第17話黒の女神様とリア充の祭り~前夜~

 神崎を含むコンテストの参加者が全員会議室に集まると、コンテストについてのミーティングが始まった。そうは言いつつも今日は初回のミーティング。目的はあくまでも顔合わせ程度だったので、4限のHRの内容の要約と自己紹介で即時解散となった。ミーティングを楽しみにしていた俺ではあるが、今日は早く終わって良かった。現在進行形で、お団子を含む五木の取り巻きや野次馬の羨望と嫉妬、そして敵意の視線が痛いからな。


 それに、今お団子頭が俺の横通りすぎたんだけど、夜道は後ろに気をつけなさい、とか小さな声で言われたぞ。あはははは、冗談ですよね?お嬢さん?あれもこれも五木が余計なこと言うからだ。俺に何かあったら訴えてやるっ!五木覚悟しろぉぉぉぉ!


 叫びたい衝動をこらえて恨みがましい視線を五木に送ってみると、笑顔で手を振られた。図太い神経をお持ちのようで。ってか、神崎にどうやって弁解すればいいんだよ?女の子に別の女の子のハンカチ渡す男ってどうよ?正直俺が女の子だったら、ドン引きですよ。自分が女装している様子と、それを神崎に冷ややかな目で見られていることを想像してしまい、二重の自己嫌悪を覚える俺。両手で頭を抱えて蹲る俺。


 自分的にも人の目的にも若干気持ちが悪くなった俺は、外の空気を吸いたくなり会議室の外に出る。まあ、これ以上会議室にいる用事もないし、弥生が出てくるまで適当に時間つぶしているか。そう思い、弥生に『話が終わったら連絡くれ』とだけメールして、自販機に飲み物を買いに行く。


 うちの学校の自販機は奥まったところにあるため、密かにイチャイチャするカップルに人気だったりする。それは、俺たち非リア充にとって猛毒を持った区画に違いないのだが、如何せんのどの渇きがヤバかったので仕方なく訪れた次第だ。幸いにも毒物はいなかったので、安心して飲み物片手に近くの椅子に腰かける。すると、どこからともなく足音が聞こえてくる。どうやらこちら側に誰か向かってくるようだ。


 警戒レベルを上げて視線を下の方に向ける俺。だって、イチャイチャしたカップルとか見たら、目がぁぁぁぁぁぁとか叫んじゃうからね。そんなの関係なしに近づく足音。ふと俺の目の前で足音が止まる。どうも気になって顔を上げると、弥生と同じくらい低身長の少女が一人立っていた。セミロングが特徴的な美少女が眠そうなとろんとした目で俺を見つめる。


「な、何か?」


コミュ障ながらも状況を理解できない俺は、どうにか質問を口にする。


「・・・・これ」


そう言って、セミロング少女は自身のスマホを俺に渡してくる。


「どゆ、こと?」


「・・・・・SNSの画面・・・・開いて・・・・・」


「??????」


全然状況が掴めないんだけど、ひとまず少女の指示に従う。すると、画面の上部に『神崎藍』の文字。


状況は分からんが『神崎藍』という文字に本能が反応して、セミロング少女に詰め寄る。


「この連絡相手ってあの神崎藍?!」


「・・・・・この学校に・・・・藍様は・・・・一人だけ」


ビクッとしながらも、頷くセミロング。その後即座に、前のめりになって画面をのぞき込む俺。続けて文面に目を通す。



藍様:こんにちは。山田君、少しお時間宜しいですか?



っしゃぁぁぁぁぁぁぁ!神崎が俺の苗字を知ってくれていた!その事実に、テンションが急上昇する俺をじぃと見つめつつ、


「・・・・・返信・・・・して・・・・」


と呟く少女。テンションが上がりすぎて早口で問う。


「俺が返信していいの?マジで?君のスマホで?」


こくりと少女が頷くのを確認してから、文字を高速で打っていく。好きな女の子と画面越しとは言え、やりとりができるチャンスがやってくるとは思いもしなかった。ありがとう。神様。



奈々:こんにちは。山田です!大丈夫です!どうしたんですか?



藍様:その・・・・2週間ぐらい前のお詫びと今日のお礼も兼ねて、これからお茶でもいかがでしょうか?



・・・・なんですとぉ?俺は白昼夢でも見ているのか?ほっぺを抓ってみる。地味に痛い。関係ないけど、お姉さんキャラにジト目で頬っぺた抓ってもらいたさあるよね?妄想終了。


 じゃあ、別の人と間違っているのか?それならば大変だ。もし俺意外に神崎から誘われる山田がいようものなら、血で血を洗う戦いに発展しかねない。そんな悲劇俺は望んでいないっ!



奈々:すいません、誰かと間違っているのでは?俺山田ですよ?



藍様:そのようなことはありませんよ。飲み物を零してしまった私に、山田君がハンカチを差し出してくれたじゃないですか?(*'ω'*)あの時はありがとうございます。それとぶつかってしまいごめんなさい。



フー。人類の悲劇はこれにて回避された。よかったよかった。それにしても、神崎の顔文字かわええ。やっぱり女神だわ。顔がとろけてしまう。停止状態に陥っていた俺は、セミロング少女の軽い突きにより現実に戻る。



奈々:男として当然のことをしたまでです。というか、すいません。俺の方こそぶつかってしまって



藍様:いえいえ、じゃあお互い様ってことにしましょうか(#^^#)それでいかがですか?今日の放課後?



優しいな神崎は。文面からにじみ出ている癒しのオーラ。これが女神たる所以か。勿論即答で『喜んで』と打とうとしたが、ふと弥生との約束を思い出す。今朝がた、五木との関係で誤解を招いたお詫びに弥生と寄り道していく約束してたんだった。逡巡した後に、唇を固く噛みしめて返信する。



奈々:めっちゃ行きたいんですけど、すいません。今日幼馴染との約束がありまして



送信した瞬間に血の涙を流しそうになる。千載一遇のチャンスを自ら捨てるとは、俺のばか野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。でも、弥生との約束を破るわけいかないし。破ろうものなら俺に明日はないし。はぁ。



藍様:そういうことでしたら、明日はいかがでしょうか?



マジで?神崎の方から日にちを調整してくれるの?俺のパラメーターは今日この時とバランスを保つために神様が決めたことだったんだな。神様今までディスってゴメン。これからは崇め奉らせて頂きます。



奈々:超暇です。いやむしろ、神崎さんのためならいつでも時間を空けます!



藍様:山田君って面白い方ですね(^O^)ありがとうございます。場所は、そうですねー、私の家などいかがですか?



いきなり自宅デートフラグキタコレェェェェェェェェェェェェ!


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