385:きゃあぁぁ〜!!!!!
ケンタウロスって、でっかいな~。
小さいとは思ってなかったけど……、まさか、こんなにでかいとは思わなかった。
推定身長2トール以上、大きい奴ならギンロより頭一つ分……、いや二つ分でかい。
シーディア以外はみんな男性で、上半身の人間部分は揃いも揃って厳つい顔、厚い胸板にゴツゴツとした腕と、筋肉隆々の逞しい肉体を誇っている。
そして何より、下半身に当たる馬の胴体の迫力が凄まじい。
こちらも長さが2トールほどあって、ピグモルなら優に十匹は乗れそう。
ガッシリとしたその体は、どちらかというと競走馬よりも道産子を連想させ、足回りも太くて、蹄は俺の顔よりデカそうだ。
そんなドッシリとした肉体を持ち、更には武装した姿で周りを囲むケンタウロス達を、俺はまじまじと観察しながら森を歩いていた。
実のところ、連行されているといっても、手を縛られたり後ろから小突かれたりしているわけではない。
最初こそ、その見た目と雰囲気にかなりビビっていたわけだけど……
ケンタウロス達は、特に手荒なことをするわけでもなく、割と丁寧に俺たちを扱っている。
それどころか、グレコとカナリーに対して彼らは……
「お嬢さん、私の背に乗るかい?」
「疲れているだろう? 遠慮はしなくていい」
「君は本当に美しいね」
「これも何かの縁だ。名前を教えてはくれないかい?」
「僕は今、一生に一度の運命を感じているよ」
などなど、まぁ~口が軽い!
聞いているこちらが恥ずかしくなるくらい、甘い言葉の数々を、息するように囁くケンタウロス達。
好色という噂は本当だったらしく、ここぞとばかりに優しい笑みを称えながら、ずっと二人を口説いているではないか。
だがまぁ、厳戒態勢の二人は、そんな彼らを完全に無視していた。
「なぁシーディアさん、一つ聞いてもいいか?」
シーディアのお尻に夢中だったはずのカービィが、真面目な声を出す。
まさかとは思うが……、変な事聞く気じゃないだろうなっ!?
「駄目だ。族長に会うまでは口を開くな」
シーディアの一刀両断に、カービィはしょんぼりした様子で口を尖らせた。
良かった……、何を聞くのかとドキドキしたぜ、ふぅ~。
そうして森を歩いて行くこと数十分。
鬱蒼と木々が生い茂る薄暗い森の中に、眩しい太陽の光が挿し込む、明るくて開けた土地がポッカリと現れた。
「ここがケンタウロスの……、蹄族の里だよ」
シーディアに聞こえないように気を付けながら、メラーニアが小さくそう言った。
そこには、広大な麦畑が広がっていた。
どれくらいの広さなのかは分からないが、かなり広い事だけは確かだ。
空高く上った太陽の光を受けて、麦の穂は黄金に輝き、風に吹かれて気持ち良さそうにそよいでいる。
そしてその畑では、大小様々なケンタウロスが、みんなで農作業をしている姿があった。
「凄い……、ケンタウロスが文化を営んでいるという説は、正しかったんだ……」
マシコットが、感嘆したような声色でポツリと呟いた。
「こりゃ~また……、学会に報告しなきゃならねぇ事が一つ増えたな」
カービィがマシコットに向かってニヤリと笑った。
その手に農作業用の鍬(くわ)や鎌を持ち、背に収穫用の籠を背負った沢山のケンタウロス達の視線を感じながら、俺たちは歩く。
ザッと見た感じだと、その数は百を超えそうだ。
大きさこそ様々だが、老若男女問わず、みんな立派な体付きで、とても迫力がある。
ケンタウロスの家は、麦畑の周りを囲む木々の間に造られているのだが、かなり簡易な物だった。
正直なところ、本当にあれは家なのか? と、俺は首を傾げたのだが……
家財道具らしき物が中に置かれているので、おそらくそれが、彼らの家の形なのだろう。
地面から1トールほどの高さに床を置いた、高床式のとても簡単な造りのその家は、この森特有の大きな木を中心の柱とし、頭上高くに屋根を設けてある。
壁がない為に、それを家と呼んでもいいものか甚だ疑問だが、良く言えばリゾート地によくあるようなガゼボ、悪く言えば……、ちょっとお洒落な馬小屋だ。
……うん、全くもって家とは思えないな。
あんなので雨風が凌げるのだろうか?
