第16話ピンクのお嬢様とリア充の祭り~前夜~2

 会議室に集まった生徒たちは文字通り停止していた。ある者は大きく口を開けたまま立ち尽くし、また別の者は目を見開いたまま椅子に座っている。だが、彼らは集団制止パフォーマンスに興じているのではない。Aクラスの美少女の発した言葉によって驚いているのである。空間を支配した当の本人は、近くにいる俺にだけ分かるぐらい小さくほくそ笑む。

 このままいくと、あらぬ方向に話が広がると確信した俺は、即座に五木の発言を撤回しようとする。

「み、みんな聞いてオブッ・・・・」

発言しようとしたと同時に、俺の身体は後ろ向きに倒された。フリーズ状態から解凍された例のお団子女子に吹っ飛ばされたようだ。ついでに、軽く頭を打つ。視界が暗転する中、耳だけは正常に音を拾っていた。

「お姉さまったらご冗談がお好きなんですから。Aクラスの少女が相手ならいざ知らず、Aクラスでもない、そして何よりケダモノと親しくしているなんてお話びっくりしてしまいます」

「あらあら、美々ったらそんなに目を開いて詰め寄らなくても大丈夫ですわよ」

「失礼しました。お姉さまのご冗談があまりにもユニークだったものなので、不肖美々ついつい我を忘れてしまいました」

「反省する必要なんてなくってよ。いつも真剣なところが美々の長所ですもの」

「お姉さま、、、、」

なんか百合百合した展開でめっちゃ気になるんですけど。後頭部をさすりながら、目に回復力を重点的に注ぐ。美々と呼ばれたお団子少女の頭を五木が撫でている様子が見えてきた。中身は置いておくと、二人とも美少女であることは間違いない。いやはや眼福じゃ。女の子っていいもんだな。

「でも、私がそこの殿方と親しくしていることは本当ですわよ」

「んなわけぁ、、、」

「うっさいケダモノ」

おっとここで、お団子頭の睨みつけ&暴言が発動だ。対女子スキルが低い俺はツッコミをできない。やっぱり女の子恐い。やっべぇ、誤解を解かないといけないのに、あのお団子頭が悉く邪魔してくる。

「お姉さま、ご冗談ですよね?」

俺を見た目と同じものだとは到底思えない、うるうるとした瞳で五木を見据えるお団子頭。

「いえいえ、今朝も学校の外でお話しましたし」

人にぎりぎり聞こえる音で、二人きりで、とか意味深に呟くな。確かにそうなんだけどちがう。お団子頭が再び思考停止状態になっちゃってんじゃん。

 そして、五木は恥かしそうにしながら俺の背に回って、ちょこんと俺の服をつまむ。ち、近い。柑橘系の香りが俺の鼻孔をくすぐる。頭がくらくらしてきた。ぼうっとする俺の耳元に、薔薇色の唇を近づけて囁く。

「今は私のお話に乗った方があなたのためになると思いますわよ。さもないと、あなたが私のハンカチをお持ちになった経緯を一から皆さんに伝えないといけないですわ」

 ゴ、ゴクリ。経緯って、どこからですか?もしかして、くんかくんかしていたところですか??さーと、血の気が引いていく俺。うん。ここはしばし休戦と行こうじゃないか。うん。別に、五木に秘密をバラされることに怯えているわけじゃないよ。断じてないよ?俺の胸中を見透かしたように満足そうに頷く五木。

「ということで、皆様、私とこの殿方がお会いする時間を邪魔しないで下さいまし。そのような無粋な真似をする方がこの学校にいるとは私は思いませんが。念のためですわ」

そう言って、聴衆に対して五木がウインクする。野郎どもと五木のファンどもは、倒れていく。無論お団子頭も例外ではない。効果は抜群のようだ。どんだけ五木のこと好きなんだよ。

 一段落(?)したところで、俺はため息をつく。状況は至って最高、いやいや最悪。しっかりしろ俺。性悪女の外見に惑わされてはだめだ。俺の想いは神崎一筋。俺の神崎へのアプローチはどうなるのやら?と思っていた。この時、俺は近い未来そのチャンスが唐突に訪れることをまだ知らなかった。

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