僕は聖夜に空を舞い

南総 和月

街角


12月24日(日)PM 6:20



「綺麗なものだな……」


 華やかなイルミネーションに談笑しながら歩く人々、可愛らしくデコレーションされたケーキが店頭に並び街並みを彩っている。年末とあって忙しなさが街を包んでいるが活気に満ちている証拠なのだろう、ステンドグラスを彷彿とさせる美しさまで感じられる。


「人は美を直接的感覚だけでなく超越的感覚でも感じるというが、人の手が加えられても変わらないものらしい」


 独り言、そう独り言だ。僕が普通のサラリーマンならこの喧騒の中にいるに違いない。仲間外れみたいなもので少し物寂しいが、もしかすると憧れなのかもしれない。


 聖夜の夜に仕事をするとはなんと無粋な……


 この仕事が転がり込んできたのは一週間ほど前、僕の探偵社にある淑女が訪れた。彼女は僕に言ったのだ『雪の雫を』と。


 僕の本業はあくまで探偵だ。でも現代日本の治安の良さは世界でも指折りで、凶悪犯罪などそう簡単には起きない。巷に転がるトラブルを解決するのが僕の仕事で、警察に協力することは少ないけれど猫探しから浮気調査まで手広く請け負っている。刑事ドラマのような日々ではないが、なかなかに面白い毎日を過ごしているのだ。


 ただし何事にも例外はあって、依頼の裏メニューとして簡単な盗みをはたらくことがある。ただ、あくまでも調査の一環で浮気の証拠や会計処理のUSBなどなど……ちょいと拝借してすぐ返す、そんな感じだ。


 なので、最初から盗みの依頼をしてきたのはこの淑女が初めてだった。

 探偵事務所に来て盗みの依頼をするとは奇妙な話だが、僕は引き込まれてしまった……


 爛々と輝く瞳から生まれた光に……

 かすれた声が紡ぎ出す彼女の話に……



 そう、魅入られてしまったのだ。









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