シトシト雨ならまだしも、豪雨の時は中までびしょ濡れだろうに。
どうして壁を作らないんだ?? 何故だ???
頭の中にクエスチョンマークをいくつも浮かべながら、俺は彼らの家を遠目に見ていた。
ふと視線をずらすと、奇妙なものが視界に映った。
家々が建ち並ぶ森の木々の陰にいる、男女のケンタウロスだ。
何やらイチャコラしているようだが……、真昼間とは思えないほどに濃厚で、18禁並みの大人な営みが行われているではないか。
うわぁっ!? 駄目駄目っ!!?
見ちゃ駄目だっ!!!?
あまりに衝撃的な光景に、俺はボッ! と顔を赤くして目を背ける。
そんな事もはつゆ知らず、営みを続けるケンタウロスのカップル。
俺は聴覚も良いので、それを見てしまった後となると、艶かしい声まで聞こえてきた。
ひぃいぃぃ〜〜〜!!!!!
しかも、よくよく聞いていると、どうやら一組だけではなさそうなのだ。
声のする方に視線を向けると、あっちでイチャコラ、こっちでイチャコラと、節操のない光景がいくつも目に入ってきた。
な、なんて事だ……
ピグモルとして転生してからというもの俺は、これまでずっと、あの手のイチャコラとは無縁の生活を送ってきたのだ。
あんな、あんな……、破廉恥なぁっ!?
俺には刺激が強すぎるぅっ!!!
きゃあぁぁ~っ!!!!!
「……え? ちょっとモッモ、顔が真っ赤よ?? 大丈夫???」
顔を両手で覆い、俯き加減にモジモジとする俺に気付いたグレコが、すかさず声をかけてきた。
「だだだっ!? 大丈夫ぅっ!!!」
お願いっ! 今はそっとしておいてっ!!
「シーディア、そいつらは何だ?」
誰かに声をかけられて、前を行くシーディアが歩みを止めた。
それに伴って、周りを囲んでいた武装ケンタウロスも足を止め、俺たちもピタリと動きを止めた。
俺も、赤面をやめて止まった。
「ゴリラーン。こいつらは侵入者だ。族長に会わせて処分を決めてもらう」
シーディアが答えた相手は、名前に相応しいゴリラ顔のケンタウロスだ。
鼻が大きくて、目がつぶらで、更には下半身の毛並みが全体的に黒い。
ムッキムキの筋肉質な体に、背中には収穫された麦の束が山程乗っている。
……ただ可哀想な事に、その名前と容姿だというのに、ゴリラーンは女性だ。
その逞しい上半身には、かなり平らだけど、ちゃんとお胸があります。
「ぶっ! ゴリ……!?」
思わず吹き出すカービィ。
やめろカービィ!
我慢するんだっ!!
首をもがれるぞっ!!?
「侵入者? 聞き捨てならないね……。うちのもいるようだが??」
そう言ってゴリラーンは、チラリとこちらに目を向けた。
「姉さん、ごめんっ! 助けてっ!!」
声を上げたのはメラーニアだ。
目の前のケンタウロスに対し、かなりバツが悪そうな表情で助けを乞うているが……
「ぐっ!? ……ふっ!??」
俺は思わず吹き出してしまい、慌てて口を押さえた。
姉さんっ!?
何を言い出すんだっ!??
このゴリラ顔のケンタウロス女がメラーニアのお姉さんっ!?!?
……ぶふっ! 面白すぎるだろっ!!
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