っていただろう。だが、今の俺は違うんだぜ。神崎家で神崎のあんな部分やこんな部分を知った俺には、もはやそのようなことは驚くに値しない。小鳥遊、貴様の時代は終わったのだ。我にひれ伏せ!
なんて、ひとり優越感に浸っていたが、イケメンはそれ以上追求してくることもなく笑顔に戻って話を戻す。
「それで、神崎さんが言ってたことは、『山田君が来たら早く連絡ください』だったよ」
「そいつはどうも」
神崎が相談?まあ、五木関連のことだと思うが、一応確認しておくか。スマホを取り出しSNSアプリを開く。っと、神崎から連絡来てたわ。
神崎:あんた、制服でできるやつを絶対選びなさいよっ!これは命令よ!
意味が分からん。とりあえず、どゆこと?とだけ送っておく。視線を感じて顔を向けると、小鳥遊が申し訳なさそうな表情を作る。
「ごめん、覗くつもりはなかったんだけど…急いでスマホ出してからどうしたのかな?って思って」
「いや俺の方こそ悪い。会話の途中だったんだよな?」
「あ、そうだったね。もう1つは雑談程度なんだけどさ…」
そう言うと、きょろきょろ辺りを見る小鳥遊。少し小声になって続ける。
「山田君は、制服エプロンとメイド服どっちが好みかな?」
「は?」
「そんな冷ややかな目で見ないでくれよ。高校生男子の普通の会話だろ?」
いたずらっぽく笑うイケメン。彼の真意が分からず無言でいると、彼は説明し始めた。
「いやさ、アテネ祭の出し物で今意見が分かれているところでさ。詳しくは会議で説明あると思うから今はカットするけど。コンテスト参加者は、喫茶店をやって他の生徒をもてなすことになったみたいで。うちのクラスでは、そのコンセプト案が『制服エプロン喫茶』か『メイド喫茶』で分かれてるんだよ」
「何でよりによってその二つに?」
小鳥遊は苦笑しながら答える。
「もともとは、色んな案が出たんだよ。『水着』とか『下着』、『全裸』エトセトラエトセトラ…」
皆欲望丸出しだな。『全裸』とか提案したやつ超グッジョブじゃん。
「でもね、男としてはぶっちゃけどれもありなんだけど、女子からのバッシングがひどくてね。うちのクラスで残ったのは、『制服エプロン喫茶』か『メイド喫茶』ってわけ」
「あー…」
なんか『制服エプロン喫茶』って言われると非常にやらしく聞こえるが、学生の俺たちにとっては制服の上にエプロンつけるだけだから普通の喫茶店と変わらないしな。メイド喫茶も露出は少ないし、一度は着てみたいっていう人は意外と多いのかもしれない。
「で、改めて聞くけど、君はどっち派だい?」
興味津々に顔を覗き込んでくる小鳥遊。うーむ。俺のドストライクとしては、全裸(ただし黒の靴下はオッケー、というよりむしろ必須)だが、やはり制服は捨てがたい。エロゲとかでも、美少女キャラ(18歳以上だから安心してね)の制服が何かの拍子にはだけて、普段隠されている艶やかな素肌や周りと色素が違う部分がチラリしたら元気になっちゃうもんね。
「俺は制服の方がい…」
「君には失望したよ、山田君」
言葉を言い切る前に、冷たい声で割り込まれた。やれやれと首を横に振る小鳥遊によって。状況が読めずにいると、イケメンはため息まじりに後を継ぐ。
「喫茶店と言ったらメイド喫茶一択だろう。違うかい?」
声高らかに宣言してくるイケメン。
……。俺は小鳥遊について何やら勘違いをしていたらしい。ただのリア充かと思っていたら、内にはメイド喫茶への熱き想いが眠っていたようだ。
それならばだ…。俺は全身全霊を持って、お前を打ち破らねばなるまい。制服フェチとしてな!
「いいや違うね。小鳥遊、お前は制服のパワーをなめている!制服こそ至高なり」
俺の熱のこもった返答に対し、小鳥遊は不敵に笑う。
「面白いこと言うね山田君。それなら、会議で白黒つけようじゃないか」
「望むところよ」
こうして俺と小鳥遊の熱き戦いの火蓋が切って下された。
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