第14話パラメーターEとリア充の祭り~前夜~3

 4限終了時には、イケメン小鳥遊に対するなんとも言えない敗北感を感じていた俺ではあるが、5限と6限の授業を適当に済ませていくと、段々テンションが高くなっていくのを自覚した。その理由は、今日の放課後に、コンテストについての第一回ミーティングが予定されているからに他ならない。

 そして、待ちに待った放課後。終礼が終わると同時に、クラスメイトたちは各々の目的のために教室を後にしていく。俺もミーティングに向かうために、鼻歌交じりに移動の準備をしていると、前の座席に座っていた魔法使いに話しかけられた。

「ピリオドよ。これから件のミーティングか?」

「ああ、そうだよ」

「うむ。まさか本当に立候補するとは思わなんだが、お前の覚悟がそれほどのものであったとは、俺の称号をお前に譲渡さなばならないかもな」

「お前の称号?そんなのあったっけ?」

「そう。『魔法使い』という男女からともに与えられた崇高なる称号のことだ。他クラスの女子たちとお近づきになりたいがために、自分のプライドを犠牲にするとは常人ではできまい。悔しいが、お前に譲ろう。受け取ってくれ」

「いわんわ!」

確かに、神崎と仲良くなろうという気持ちからエントリーしたけど、そんな不名誉な称号いらない。お前と一緒にしないでほしい。俺は、あくまでも一人の女性に恋しているのだ。断じて、複数の女子のデータとか取って喜びはしない。まあ、見せてくれるなら、遠慮なく見せてもらうけどな。

 これ以上話を広げるとめんどくさいと思った俺は、とりあえず苦笑しつつも席を立つ。魔法使いもそれを察して、別れの挨拶をしてどこかに行ってしまった。

 教室のドアを開けると、些か温度が下がったように感じた。少し離れているミーティングルームに向かおうとすると、爽やかな声で話しかけられた。

「ピ・・・山田君、もしよかったら一緒に会議室まで行かないか?」

俺の睨みを敏感に察知した小鳥遊は、俺の呼び名を訂正してから用件を述べる。なんか、普段なら『ピリオド』とか呼ばれてもあんま気にならないんだけど、イケメンにそう言われるのは癪なんだよな。でもまあ、こいつにはさっき助けてもらったし、一緒に行くぐらいはいいか、と思って軽く頷く。そして、会議室に向かいながら軽く雑談をしていく。

「山田君、さっきは出すぎた真似をして悪かったね」

「い、いや、むしろ助かったわ」

「あはは。あと、夏美も申し訳なさそうにしていたから、許してやってほしい」

夏美?ああ、あの高圧ビッチか。まあどうでもいいか。

「別に気にし、てないぜ。な、なんかありがとな」

やっぱリア充相手だとコミュ障はつらい。俺はイケメンの方を横目に、多少てんぱりながら返事をする。そんな俺に気分を害した様子もなく、

「お礼言われちゃうと照れるね」

とか後頭部に片手を当てて、照れるイケメン。イラっ。だがそこで、イケメンに対する敵意から通常運転に戻った俺は、ふと思い浮かんだ疑問をぶつけてみる。

「小鳥遊ってなんでEクラスにいるんだ?」

「なんでって?」

「いやお前みたいな・・・・・顔も性格も良くて、そんでもってコミュ力ありそうなやつが最下位クラスにいる理由がわかんねえってか」

「ああ、なるほどね」

「運動もできそうだし、勉強もできそうなイメージあんだけど」

「まあ確かに、二つともそこそこできるよ」

「じゃあ、何で?」

 俺の問いは、小鳥遊が会議室のドアを開く音によってかき消された。

「さあ、着いたよ。話せてよかった」

聞き直そうかと思ったが、笑顔を称えている小鳥遊の表情が一瞬曇った感じがしたので止めた。誰でも突かれてほしくない話題ってのがあるように、彼も何か抱えているのだろう。

 小鳥遊の会話を切り上げると、ほんわか声で自分の名前を呼ぶ声がする。

「あれ?ピーちゃん?ピーちゃんもコンテストに参加することにしたんだぁ。私も参加するんだよぉ」

小動物がにこにこしながら近寄ってくる。

「よう。珍しいな、弥生がこういうイベントに参加するなんて」

「こっちの台詞だよぉ。私はむっちゃんとあーちゃんがどうしてもっていうから参加することになっちゃったんだけど、ピーちゃんはどうして?」

「ええと」

弥生がつぶらな瞳を向けて詰め寄ってくる。俺は答えに戸惑って、後退りする。背中にふにゃっとした感覚が走ると同時に、

「きゃあ」

と可憐な悲鳴が上がる。振り替えると、憧れの女性神崎が尻餅をついていた。更に、彼女が運んでいたであろうお茶も彼女の胸元に溢れていた。おかげで、白いブラウスが透けてうっすらと黒色の下着が見える。

 そこで、健全な俺の頭脳は、素早く神崎に気づかれず胸元を見る時間を計算する。3秒だ。十分だぜやってやろうじゃん。


 3秒前、神崎の表情を確認するふりをして、素早く眼球を下に移動させる。普段は清楚そうな女子が黒って興奮するのは俺だけだろうか?純白な天使の外見を持ちながらも、脱ぐとかわって妖艶な小悪魔へと変化する。グヘヘ。捗りますな。


 2秒前、眼球を胸元の下着に固定し、全神経をもって網膜に焼き付ける。ああ、溢れたのがお茶ではなく牛乳だったら、よかったのに。ってか、お茶ももう少し頑張れよ。もうちょっと広がるんだ!頑張るんだ!


 1秒前、色白の双丘が生み出す奇跡の谷間をガン見する。ああ、あそこに触れたい、挟まれたい。スベスベしてそうな肌感、やんわりとした感触ながらも十分な反発力を持っていそうな弾力性、物理的法則を無視した見事なお椀型。完璧すぎる。


 ミッションコンプリート。


歯を食い縛りながら、理性で眼球を胸元から外す。任務を完了した俺は、神崎に声をかけながらポケットにあるものを差し出す。

「こ、これ、良かった、らどうぞ」

「ありがとうございます」

そう言って、微笑む神崎はまさに女神と呼ぶに相応しかった。だが、突如表情が戸惑いの色に変わる。

不思議に思った俺は彼女の視線を辿る。女神に差し出された俺の手のひらには、ピンク色の女の子用のハンカチが握られていた。五木に返し損ねたの忘れてた。

超絶ピンチ☆

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