第33話ヤンデレ少女と5人の容疑者~中編~
一人の満面の笑顔の少女の前に五人の男たちが笑顔で佇んでいる。何か微笑ましいことがあったのであろうか?この場面を見た人はそう思うかもしれない。
ただ、少しズームアップしてみると、違った感想を持つことになるだろう。
まずは少女。頭の上で黒髪を二つにまとめてお団子をつくっている。背は低く凹凸のない体型、いわゆる幼女体型だ。
仮にロリコン男がいたら「グヘヘヘ、おじちゃんが良いこと教えてあげるからついておいで」などと声をかけて、犠牲者が一人出てしまいかねないほど美少女だ。
ただし、注意書きはつけておきたい。犠牲者は少女の方ではなく、ロリコン男の方になるということを…。それも無惨な姿でね♪
彼女の右手にはスマホがある。先ほどまで『お姉さま』と会話をしていたのだ。無粋な男が中断するまでは…。一方、左手にはクナイが握られている。本人曰く、『美々は忍の家系なので』らしい。そんな彼女が何やらぶつぶつと呟いている。
恐る恐る耳を傾けると、「お姉さまの私物に欲情するケダモノは美々が始末しなければ…。じわりじわりと後悔する時間を与えながら、処理するには何がいいですかね?フフフ。楽しみです」などと繰り返し口にしている。
うん。何も聞かなかったことにしよう。
次に男たち。左から、リーゼント、モヒカン、ハゲ、メガネ、あと…え…うーん…何の特徴もないんだよな…うん…没個性の男が一人。
「主人公の扱い雑すぎるだろっ!」
何やら声が聞こえるが、スルー。そもそも、男の自己紹介なんてそんなもんでいいっしょ。サークルとかの男の自己紹介は、簡潔で十分。みんなが知りたいのは、美少女の自己紹介なんだ。
ということで、美少女+男5人の織り成すミステリーをお届けしよう。
<リーゼントからの物語>
オレの名前は、力島りきしま善人ぜんと。名前の一部とオレのチャーミングポイントの髪型になぞらえて、仲間からは『リーゼント』って呼ばれている。
そんなオレは、いつも通りつるんでいる二人と朝早く登校していた。モヒカンが似合う良りょうとスキンヘッドが似合う正ただしと一緒にな。
あん?チャラそうな見た目のくせして、真面目に学校に登校してんのかって?当たりめぇよ。今時のワルってのはちゃんと学校通うもんよ。朝早く行って、学校回りを掃除してみんなが気持ちよく一日過ごせるようにするのが、真のワルってもんだと思わねぇか?
だからよ、今日も良と正と一緒に朝早く起きて登校していたんだ。そんな時、冴えない男とマブイ姉ちゃん(五木佐奈って言うらしい)が楽しそうに歩いていたわけよ。青春って感じで良いじゃねぇか。
ワルなオレ達は、冴えない男に華を持たせてやろうとして、二人に声をかけてやったんだよ。
そしたら、冴えない男は彼女の前で、エロ本出してきやがった。はぁ。何やってんだよ。かっこよくオレ達を追い払えっつぅの。
一方、マブイ姉ちゃんも、姉ちゃんでオレ達を笑顔で脅してきやがった。最近の女ってのはこえぇな。
その後、なんやかんやあって姉ちゃんたちと別れたオレ達だったが、突然意識を失っちまったんだよ。そんで、気づいた時にゃ状況も分からないまま、美々と呼ばれる嬢ちゃんの前に整列させられているってわけだ。
おっと嬢ちゃんが喋り出した。
「犯人はこの中にいます」
嬢ちゃんはオレ達の目の前をカツカツと歩いていく。
「この中にお姉さまの私物に対して欲情した方がいるそうですね。美々は悲しいです。犯人さん自首して頂けませんか?」
可愛らしいけれども鋭い声が響く。名乗り出るものはいない。そりゃそうだ。クナイ持っている少女の言葉に応じたら、何が起こるか分かったもんじゃねぇ。まぁ、そもそも身に覚えのないことだからな。
嬢ちゃんははぁと小さくため息をついてから続ける。
「そうですか…。それでは、犯人に直接問う必要がありそうですね。身体にね」
この嬢ちゃん。ちょっと頭がアレらしい。外見は確かに可愛い。が、マブイ姉ちゃんにゾッコンで、彼女のためなら犠牲を問わない的な思考をお持ちのようだ。恋ってのはいいものだが、この嬢ちゃんは加減を知らねぇようだ…。ゴ、ゴクリ。
そして、少女は小さな指をビシッと前に突きだす。
「犯人はあなたです!」
そう言って、嬢ちゃんが指差したのは正だった。それに対して、即座に否定する正。
「いやいや。目が覚めて並ばされたこと思ったら、いきなり犯人扱いってのはないんじゃね?」
