侵入


 12月24日(日) PM 8:13


 新宿周辺の繁華街はクリスマスとあって活気づいていた。

 前を歩く二人組は手を握りながら寄り添うように歩いているし、後ろを歩く四人組はこれからのホームパーティについて楽しそうに話している。


(やめてくれ、 見せないでくれ…… 悲しくなる……)


【雪の雫】の一般公開は閉館時間と同じ午後8時30分に終了する。

 それまでこの風景を見続けるわけで、正気を保っていられるかは怪しいところ…なんてね。都庁前を通り過ぎたから、博物館はあと少しのはず。侵入経路は事前に把握済み、受けた仕事はきっちりと行う。


(しかし、すげーイチャイチャしてるな……)


 もやもやしながら歩いていくと、博物館裏に着いた。

 今は【雪の雫】一般公開とあって警備はかなり厳重だ。夜間でも警備員はいるし、防犯システムは大手警備会社主導で稼働している。「鼠一匹通さない」とはこのことだろう、事実抜け穴など見つけられない。


 ただ、一か所を除いて……


 依頼を持ちかけられてからずっと警備状況について調べてきた。現場の下調べ、プロジェクトの公式ページの確認、そしてハッキング。探偵業の一環でかじった技術をこんな形で使うことになるとは考えもしなかった。警備員の配置は流石に無理だったが、館内の詳細図と防犯カメラの型は知ることができ、侵入ルートは決まった。


 PM 8:40


 警備員の交代時間。この時間で博物館の外壁を越える。今は外壁の広告交換作業中で、2・3か所ではあるが足場がある。ここを作業員に扮して利用し、人目を盗んで飛び降りる。監視カメラの範囲から逃れているのは1か所のみで、本館西側になる。


「――っ ふう」


(まだ館内にすら入っていないのに心臓がバクバクいっているし…)


【雪の雫】はまだ遠い。タイムリミットまであと3時間。








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