来客

12月15日(土)


 朝焼けの美しい日のことだった。

 いつものようにトーストとホットコーヒーで空腹を満たしてからスーツに着替えて、少し離れた事務所に赴く。ポストから新聞を取り出して階段を上ると一人の老婆が待っていたのだ。


『失礼ですが、どなたでしょうか』と声をかけると、『依頼があってきました』と、か細い返答があったので僕は彼女を事務所の中に入れた。こんな朝早くにどうしたのか疑問に思いながらドアを開け、『ソファーに掛けてください』と言ってからデスクのPCの電源を入れる。起動するまでの時間を使って給湯室で日本茶を淹れて、茶菓子を探した。緑茶のストックを切らしそうなのに気づいて、そろそろ買い足そうと思ったのを覚えている。


『粗茶ですが、どうぞ』と言いながら、『ありがとう』と受け答える女性を観察してみた。僕が師と仰ぐ探偵も"観察こそ捜査の第一歩"と言い、人間観察が趣味だった。

(師匠、この趣味が原因で前の彼女にフラれたんんだったっけ……)


 年齢は見たところ60代前半、栗色の髪に眠たげに垂れた瞼。頬にあるシミと深々とした彫り込まれたほうれい線が老いを感じさせ、手のひらにタコなどは無く、ひび割れしていることから主婦だと思えた。化粧はしているが余り厚くなく、服装からしてかなり急いで来たようだった。というのも、階段下から見たときにコートの裾部分が重いものに押し付けられたかのように皺になっていた。恐らく自家用車かタクシーに乗ってきたのだろう。


『お名前と職業をお聞きしてもよろしいでしょうか?』と声をかけながら僕も向かい側のソファーに腰かけた。


『私は 佐藤 千恵 、職には就いていません』

 そう答えると彼女は一口お茶を含んで概要を話し始めた。

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