第15話ピンクのお嬢様とリア充の祭り~前夜~
俺の手から差し出されたピンク色のハンカチ(五木のもの)に、戸惑った表情を示した神崎であったが、すぐに微笑むと、可愛らしいハンカチですね、と言って受け取ってくれた。
「ピンクがお好きなんですか?」
自分の濡れた部分をハンカチで拭きながら、問いかけてくる神崎。緊張ゆえに声がどもる俺。だが、どうにか返事を口にする。
「え、っと、それは、俺のじゃなく、てですね」
「?」
神崎はきょとんとした表情で上目遣いに覗き込んでくる。超かわええ。今の状況を忘れて、この光景をスマホの待ち受け画面にするために、写真を撮りたい衝動に襲われた。なんとかその衝動を理性で抑え込み、弁解する言葉を模索していると、騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってきた。そして、口々に喋り出す。
「何々どうしたの?」
「Eクラスのやつがマドンナを押し倒したらしいぜ」
「E組の分際で?」
「あんた、そうゆうの止めなよ」
「Eクラスのやつが、ピンクのハンカチをマドンナに差し出した?」
「随分かわいい趣味してるんだね」
「でも、自分のものじゃないとか言ってるぞ」
「じゃあ、女の子のもの盗んだとか?」
「うわーキモイー」
第三者の視点からすると、この騒ぎは話のネタになると思ったのだろう。所々にフィクションを混ぜながら、加速的に噂となっていく。小鳥遊と弥生も必死になって噂を鎮火しようとしてくれている様子だが、焼け石に水だった。
やべぇ、どうしよう?とあたふたしていると、騒ぎの中心から凛とした声が響く。
「それは私のハンカチですわ」
聴くものは振り向かずにはいられない美しい声音。野次馬たちが声の主の方に視線を集める。そこには、亜麻色の髪をボブティにしたクール系美人が立っていた。このハンカチの持ち主こと五木佐奈である。状況が掴めない聴衆たちは、彼女が言葉を続けるのを見守っていた。ボブディの美人がコツコツと靴音を鳴らして、俺たちのもとに近寄ってくる。彼女は、先に神崎の方に目を向けて声をかける。
「災難でしたわね。私予備のブラウスを持っていますので、お召しになってください」
「ありがとうございます。でも、そこまでして頂くわけには」
五木にお礼を言いつつも、その申し出をやんわり辞退しようとする神崎。そんな神崎を優しく諫めるように、五木は首を軽く振った後に続ける。
「レディーの身体は繊細ですの。これで風邪を引いてしまったら、私の心が痛みますわ。どうぞご遠慮なさらず」
「ではお言葉に甘えて」
神崎は太陽のような笑顔で頷く。周りの空気まで輝いて見える。
美女同士の会話が一段落すると、五木の取り巻きと思しき女性が、さあこちらへ、と言って、神崎を別の教室へと誘導していく。神崎が教室から出ていくと、再び五木とフリーズした俺に視線が集まる。
五木は俺にだけに聞こえるように、私にお任せを、とだけ呟いて聴衆に向き直る。怪訝な表情で五木を見据える俺。ぷくくと口元に含み笑いをしているのが、非常にいやな予感がする。
「このハンカチは私がこの殿方にお渡ししたものですの」
五木の発言に、野次馬のどよめきが大きくなる。すると、髪で二つのお団子を作った少女が、五木の前に飛び出して必死の形相で真意を問う。
「佐奈お姉さま。Aクラスのトップたるお姉さまが、どうしてこんなゴミムシのような男にハンカチをお渡ししたんですか?」
五木ってAクラスなの?ってか、さらっと、初対面の女にゴミムシ扱いされたぞー?軽いデジャヴとクエスチョンマークが俺の頭の中に浮かんでいく。俺のぞんざいな扱いは見事にスルーされ、そのお団子ヘアの女性の質問への回答に聴衆の注意が集まる。
五木は華奢な片手で口元を隠しながら、頬を赤らめて小さな声でしゃべり出す。
「実は私、この殿方と親しくさせて頂いてますの」
何言ってんだぁぁぁぁぁぁこの性悪女!
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