正の反論に、良も加わる。
「そうだぜ。そもそも犯人って何の犯人だよ?オレ達何かした覚えはないぜ?」
「罪状は、『お姉さまの私物に欲情した罪』です。見るからに悪そうな外見をしていますし」
その言葉にオレぁキレちまったよ。
「待ってくれよ嬢ちゃん」
「何ですか?」
嬢ちゃんの言葉こそ丁寧だったが、明らかに不信感の宿った返事だった。だが、オレは正面から彼女の瞳を見据え、静かにけれどもはっきりと思っていることを口にする。
「確かにな、正は悪そうに見えるけどよ…。こいつ根はいいやつなんだよ」
「リーゼント…」
「正だけじゃねぇ、良もオレもそうだ。外見は褒められたようなもんじゃねぇかもしんねぇ。だけどよ、外見で判断するのは良くねぇと思う。人間ってのはそういう表面的なもんじゃなくて、ここ、ハートでこそ勝負すべきだ。違うか?嬢ちゃん?」
久々にマジトーンになっちまった。慣れねぇことはするもんじゃねぇや。でも、彼女に伝わってくれると嬉しい。
「ごめんなさいです。美々が早計でした」
なんだい、ちゃんと謝れるじゃねぇか。オレも嬢ちゃんのこと誤解してたようだ。きっちり詫びいれとかねぇと。
「こっちこそ、すまねぇ。つい熱くなっちまった」
オレと嬢ちゃんが握手をしようとした瞬間、彼女の手がふと止まる。少女の視線の先には、正のポケットからはみ出た布のようなものがある。女物の布が。
ま、まさか…。
<魔法使いからの物語>
田中たなか流りゅう。それが俺の名だ。学校では、美少女のデータを魔法のように入手する姿が功を奏して、『魔法使い』と呼ばれているのだ。男女から尊敬を集める俺にふさわしいニックネームだな。
そんな俺には、『ピリオド』という親友がいるのだ。モブキャラのようなやつをイメージしてもらえると、ピリオドになる。おわかりいただけただろうか?
そんなピリオドの様子が最近おかしい。今朝もナイスバディな美少女(五木佐奈さんというらしい)と一緒に登校してたし。さっきまで美々ちゃんと親しげに喋ってたし(まぁ、その美々ちゃんによって今生命の危機に瀕しているわけだが)。ずるいぞ!
俺なんてな、俺なんてな、あんまりにも学校で美少女と運命的な出会いがなさすぎるから、妹喫茶に行っちちゃったんだぞ。
名前からして耽美な響きがする妹喫茶の扉を開けたらさ、俺の倍くらいの年齢のオバサンが『あんちゃん、いらっしゃい』とか嗄れた声で迎えてくれたぞ、こんちくしょーめ!
しまいには、8本で800円のポ〇キーまで注文させられたぞ。普通のポッキ〇をなっ!ぐぬぬぬぬぬぬ。
ん?美々ちゃんが低い声でチンピラたちに尋問しているぞ。なになに。
「そちらの男性のポケットから出ている布は彼のものではないですよね?」
抑揚のない低い美々ちゃんの声が、チンピラたちを襲う。
「まあまあ、気のせいじゃね?」
「嬢ちゃん落ち着けって」
チンピラの2人の制止を振り切って、正と呼ばれるチンピラの前に美々ちゃんが立つ。
「お兄さん、そちらの布見せて頂けますか?」
にっこりと微笑む美々ちゃん。一方、正はブルブル震えていた。喉元にクナイ突き付けられたら誰でもそうなるわな。でも、犯人見つかったっぽいし解決だな。
この後は…と。美々ちゃんと連絡先交換するじゃん。そんで、美々ちゃんフラグを立てつつ、五木さんとも仲良くなって俺のハーレムを完成させる。うむ。我ながら完璧のアイディアだ。
さあて、ぱっぱと美々ちゃんに連絡先聞いちゃ…
「これはお姉さまの香りではありませんね」
美々ちゃんが、チンピラの一人から奪った布をクンクン嗅いで呟く。その言葉に安堵する正。
「これは妹が忘れ物をしたから届けようとしてだな」
「はぁ。紛らわしいもの持ってこないでください。事件は振り出しですか」
彼女の言葉によって、再度俺達の間に緊張が走る。まだ事件は終わっていなかったのだ。
どうする?魔法使いよ?さっさと事件を解決しなければ、美々ちゃんとのイベントが始まらない。誰か?誰か?犯人にしてもいいようなやつはいないか?最近美少女とイチャイチャしてばかりいて天罰が必要そうなやつがいたらいんだけどな。
そんな都合のいいやついないよなー。そう思い、横目で男たちを見る。そしたらいましたよ。ちょうど最適な人物が!うむ。
『ピリオドを生け贄に差し出そう』
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